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悪役からヒロインになるすすめ  作者: 龍凪風深
三章 白蛇の御手付き
44/66

43 白蛇がニヒルに笑う

大変、お待たせしました!

悪ヒロ43話目でございます!


 避けろ、避けなきゃ。

 咄嗟に頭が、身体に指令を下すも、体調不良も相まって、遅れた回避行動が間に合う訳もなく、私は呆気なく迫り来る脅威に襲われた。

 この場には、白慧の側に居る二匹だけだと、勝手に思い込んでいたのが間違いだった。

 唐突に私の真横から現れたもう一匹の大蛇は、大口を開けながら、素早く私に襲い掛かる。

 まるで地に根を張ったように動かない足を押さえ、私はただ成す術もなく、身体をその大きな口で捕らえられた。

 その場で、蛇が首をもたげさせたせいで、宙ぶらりんになる身体。

 今私は、胴体部分を大蛇に咥えられている状態にあった。


 「っっ……は、離しッ……」


 私は慌てて、蛇から逃れようと手足をばたつかせて藻掻くも、蛇は私を傷付けないギリギリの力加減で、私を咥えたまま微動だもしない。

 ああ、もう、何これっ……何で私、捕まってるの?

 私を噛み殺す気じゃなかったの……?


 「鎮馬!」

 「綾部!」

 「っあ、く……?!!」


 刀身の黒い長刀を構えた八神先輩と、緋之瀬先輩が私を咥える蛇へと、向かう。

 けれど、それは白慧の指を鳴らす音と、私の苦悶の悲鳴により制止させられる。


 「駄目だよ?」


 ぱちん──小首を傾げて、ほくそ笑んだ白慧が無邪気そうに告げながら、もう一度指を鳴らす。

 っの、蛇野郎ッ……やっぱり、私を殺す気かッ……!!

 白慧が指を鳴らすなり、私を咥えた蛇は、ゆっくりとした動作で私の腹部を噛み砕かんと顎に力を入れ、もう一度鳴らされると、またゆっくりと力を抜かれる。

 軋む身体と、僅かに食い込んだ牙に、顔が苦痛に歪む。

 傷つけられた腹部に、じんわりと熱が滲むのが分かった。

 ッ腕の次はお腹か。

 私の状態を、顔を顰めて見つめる八神先輩と緋之瀬先輩を横目に、私は唇を噛み締める。

 どうやら、私は自力で助かるしかないらしい。

 白慧は今、私を助けようとすれば、私を殺すと、暗に言っていた。


 「白慧! 綾部さんを傷付けないでっ……!!」

 「五月蝿いなぁ。僕が何をしようと僕の勝手だろう? 与幸の巫は黙ってなよ」


 北條さんが泣きそうな顔で、今にも白慧に飛び掛からん勢いで、前に出る。

 白慧は鬱陶しそうに目を細めて、北條さんを見据え、また指を鳴らす。

 またか、と身構えるも、今度動いたのは白慧の側に控えていた一匹で、そいつは北條さんへ向かう。

 ……この蛇は、北條さんに興味がない?

 いや、そんな訳ない。

 殺そうとなんて、する訳ない。


 「っ北條さんは下がって! 咲奈ちゃん!」

 「満月、こっち!」

 「満月!」


 篠之雨先生が手を引き、北條さんを自らの後ろへ追いやり、亜木津先輩に引き渡す。

 亜木津先輩は、北條さんの手を握りながら、庇うように後ろへ隠し、更にその二人の前へ、天条くんが出る。

 確か、天条くん貴方自室謹慎中じゃなかったけ、とか、何で北條さんそんなに不服そうなの、とか疑問を抱きつつも、私は黙って白慧達のやり取りを見つめた。

 この蛇から逃れる術を考えながら。


 「忌々しいなぁ……そーだ、全員殺しちゃおっか」


 楽しそうに顔を歪めて笑う白慧に、ぞくりと背筋が粟立つ。

 また、指が鳴らされる。

 すると、わらわらと現れる数多の白い大蛇達。

 そして、その大蛇達が北條さん含む生徒会メンバーと八神先輩へ、襲い掛かる。

 益々、逃げられそうになくなる現状に、私は眉根を寄せた。


 「っっなん、なんだよ……?!」

 「翔真くん! 兎に角、数を減らして綾部さんを……!」


 群がり始める蛇達の攻撃を躱しながら、困惑の表情で呟く瀬戸くんに、篠之雨先生が声を上げる。


 「っっ……クソ蛇が!」

 「邪魔だ!」

 「あー、もう、うじゃうじゃと!」


 八神先輩は構えた長刀で蛇を凪ぎ払い、切り裂き、緋之瀬先輩は素手で殴り、蹴り、地面に叩き付ける。

 栞宮先輩も緋之瀬先輩同様、素手で応戦。

 北條さんは、亜木津先輩と天条くんに守られているから大丈夫だろう。

 問題は、やはり、私か。

 数多の大蛇と、笑う白慧。

 多分、不利なのはこちらだろう。

 何せ、相手は仮にも神様。

 準備もなしに、否北條さんを守りながら勝つなんて……無理じゃないのか。

 おまけに、私と言う関係者疑惑のある一般人と言う、邪魔な人質まで居るのだ。

 戦況は芳しくない。

 ああ、私は、私の力で助からなければならない。

 けれど、大蛇に咥えられた時に鞄は落としてしまった。

 何か、何かなかっただろうか?

 私はそっとスカートのポケットへ、手を忍ばせる。


 「……!」


 手に、硬質な何かが触れる。

 あ、とその正体に気が付き、それを握り込むと、ポケットから手を取り出す。

 もしかしたら、これで逃げられるかもしれない。


 「……っは、なっせ……この、蛇野郎ッッ!!」


 私を咥える大蛇の目を勘で狙い、手に掴んだ物──持ち運び簡単な小型の催涙スプレーを噴射させ、浴びせ掛ける。

 大蛇が驚いたように、怯んだように身を捩ると、身体を咥える顎の力が弱くなり、私を取り落とした。


 「っ……はっ、と……!」


 急に落とされた身体に、驚愕しつつも、右足から着地し、素早く鞄を回収、右手に引っ掛けた後に、痛む腹部を左手で押さえながら、大蛇達の比較的少ない、緋之瀬先輩と八神先輩の居る校舎側へ逃げる。

 途中、「ねぇ、僕から逃げられると思うの?」なんて、白慧が呟いていたのは、気のせいだと思いたい。

 私は何も聞いてない。聞いてない。知りません。

  

 「! 鎮馬、来い!」

 「は、はいッ……」


 命からがら逃げ出すと、いち早く八神先輩に名前を呼ばれる。

 私は咄嗟に返事を返しつつ、周囲の大蛇を蹴散らし、こちらに手を伸ばす八神先輩に向けて、血みどろで申し訳ないが、左手を差し出す。

 掴まれた手、引っ張られた身体は八神先輩の背後へ庇われる。


 これで、私は、助かった……のか? 本当に?


 「綾部ッ?! 怪我はっ……?!」

 「……血、出てて痛いですけど、大丈夫です、多分」


 緋之瀬先輩が血相変えて、慌ててこちらに駆け寄るのに、苦笑しつつ私は何とかそう返す。


 「多分、じゃねぇ。蛇に噛まれてる時点で無事じゃねぇだろ」

 「……ま、まあ、そうなんですが」


 透かさず八神先輩から、鋭い睨みと言葉を貰い、私は頬を掻いた。


 蛇に噛まれたのだから、早く病院に行くなり、処置しなければならないのは分かる。

 本当は大丈夫じゃないだろうけど、この状況でどうしろと?

 大丈夫じゃないからって、正直に大丈夫じゃないって返しても仕方ないじゃないですか。

 顔をしかめて八神先輩を見つめると、大いに舌打ちを貰った。酷い。


 「ねぇ、知っている? 蛇の毒ってね、色んな種類があるんだよ」


 白慧が妖しくほくそ笑み、語り出す。

 大蛇は今だ数が減らず、私と北條さん以外が対処に当たっている。

 腹部の傷が、酷く熱を持ち、脈打った気がした。


 「大きく分けて神経毒、出血毒、筋肉毒の三種類! 知ってた? それでね、鎮馬ちゃんを噛んだ僕の蛇が持つ毒はね……」


 白慧は笑いながら、続けて「出血毒、だよ」と告げる。

 ……あはは、早く治療しないと私、やばい。

 やっぱり、毒持っていたんだ。

 止まる事ない血液が、腹部から、押さえる手の隙間から、滴り落ちていく。

 通りで、息苦しい訳だ。

 私が駆けた場所に、血の道が出来ているのが見えた。


 「ああ、大丈夫。身体が醜く腫れたりはしないよ。何せ、僕の……蛇神の持つ毒だもの。ただ、内部から壊れていくだけ」

 「……血清は?!」


 尚、狂気的に笑う白慧に篠之雨先生が声を上げる。

 白慧は笑うだけ、答えはしない。

 息苦しさが酷くなってきた。

 ふらふらと、眩暈もする。

 けれど、感覚が鈍っているのか痛みは、薄い。

 元からの体調不良もあるだろうが、恐らく走ったせいで、毒が回ったのだろう。

 私は、その場に崩れるように座り込んだ。

 足元の血溜まりが音を立てて跳ねる。

 いつの間に……ああ、大分出血酷くなってたんだ。

 ぼんやり、遠く考える。


 「綾部っ……!」

 「だ、大丈夫ですから……周囲の、蛇。お願いします」


 焦ったような緋之瀬先輩に声を掛けつつ、私は鞄の中を漁る。

 確か、堕ちかけた蛇神、白慧の噂を聞いていたらしいお祖母様から、対妖怪用の、それも蛇毒の解毒剤を、この学園に来る前に貰った筈だ。

 それで、完全に解毒する事は出来なくとも、この毒を緩和する事なら出来るだろう。


 「……あった」


 鞄の中のポケットに手を入れ、掴んだものを引き出すと、小さく呟く。

 手にしたのは、白くて小さな巾着。

 私は、その中に入っていた丸薬を八神先輩等に見られないように口に含み、躊躇いなく噛み砕いた。




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