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悪役からヒロインになるすすめ  作者: 龍凪風深
三章 白蛇の御手付き
45/66

44 塗り潰された意識の後

44話目、大変お待たせしました!


 口内一杯に酷い苦味が広がり、俯きがちに思わず顔を顰める。

 良薬口に苦し、て事だろうか。

 ぐるぐる回る脳内。揺れる視界。

 痛む傷口。流れ出る血液。

 何とも言えない気持ち悪さ。

 解毒剤が、効いてくれればいいのだけれど、そればっかりは、お祖母様を信じるしかない。


 「……ねぇ、頂戴。その娘、僕に頂戴。そしたら、助けてあげる」


 白慧が私達の前に歩いてくる。

 瞳に狂気的な光を宿しながら、そう笑って。


 「渡せと言われて、大人しく渡すと思うか?」

 「君達には鎮馬ちゃんを助けられない。ならさ、僕に渡すしかないでしょ?」


 緋之瀬先輩が、近付いてきた二匹の蛇を、一匹は蹴り飛ばし、もう一匹は口元から横へと引き裂くと、白慧に投げ付け、座り込む私を背に庇う八神先輩の更に前へ、丁度八神先輩と私を白慧から隠すように立つ。

 白慧は自らに飛んできた蛇の骸を器用に避けながら、表情を崩す事なく冷淡に言い放った。

 ふざけるな、この白蛇!

 何、私がもう助からないような事言ってっ……。


 「……え、ぁ……なん、で……?」


 ぐらり──視界が傾く。

 何で、何これ、どうなって?

 熱を持つ身体。動機が酷くなる。

 効かなかった? 悪化させた?

 お祖母様の解毒剤が……?

 いや、待って、あの人に限って。


 「?!」

 「……せんぱ……っ」


 後ろへと倒れてゆく私の身体。

 目を見開いた八神先輩が、私に手を伸ばした。

 ごめんなさい、八神先輩。

 私もう、無理みたいです。

 選択を間違えたかもしれない。

 八神先輩同様に目を見開き、焦ったような緋之瀬先輩の顔が見える。

 ごめんなさい、緋之瀬先輩。

 もう意識、保てないみたい、です。






 ◆




 「鎮馬!」


 叫んだ時には既に、彼女の意識は混濁していた。

 唐突にふらりと揺れた身体は、そのまま後方へ。

 理皇は目を見開きながらも、彼女の身体が固い地面にぶつかる前に、その手を掴んだ。


 「っ、おい……! ちっ!」


 力任せに手を引き、 己の武器たる刀が地に落ちるのも構わず、抱き止めた身体。

 理皇は呼び掛けに応じる事なく、死人のように血の気の失せた真っ青な顔で、瞼を固く閉ざし、ぐったりと肢体を投げ出す鎮馬に、無意識に舌打ちを洩らす。


 「八神! 綾部はッ?!」

 「……気絶してる」

 「……っ」


 理皇は鎮馬の身体を支えながら、焦る怜也に簡潔に言葉を返す。

 怜也はただ鎮馬と理皇を見遣り、顔を歪めた。


 「ほらほら、早くしなよー? 早くしないと死んじゃうよー? しーずーまちゃん?」


 白慧は変わらず楽しげに笑う。

 二人は青白い顔で瞼を閉ざした鎮馬の顔を見ながら、唇を噛んだ。

 白慧等の間に僅かな沈黙が降り落ちる中、享椰が事態の急変に、満月の事を蒼樹と咲奈に任せ、大蛇等の間を何とか抜けて慌てて駆け寄る。


 「白蛇神、与幸の巫を狙ってたんじゃないのかい?」

 「んん? んー……普通なら、そうしたかもねぇ? けど、僕にとっては巫はただの餌だし?」

 「何で、綾部さんを狙うんだい? 巫が餌なら、綾部さんは……?」

 「何だろうね、知りたいからかな」


 白慧は鎮馬等三人と自分の間に割り込んで来た享椰に、一瞬冷ややかな視線を向けるも、直ぐに笑顔に戻り、すんなりと受け答えした。

 その返答は、何とも理解しがたい。

 与幸の巫の満月と、ただの女生徒と思わしき鎮馬。

 もし、どちらかを選ぶとしたら、妖怪は間違いなく与幸の巫を欲する筈であった。

 なのに、何故、目の前の白蛇の神は鎮馬を選んだのか。

 訳の分からない現状に、享椰は眉を顰める。


 「知りたい……? それは、どういう……?」

 「君には関係ない事だよ? 天星院側の陰陽師。これは僕と彼女の問題だから、ね」


 白慧は享椰を視界に捉えながらも、何処か遠くを見つめ、呟くように拒絶の言葉を告げる。

 これは僕と彼女だけの問題であって、部外者には誰一人立ち入らせなどしない、と。


 「っ綾部をアンタに渡す気はない」

 「……そんな分からず屋だと、本当に鎮馬ちゃん死んじゃうよ?」


 享椰と共に鎮馬の壁になる怜也。

 白慧は「だからさぁ、諦めなよ」と、僅かに冷めた視線を注いで続ける。


 「八神、綾部を……」

 「何する気だ、てめぇ」

 「毒を吸い出す」


 訝しげに睨んでくる理皇に臆する事なく、怜也は告げる。

 血清がないのなら、解毒出来ないのなら、毒そのものを取り除けばいい。

 理皇の目が、更に鋭くなり、隣で享椰が眉を潜めた。


 「八神」

 「……させないよ? 喰え、水龍すいりゅう


 怜也がもう一度、急かすように理皇を呼ぶと、白慧の目がつり上がった。

 左右の手を広げ、くるりと軽やかに、舞いでも踊るように一回転。

 それに伴い、手の動きと共に生み出される水の線。

 それは次第に太くなり、先程の大蛇より一回り大きい龍のような形状を取り、身体をうねらせたかと思うと、享椰等四人を飲み込まんと、大口を開けた。


 「ちっ……!」

 「理皇くん! っ、結!!」


 理皇が素早く怜也に鎮馬を預けると、長刀を地から拾い上げ、霊力を込めて地面に突き刺す。

 次いで、享椰が複数の札を展開。

 怜也は引き渡された鎮馬の身体を横抱きにし、後ろへ下がる。

 瞬時に四人を覆うようにドーム状に張られた、理皇の霊力結界れいりょくけっかいと享椰の符術結界ふじゅつけっかい

 水龍はその二重結界に衝突し、多量の水となり弾け飛んだ。

 一瞬、水で世界が歪む。

 僅かな視界不良。


 「ねぇ、誰がさ、巫には手を出さない、なんて言った?」


 透明に霞んだ世界で、白慧の声はやけに耳に響いた。


 「きゃあぁあぁぁぁッッ?!!」

 「「満月?!」」

 「北條さん?!」


 満月の悲鳴と、蒼樹、咲奈、翔真の驚愕の声。

 まだ、視界は晴れない。

 怜也は享椰と理皇に目配せすると、その場に片膝を付く。

 そして、立てている方の膝と片腕で鎮馬を支え、血に濡れた服に手を掛けた。


 「っ怜也、綾部さんは任せたよ。毒を無事に吸い出せたら直ぐに緋紗良先生に連絡とるから。後、理皇くんはここで二人を守ってて」


 結界から水が全て滴り落ちた。

 開けた視界に映るのは、四角形の水に捕らわれた満月の姿と、その側でほくそ笑む白慧、激昂する蒼樹と悠里に、困惑する翔真と、白慧を冷たく睨み付ける咲奈。

 一瞬の内に変化した戦況に、享椰は再び顔を顰めると、理皇と怜也に指示を告げるだけ告げて、結界を飛び出す。

 それと同時に、符術結界が崩れ落ちた。


 「ふふふ、事前に仕込んどいたんだよ? 凄いでしょ? 水箱みずはこて言うんっ」


 白慧の言葉が不自然に途切れ、代わりに風を切る鋭い音が響く。

 悠里が拳を振るう音だ。


 「当たりなよ」


 自らの拳を、あっさりと躱し、距離を取るように後方へ飛び退いた白慧に、悠里は怒気の含んだ低い声を零す。


 「随分、巫山戯た真似する神様だね……今すぐ縊り殺して差し上げようか?」

 「へぇ、九尾が短気なんて僕初めて知ったよ!」


 狐の本性を現した悠里が、九つの尾を空中に揺蕩たゆたわせながら、白慧を睨み付ける。

 けれど白慧は、怒りに溢れるその妖気を気に留めた様子はない。


 「蛇神っ、貴様、満月を……!」

 「酸素はあるよ?」

 「満月を離して、頂戴」


 残り数匹となった大蛇が周囲をにょろにょろと徘徊する中、蒼樹、咲奈も悠里に続き、鬼と猫の本性を現し、白慧と対峙する。

 白慧は呑気なもので、聞かれてもいない水箱の術の説明を行う。


 「水箱はね、外側は水で囲われているけど、中にはちゃんと人一人分のまぁるい空気の空間があるんだよ? だからね、直ぐに窒息したりはしないよ?」

 「そんな説明、いいから! 北條さんを離してくれるかいっ?! 咎縛るは鎖、裁くは刃! 急急如律令!」


 ──鎖錠裁刃さじょうさいば

 享椰が再び札を展開。

 今度は防御ではなく、攻撃系の術を放つ。

 享椰の声に呼応するように、札を投げた一角、白慧と数匹の大蛇の真下に大きな式陣が浮かぶ。


 「へぇ」


 白慧が感心したように声を洩らす。

 その瞬間、黒い鎖が式陣内の標的を拘束。

 そして、無数の白い刃が対象を貫かんと、降り落ちた。




.


白慧の悪役っぷりが加速中です(笑)

主人公がフェードアウトしましたので、次回もヒロインや攻略対象組のターン続きます!

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