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悪役からヒロインになるすすめ  作者: 龍凪風深
三章 白蛇の御手付き
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45 蛇神との攻防の結末

長らくお待たせ致しました!

やっと、45話目です!


 「溜息さん、北條さん……おれ、おれは」


 翔真はまだ天狗の姿に戻るでもなく、かただ困惑しながら、捕らわれの満月と傷だらけの鎮馬、鎖錠裁刃の術を受ける蛇達を視界に映す。

 まだ、まだ思考が追い付いていない。


 「翔真! 考えるのは後よ、今はこの蛇を……!」

 「さ、咲奈せんぱっ……は、はいぃッ!」


 咲奈が翔真に叫ぶ。

 翔真がはっとして、妖気を解放し、背に黒い翼を纏った。

 悠里、蒼樹、咲奈、翔真、享椰、五人は周囲の残りの大蛇を薙ぎ払い、式陣を睨み付ける。

 仮にも蛇神がこの程度で終わる訳がないのを、皆理解しているのだ。


 「水壁すいへき

 「……っ」


 眩い光の中、白い刃に身を貫かれ、ぼろぼろと消え去る残り最後の大蛇達。

 その中央に、白慧だけは無傷で立っていた。

 強い神気と妖気で出来た、水の壁が白慧を覆い隠し、鎖錠裁刃の洗礼を全て防いだのだ。

 そうして白慧は無傷で笑って見せる。

 享椰の背を、冷や汗が伝った。


 「あれ? もう蛇居なくなっちゃったか。まあいいや。ね、もう飽きたよね? うん、飽きた飽きた。だからさ、巫と鎮馬ちゃんを交換しようよ?」


 「ねぇ、いいでしょ? ふふふふふ」と、白慧は楽しそうに笑いながら告げた。






 駆け出した享椰を横目に、怜也は鎮馬の血の滲んだジャケットを脱がし、片手でネクタイを解く。

 理皇は、怜也の様子を窺いながらも、念の為結界を維持した。


 「……綾部、起きた時、俺を殴って構わない。だから、今は、すまない」


 怜也は申し訳なさそうに顔を歪めると、鎮馬の腹部が血で赤黒く染まったワイシャツのボタンを、下から丁度胸元の手前まで外す。

 露になった赤の目立つ、痛々しい白い肌。

 芳しい血の香りが、怜也の鼻腔を刺激する。

 一瞬、血の香りの濃さに、理性と恍惚の狭間に、眉根を寄せた。


 「っっ……」

 「噛むんじゃねぇぞ、緋之瀬怜也」


 瞳孔が開き、赤く染まる瞳。

 間髪を容れずに、理皇から低い声で制止の言葉が掛かる。

 怜也は「分かってる」とぶっきら棒に告げ、鎮馬の身体を支え直す。

 大きな蛇の噛み痕から、血の伝う腹部に怜也はゆっくりと、舌を這わせた。

 鎮馬の身体がびくりと、僅かに跳ねるが、余り気しないように、傷回りの血を舐めとり、傷口に口付ける。

 口内に僅かに広がる、蜂蜜のように滑らかで、濃厚な甘味。

 怜也は途切れそうになる理性を、何とか繋ぎ止めながら、慎重に慎重に、体内の毒を、余分な血液を奪わないように、集中して毒だけを吸い出す。

 じゅるり──液体を啜る音と、液体を吐き出す音。

 それに、時折、鎮馬の口から零れるのは、苦悶の呻き声。

 甘味の後、毒の生臭いような苦味が口一杯に広がる。

 まるで、溶かしたチョコレートに粉薬を混ぜたような不味さに、思わず顔を顰めながらも、怜也は毒の吸い出しと吐き出しを繰り返す。

 吸血鬼の性もあってか、吐き出し切れなかった血液と毒が数度、喉を通った。


 「……っは!」


 ゆっくりと口を離し、深呼吸。

 これで、鎮馬の体内の毒はあらかた吸出した筈だ。

 片手で口を拭う。

 今だ口内を、苦味と甘味が混在していて気持ち悪い。

 怜也は多少ふら付く身体で、静かに鎮馬を抱え直す。

 どうやら、白慧の毒は予想以上に強く、キツいものだったらしい。

 動悸とふら付きを覚える身体に、やはり神の毒は吸血鬼である自分にも、ダメージを与えうる毒だったのか、と僅かに自嘲した。


 「っ理皇、後の止血を頼む」

 「……ああ」


 理皇は刀から手を離し、怜也と鎮馬に近付くと、膝を付く。

 怜也がそっと、鎮馬を地面に横たえた。


 「……治癒は、苦手だ。止血程度しか出来ねぇ。悪いな、鎮馬」


 理皇はそう言って鎮馬の傷口に手を翳す。


 「我が身、我が力を用いて、陰陽の名の元、癒せ。癒渡ゆと


 翳した手より、自らの霊気を傷口へ。

 淡い薄緑色の光が零れる。

 理皇は、初歩の治癒術たる癒渡で、自らの力を分け与える事で、止血を行った。

 僅かに塞がり、何とか血の止まった傷口に理皇と怜也は、息を吐き、鎮馬の衣類を整える。

 これで、どうにか……後は……。

 二人は、満月達の様子を窺うように視線を上げた。


 「っそ、そんなの……!」

 「ふーん? 交渉不成立? いいのいいの? 巫死んじゃっても?」


 渋る享椰に、不服そうに唇を尖らせる白慧が視界に映り、二人は眉を寄せる。


 「……いーよ。人質の価値すらないなら、殺しちゃうからさ」


 陽気な声と共に、また指が鳴らされる。


 「っっ?!!」


 空気が洩れる音が、この場に響く。

 透明度の高い水箱の中、多量の水泡が広がり、満月のアプリコットの髪が、浮き上がるように散らばる。


 ──苦しい。嫌。苦しい。息が出来ない。


 突然、酸素を奪われ、水中に放り出される身体。

 唐突な呼吸困難に、苦悶の表情が浮かぶ。

 開いていた目が、水に触れて僅かに痛み、衣類が水分を多量に含み、重くのし掛かる。

 早く早く、ここから出ないと、死んでしまう。

 藻掻くように手足をばたつかせても、意味はなかった。

 身体は、この水の箱に捕らわれたまま、満月の殺生与奪の権限は今、この白く歪んだ蛇の神様の気分次第。

 何も出来ずに、ただ溺れる。


 「っっ……止めろ、白蛇神っ!」

 「っ蒼樹!」


 蒼樹が駆け出し、享椰がそれに続く。

 白慧はにんまりと笑い、「水龍」と先程同様に術を行使。

 生み出された水の龍は蒼樹へ。


 「チッ……!」

 「おいっ……」


 理皇の舌打ち。

 怜也等を包む結界をそのままに、渦中に飛び出す。

 防御は享椰がやるだろうと判断し、理皇が白慧本体を狙う。


 「結!」

 「風壁ふうへき!」


 水龍に飲まれる前に、享椰の符術結界が蒼樹を、翔真の起こした風の壁が咲奈と悠里を包む。

 また水が弾けた。


 「くそっ、見えないっ……!」


 再びこの空間を水が覆い隠し、蒼樹が悪態を付く。


 「ありがとう、翔真」

 「いいい、いえ! 咲奈先輩が無事ならそれで……! あ、悠里先輩も!」

 「翔真、オレはついで? まあ、咲奈ちゃんとオレは水と相性悪いから助かったけどさ」


 咲奈に微笑み掛けられ、頬を染めた翔真に悠里が場違いだとは思いながらも、ツッコむ。

 三人は今暫く、動けそうになかった。


 「っ……面倒臭めんどくせぇ事してんじゃねぇよ、蛇野郎が」

 「ん~?」


 透明な視界不良。

 大雨の如く、弾けた水龍が先程よりも多量の水を辺りにばら蒔いていた。

 理皇は降り注ぐ水の中、気配を頼りに白慧へ一直線に向かい、刀を振り上げる。

 白慧を狙い、白慧の動きに合わせ、振るわれる刀。

 水の影響で、鈍る攻撃。

 振るう刀はひょいひょいと、白慧に躱された。


 「ほらほら、早くしないと巫が溺れて死んじゃう」


 白慧の言葉に、理皇は今日何度目かの舌打ち。

 理皇は刀を握り締め直すと、白慧に再び刀を振るう。

 「黒炎纏こくえんてん」、理皇の紡いだ言霊と共に、現れた黒い炎が、刀の刀身部分に渦巻き状に包む。

 そして、白慧の居る方へ一閃。

 空中を切る刀から、生まれたのは黒炎の霊撃波。


 「っっ……!」


 咄嗟に、張られる水壁。

 白慧が、僅かに怯む。

 その隙に、理皇は満月の捕らわれている、水箱へ。


 「理皇くん……!! 水箱の解除を……!」


 言われずとも、分かっている。


 後方から響く享椰の声を聞きながら、理皇は大きく息を吸い込むと、霊力を自らに膜のように張り、水箱に勢いよく手を突っ込んだ。

 ずぷん──波紋を立てて、それは容易く理皇の身体を飲み込む。

 理皇はそのまま、勢いを殺さず、水箱の中心部へ。

 満月の手を掴み、引き寄せると、霊力の膜を広げ、丁度二人を包み込む。

 そして、刀を上から下へ振り下ろし、水箱を切り裂いた。

 ばちん──高い音を立てて水箱が弾け飛んだ。

 二人の周囲にだけ、また人為的な雨が降る。


 「ごほっ……ごほっ……は、ぁっ……八神、先輩……ッ綾部さん、は……?」

 「生きてる。一応な」


 ぐったりと力なく、理皇の胸へ凭れ掛かりながら、満月が言葉を途切れさせつつも何とか問い掛ける。

 理皇は満月の身体をしっかりと支えつつ、そう返した。


 「あっはっはっはっ!! 巫も鎮馬ちゃんも両方なんて駄目だよ? やっぱ、巫が大事なんでしょ? なら、鎮馬ちゃんは僕にくれなきゃね! そら、もう一回。水龍!」


 白慧の楽しそうな笑い声。

 理皇が直ぐに動けないのをいい事に、白慧は再び水龍を放つ。

 白慧が両手を広げ、一回転すると共に放たれたそれは、先程よりも多量の水で出来ていた。

 白慧はシニカルに笑い、理皇と満月に向かい手を翳す。

 すると、水龍は胴体を動かしたかと思うと、地を滑るように二人へ向かう。


 「ちっ……」

 「先、輩……?」


 理皇は舌打ちすると、満月の腰に手を回し、片手で支え直すと、長刀を構え直す。

 満月はぼんやりと不安げに呟いた。


 「満月!!!」

 「っ翔真!! 怜也に防壁をッ!!」


 蒼樹の満月を呼ぶ声と、享椰の指示が飛ぶ。

 唐突に名を呼ばれた翔真は、享椰の焦ったような声色に、返事をする事も忘れ、慌てて地を蹴り、翼を使い、怜也と鎮馬の元へ滑り込む。

 迫る水龍。理皇は、府術結界の構えを取った享椰と、怜也等の元へ向かった翔真を横目で確認した後、刀を逆手に持ち直し、そして、再び地面に刀を突き刺し、霊力結界を展開した。

 大口を開けた水の龍が猛スピードで、理皇と満月を包む結界に激突する。

 それはまた弾けて、まるで滝のように流れ落ち、視界を奪う。


 「……ちっ、あの蛇野郎」


 視界が多量の水で覆われる瞬間、理皇は確かに見た。

 白慧の唇が三日月を描き、「鎮馬ちゃんは貰った」と呟くのを、翔真の張った風壁を破る烏天狗よりは幾分小さい黒い翼を。

 水の打ち付ける音と、流れる音。

 嫌に長く感じる時間に、理皇は舌打ちする。

 ざあぁーざあぁー、頭上から最後の水が流れ落ちてゆく。

 やっと視界を覆う水が晴れる。

 そして、この空間に白慧と──鎮馬の姿だけが忽然と消えた。

 地面に倒れる怜也と、目を押さえる翔真を残して。







 宙を這う、白い大蛇の頭の上。

 黒い翼を羽ばたかせる少年を連れて、白慧は奪い取った鎮馬を、しっかりと横抱きにしながら、一人呟く。「やっとだ。やっと……!」。

 鎮馬は顔を蒼白に染め、ぐったり四肢を投げ出して、されるがまま。

 そうして、歪んだ白の神様は、ほくそ笑んだ。




.


大分、難産でした;;


そして、ついに主人公が白蛇に……!

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