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悪役からヒロインになるすすめ  作者: 龍凪風深
三章 白蛇の御手付き
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48 意外な救出者

お待たせしました!

主人公のターンです。


 これからどうしたものか。


 白慧の出て行った室内、ベッドに腰掛けながら思案する。


 退室する際、白慧がもう毒の心配はないと言っていたのだが。

 どうやら、緋之瀬先輩が毒を吸い出したのと、お祖母様の解毒剤がちゃんと効いたらしい。

 前者は出来れば、聞きたくない事実だった。


 私の血を口にした、て事は霊力を誤魔化しているのがバレた、と考えた方がいいだろう。

 早くここを抜け出さなければならない、と考えていたのだが、抜け出したら抜け出したで、色んな問題が山積みになってる気がしてならない。


 ああ、もう、本当……私の逃走経路はまだ残っているのか。

 いや、恐らくないな。

 そもそも、白慧に誘拐される前からないんだから、尚更だ。

 せめて、安倍家である事は隠さなければ。


 「まあ、何より……ここから逃げ出さない事には何も始まらないか」


 小さく溜め息を吐き、ぽつりと一人呟く。


 白慧の望みはよく分からない。

 本来、与幸よたかかんなぎを欲する筈の白慧は何故か、大嫌いな安倍の陰陽師であると知りながら、私を誘拐するし、その目的が“答えの提示”だし。

 はっきり言おう。

 お手上げ、意味分かんない。


 おまけに、失望させたら殺すよ、て何だ、おい。

 私はお前の下僕でも奴隷でもないぞ。

 よって、お前に従う義理なんて私にはない!


 「はあぁぁぁ……装備もなしにどうやって逃げよう」


 取り敢えず、目下の問題はそれである。

 私は身一つで白慧に誘拐された。

 それはつまりだ、私には武器と呼べるものが何一つない。


 ポケットに忍ばせていた催涙スプレーは使い切ってしまったし、所持していた数枚のお札は血で汚れ過ぎて使い物にならない。

 そして、後の物は全て鞄の中だ。


 「あ……鞄の中、生徒会に覗かれたりしない、よね……?」


 覗かれたら最後、中にはお札、数珠、聖水から、清めのお塩まで、私が陰陽師である物的証拠がわんさかと。

 普段なら隠蔽術が掛けてあり、ぱっと見は学習道具にしか見えないようにはしてある。

 してあるけれど、私は一度気絶している事から、術の効力が切れた可能性があるのだ。


 まあ、流石にプライバシーがあるし、明らかに私の鞄である事を知っていながら、中身を漁ったりしないだろう。

 と、取り敢えず、思って置こう。

 でないと、それでなくとも穏やかじゃない内心が、更に荒れる事になってしまう。


 ふぅ、と本日何度目かの溜め息が口から零れる。

 しなければならない思考は、まだまだ沢山。


 「……? ひぎゃあっ?!!」


 思わず、女らしくない悲鳴が口から飛び出た。

 いや、だって、仕方ないじゃないか。

 これは誰だって、色気のない悲鳴が出るに違いない、と自己弁護してみる。


 ふと、見上げた視界の先、天井から突如として頭が生えたかと思うと、灰色、白色、白色、と飛び出し、それ等は軽やかに飛び降り、綺麗に床に着地して見せたのだ。

 少し位、大袈裟に驚いたって仕方ない。


 「あ? 意外とぴんぴんしてんじゃねぇかぁ! 暴力女!」

 「鎮馬! 無事か?! 生きておるかっ?!」

 「ほう、随分とやられたようじゃのぅ、鎮馬。やはりまだ修行が足りんかったか」


 灰色、新垣先輩から始まり、白色一号、小眞こま、白色二号、真來まこ、と順に私を頭の先から爪先まで、無遠慮に見つめていくと、各々違う反応をする。


 先ず始めに、一言いいだろうか。

 お前等、何処ぞの忍者だ。

 この、けも耳ーズめ。


 私はただ、何とも言えない面持ちで、三人を見つめる。

 すると、こーちゃんが不意に「鎮馬ー! 鎮馬ー!」と、勢いよく抱き付いてきた。


 私は何とかそれを受け止める。

 その際、ずきりと腹部と腕が痛みを訴えたが、気取られないように無視した。

 顔色を変えなかった私を、是非とも褒めて貰いたいものだ。


 「最近は呼び出しがなくて寂しかったのじゃぞ?」

 「えと、ごめん?」


 背中に手を回し、あやすように叩くと、こーちゃんはぐりぐりと額を私の肩に押し当てる。

 その仕草がまるで、母親に甘える幼子のようで、不覚にも笑った。

 それに、「むぅ」と、拗ねたようにこーちゃんが唇を尖らせるので、私は更に苦笑を零す。


 多分、暫く離して貰えないと思われる。

 それはまあ、良いとしてだ。

 問題は────


 「……何でまーさん達が居るの? 後、何故新垣先輩と一緒なの?」


 この二点である。


 どうやって追って来たかは、面子的に匂いだろうと分かるが、何故二人が来たのか、何故新垣先輩と一緒なのか。

 そこが私には分からない。

 二人の事だし、お祖母様に言われた可能性があるけど。


 「わし等がここに来たのはばば殿の先見の明でな、鎮馬が浚われるらしかったからのう」

 「それでな、それでな、あるじ様が鎮馬を助けておやり、と仰せられたので来たのじゃよ!」


 目を細めて告げるまーさんに続き、こーちゃんが私をぎゅっと抱き締めたまま言う。

 因みにここで言う婆殿はお祖母様の事で、主様は我が神社の祀り神様の事である。


 お祖母様と我が神社の女神様の計らいで、二人がここに居るのは分かった。

 けど、新垣先輩は分からない。


 「あ? 俺は利害の一致だ」


 じとり、と怪訝な視線を向けると、私の意図を悟ってか、新垣先輩が不機嫌そうに言い、そっぽを向く。


 利害の一致……?


 予想外の返答に、私は思わず新垣先輩を凝視しながら呆け、素っ頓狂な声を上げる。


 「は?」

 「……あ?」

 「え?」

 「あぁ?」

 「は?」


 不毛な掛け合いが続く。

 段々と新垣先輩の不愉快度が溜まっていくのが、目に見えて分かる。


 眉間の皺が深くなってますよ、先輩……じゃなくて、だ。


 「えっと……改めてお聞きしますが、新垣先輩が私を助けに来たんですか? 何故? 理由は?」

 「勘違いするなよ、暴力女。誰が好き好んでテメェを助けると? ……依頼だ。貸しを作っとくと便利な奴にテメェの救出を依頼されたから来た。ただそれだけだ。気持ち悪い勘違いはやめろ。反吐へどが出る」


 うわ、辛辣。


 心底嫌そうな顔で、早口で捲し立てられる言葉。

 流石の私でも傷付く、かもしれないと言うのを理解してないのか。

 実際の所、さして傷付いてはいないけれど。


 「おら、分かったらさっさと逃げるぞ」


 不意に、どさっと私の横に放られたのは、見慣れた私の鞄。

 私は鞄と新垣先輩を交互に見遣る。


 え、何で新垣先輩が私の鞄を?


 中から私の術式の名残が感じられるから、合ってると思うんだけど。

 うん、隠蔽術切れてるね。

 ぱっと見は分からないけど、中覗いたら術式の名残と内容で、私危うく陰陽師認定される所じゃない。


 あれ、でも、鞄は確か、白慧に拉致される際に落としてきた筈。


 「奴が生徒会からパクってきたのを返して置いてって、渡されたから返したんだよ。何だ、文句があんのかぁ? いらねぇなら捨ててくるぞ?」

 「いや、要りますから。私のですから。学校鞄ですから! ありがとうございます!」


 顔に疑問が出ていたらしい。

 物凄く喧嘩腰に、簡易的な説明をされる。

 私は鞄を手元に引き寄せ、早口にお礼を言った。


 「さて狼の言う通り、さっさと逃げるぞ、鎮馬」

 「ほむ、早うせんと折角開けた穴が戻ってしまうのじゃ」


 まーさんの言葉に、こーちゃんが同意するように頷くと、やっと私を解放する。

 こーちゃんの熱い抱擁から解放された私は、首を傾げながら、こーちゃんの言った何とも気になるワードを復唱した。


 「……穴?」


 穴、て何?

 何処に開けたの?

 おまけに戻るって……。


 「白蛇が社に張っておるのじゃよ、結界を」

 「それに穴を空けたんじゃ」

 「気付かれんようになぁ? 狼の奴の依頼者がなぁ」

 「なのじゃ! 黒いローブの黒魔術然とした風貌の者じゃったぞ」

 「其奴が、呪具を用いて穴を開けたんじゃよ」

 「見るからに怪しかったぞ!」


 まーさん、こーちゃん、まーさん、こーちゃん。

 式神の二人が交互に喋り、交互に私の疑問に答える。

 どうやら、白慧はゲーム通りに結界を張っているらしい。


 「く、黒いローブの黒魔術然とした……? 呪具、怪しい。確かに、聞いただけでも怪しげな人物像が浮かぶんだけど……誰、それ。私の知り合いに黒魔術使いそうな人なんて居ない、と思うんだけど」


 私は困惑の表情を浮かべ、首を傾げた。


 それにしても、気付かれないようにとは言え、随分凄い事をする依頼者だ。


 ゲーム内、シナリオに置いて、白慧の張った結界は、生徒会組と八神先輩の力業にによって破壊、突破されるのだが、この時、結界を破壊された事により、白慧と直ぐに交戦となる。

 大っぴらに行った救出作戦は、ヒロインに危害が加わる可能性もあれば、神との交戦が必須事項になってしまう。

 けれど、気付かれずに、破壊せずに結界を通る方法が生徒会等にはなかったのだ。

 故に、その方法で行われた。


 今回、曰く私の救出依頼者は、呪具を用いて結界に穴を開けたと言う。

 それはとても高度で、おまけに術者の気付けないように、だなんて尚更。

 依頼者は相当無理をしたか、相当力が強いか、はたまた結界の専門家か。


 恐らくは前者二つな気がする。

 相当、無理をしたのでないだろうか。

 霊力を多大に消耗し、身を削り、相当の負担を負った。


 生徒会組には出来ない事を、依頼者はやってのけた。

 そもそも、結界に穴を開けられるような呪具なんて、そうそう手に入るものじゃない。

 おまけに、使用する呪具が強力であればある程に、それは使用者を蝕む。

 使い方を一歩間違えれば、使用者は喰われ、呑まれ、壊される。


 依頼者は何故、そんなリスクを犯してまで私を助けようと思ったのか。

 それも、被害者わたしの最も、生存率が高くなる方法で。


 与幸の巫と違って、私には殺されるリスクがある。

 但し、今回、白蛇神が相手の際のみだ。


 本来、与幸の巫にも食い殺されるリスクはあるのだが、白慧に限っては限りなく零に近い。

 人の子を喰らえば、神は穢れるからだ。

 殺すのならばまだ浄化出来るが、喰らうのだけはいけない。

 喰らいたいならば、眷属に落としてからでなければ、神の御霊は穢れる。

 一度穢れてしまえば、後は堕ちるだけ。


 ああ、随分と話が脱線してる。


 要はだ、客観的に見て、巫が浚われた場合と、一般人(仮)が浚われた場合の生存確率は後者が著しく低いのだ。

 だから、多分、依頼者は私の死亡フラグを少なくする為に、この手段を取ったんだろう。


 だとしたら、黒魔術然とした風貌の依頼者って……何者? 人間? 妖怪?

 私を助ける理由は、何?




.

意外な救出者はけも耳ーズでした!

お三方、久々の登場です。


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