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悪役からヒロインになるすすめ  作者: 龍凪風深
三章 白蛇の御手付き
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49 呆気ない脱出

今月、二話目投稿です。

引き続き主人公のターン!

 「おい、考え事なら後にしろ!」

 「った?!」


 小気味いい音を立てて、私の頭が新垣先輩の手により、チョップされる。

 私は小さく悲鳴を上げ、痛みを発する頭に手を当てると、恨めしげに新垣先輩を睨む。


 「こればっかりはそこな狼の言う通りなのじゃ」


 あ、こーちゃんは新垣先輩の味方なのね。

 いや、まあ、全てはこのタイミングで考え事し始めた、私が悪かったんだけど。


 「ほれ、鎮馬よ。はよう乗れ。その傷では急げまい?」

 「うん、お願い」


 確かに、腹痛、貧血、目眩、倦怠感、右腕骨折、打ち身だらけ、その他諸々……正直、歩くのも辛い現状。

 その申し出は有り難かった。


 私の前に背を向け、しゃがみ込んだまーさんに私は一言返し、鞄を手に通した後、骨折している右腕を庇いながら、遠慮がちにその背に身体を預けるが、まーさんからの「しっかり掴まらんと落ちるぞ」の言葉で、落とされるのは嫌だな、とまーさんの肩に置いていた手を、首に回す。

 片手しか使えないから、どうにも安定はしないが、やはり首に手を回した方が、まだマシか。


 首に回した左腕に、僅かに力を入れる。

 布越しに触れた身体から伝わる体温に、内心で安堵した。


 幼少期以来だろうか、こうして誰かに背負われるのは。

 高校に入ってまで、こうされるとは思わなかった。

 けれど、この懐かしい背中はいつでも安心出来る。


 私は、死なない。殺されない。

 原作の綾部鎮馬わたしには居なかった味方が居る。

 私には、助けに来てくれる二人が居る。

 そう思わせてくれる。


 幼少期のあの日もこうやって、迎えに来てくれた。

 背に私を乗せて、「もう大丈夫だ」て……。


 「あ、れ……あの日は、何が……?」

 「どうした? 行くぞ、鎮馬や」

 「あ、あー、何でもない。行こう」


 首を傾げ、こちらに顔を向けたまーさんに、私は首を横に振る。


 今考える事じゃない。

 今は一刻も早くここから逃げ出す事を考えなければ。


 怪訝そうな顔をしながらも、まーさんは私の言葉に従い、歩き出す。

 先頭は何故か新垣先輩で、真ん中が私とまーさん、後ろがこーちゃんの順だ。


 辺りを警戒しつつ、小走りでやしろ内を進む。

 度々、踏み込んだ床から軋む音が響く。

 儚神ぼうしんの社にしては、視界に映る内部は割りと綺麗だった。

 建て付けが古い以外、蜘蛛の巣もなければ、埃が溜まっている感じもない。


 あの白慧が掃除なんてする?

 ああ、低級の妖怪にやらせてるのか。


 「ねぇ、出口って何処?」

 「出口はなぁ、社の裏手じゃ」

 「そりゃ、また分かりやすい所に……」

 「あの蛇は弱り掛けじゃ、力を使ってから数時間では回復できまい。よって、隠蔽さえ上手くすればバレまいよ」


 前を向いたまま、まーさんが私の問いに答える。


 ……ん? 力を使って数時間?


 「え、まーさん、今何時?」

 「今は夜の八時じゃな」


 わぁ、私、三時間近くも寝てたのね。


 「そっか」と頷くと、まーさんも小さく頷いた。

 三時間も経っているなら、もしかしてそろそろ学園から誰か来るのではないだろうか。


 そうなると、この展開は不味い?

 そもそも、学園の助けもなしに、助かった時点で、式神の露見か、正体の露見か、はたまた新垣先輩の知人、友人説か、何れにせよ疑われるのは免れまい。


 「こっちじゃよー」


 社の裏口に辿り着き、こーちゃんがにこりと笑う。

 どうやら、無事に脱出出来そうだ。


 この間、白慧はおろか、見張りと思われるものとすら遭遇せず、些か違和感を覚えるが、このまま留まっている訳にもいかない。


 新垣先輩の「あぁー、だりぃ」と言う何とも緊張感のない声を聞きながら、社を出る。

 月明かりがほんのりと照らす、薄暗い社の裏手。

 外に出て最初に目にしたのは、恐らく境内を含む社全体を覆う透明な壁──結界だった。


 流石は、神様。神を祀る社。

 と、言うべきだろうか。

 立派に張られた結界は容易に解除出来そうにない。


 これは、私的にもぶっ壊すのが手っ取り早いと思う。

 解除しようが、破壊しようが、バレるのは同じなら早い方法で、てなるし。

 バレないように、この結界に手を加えるのは骨が折れそう。


 「あ、本当に穴あった」


 視線の先、ご立派な結界に人二人分くらいの穴が空いている事に気が付き、思わずそう口から零れる。

 透かさず、こーちゃんが「なんじゃ、鎮馬。わちき等を疑っておったのか?」と、唇を尖らせるで、慌てて謝って置いた。


 そして、私達四人は穴を潜り、結界内から外──裏手の森へと出た。


 「これで奴と暴力女に貸し一つだなぁ」

 「……へ?!」


 結界から出るなり、新垣先輩は此方へ振り返ると、ニヤニヤと嫌らしい笑みを浮かべながら告げる。

 私は告げられた意味を一瞬理解出来ずに、素っ頓狂な声を上げる。


 え、え、何か狡くない?

 依頼者にも貸し、私にも貸し、て何それ。

 これこそ、「助けてなんて言った覚えないんだからね!」て奴じゃないのか。

 ああ、頭まで痛くなってきた。


 「……貸しは、依頼主にだけなのでは?」

 「誰に頼まれたにしろ、助けた事には変わりねぇだろ?」


 それはそうだが、じゃあ、まーさんとこーちゃんの存在はどうなる。

 まーさんなんて、現在進行形で私抱えてるんだけど。


 「わちき等の存在は無視か?」

 「わし等も動いたからなぁ、鎮馬への貸しなぞ認められんなぁ?」


 こーちゃんとまーさんがすっと目を細め、新垣先輩を睨み付けた。

 その声が、心なしか低く冷たい気がする。


 「……チッ、今回は奴への貸しだけにしといてやるよ」


 あ、意外と新垣先輩弱い?

 ちょっと、小者臭が……。


 「あぁ?!」


 え、何でそんないきなり凄んでくるんですか、新垣先輩。


 「全部口に出ておるぞ、鎮馬や」


 口元ににんまりと三日月を描いたまーさんが、愉快そうに告げる。


 く、口に出てたか。気を付けよう。


 誤魔化すように新垣先輩に向かい、苦笑を浮かべてみる。

 新垣先輩は思い切り眉間に皺を刻んだ後、「後で殺す。絶対ぜってぇ泣かす。犯してやる」とボソボソと危険思想を呟きながら、歩を再開させた。

 それに続き、まーさんもこーちゃんも再び歩き出す。


 勿論、新垣先輩の呟きは全力スルーである。

 新垣先輩との戦闘フラグとかもう要らない。

 全力で叩き折って、全力で返却します。


 まーさん等二人も気にしてないようなので、私も極力視界に入れないように努めた。

 少し冷たい夜風を浴びながら、帰路を目指して歩く。


 それにしても、こんなに……こんなに、簡単に神様から逃げられるもの……?


 「鎮馬? ああ、依頼主なら先に戻っておるぞ?」

 「そっか、分かった。ありがと」


 怪訝そうな表情でもしていたのか、それを少しずれた解釈をしたまーさんから、依頼主の情報を聞かされる。

 依頼主の所在は気になってたから、まあいいんだけど。


 問題は、見張りもいない場所に私を放置し、あっさりと逃げ出せた現状なんだよ。

 ヒロインが拐われた時はもっとこう、執着心と独占欲を全開に追っ掛けてた、と言うか。

 今は拐われたのが私だから、そんなに対応されないだけかもしれないけど。


 「……鎮馬よ、あの儚神が気になるか」

 「え」

 「あれには関わらん方がよい。あれはもう堕ちるぞ。直にな」

 「堕ちる、もう早……?」

 「単純な力の使い過ぎじゃ。このままいけば消える。じゃが、奴には憎悪もあれば、憤怒も悲哀も後悔も情愛も、そして未練もある。大人しゅう消えはせんじゃろう。なれば、後は堕ちるしかない」


 まーさん、ではなくこーちゃんが、いつもは無邪気に笑い、陽気に振る舞う彼女が、いつもの爛漫さを仕舞い、真剣な面持ちで真っ直ぐに私を見つめると、白慧に付いてを語る。

 いつ、あの蛇を見たのか。

 いつ、あの蛇を知ったのか。


 何となく、こーちゃんは白慧の過去を、ゲーム内で明かされた以上の感情を理解しているような気がした。

 ゲームのシナリオとして、白慧の過去を、人格を知った風でいる私と違って。


 「堕神おちがみと関われば禄な事にならん。はよう帰ろう、鎮馬」


 こーちゃんが優しい声色で、幼子にでも言って聞かせるように告げる。

 私はどう返していいか返答に困り、ただ黙って頷いた。



.


次回は生徒会のターンになります!

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