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悪役からヒロインになるすすめ  作者: 龍凪風深
三章 白蛇の御手付き
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42 はからずともそちらへ

大変お待たせしました!

今回は完全に主人公メインで参ります!


 放課後。

 自らの机に突っ伏しながら、思案する。

 授業が終わって直ぐに帰る予定が思わぬ伏兵により、こうして教室にとどめられた。

 最悪だ。日付がずれてきた。

 本当はもう少し後の筈なのに。

 ズキズキと鈍い痛みの走る腹部を押さえながら、私は机にぐったりと上半身を投げ出す。

 何故、私がこんなにも酷い有り様なのかと言うと、実は今日のお昼休みに、きてしまったのだ。

 月に一度訪れる、所謂女の子の日と言うやつが。

 おまけに、私のは割りと重い方なのだ。

 ここから動ける気がしない。

 私の体調不良に安泉さんが気付いてくれて、保健室への付き添いを申し出てくれたが、私が大丈夫だと、断ってしまったし……。

 やっぱり、このまま這ってでも帰ろう。

 もうHR終わってから十分は経ってるのに、八神先輩が現れる気配もないし、裏庭には元より行くつもりなんてないし。

 「……っよ、し」と何とか気合いを入れ、よろよろと立ち上がると、鞄を掴み、教室を出る。

 あぁ、駄目。ふらふらするんだけど。

 早く帰る。早く寝る。寝たい。

 内心でぼやきながら、よろける身体の殆んどの体重を預けるようにして、壁伝いに何とか廊下を歩く。

 正直、しんどい。

 誰かが運んでくれると言うのなら、今直ぐ倒れ込みたいくらい。

 きっと、昨日の寝不足も効いているのだろう。

 ふら付きながら、何とか歩き、玄関へ辿り着く。

 緩慢な動作で靴を履き替え、外へ向かう。


 「あ、れ……」


 外に出て直ぐ、感じた違和感に口から声が零れ、立ち止まる。

 何かが、可笑しい。

 まるで、目の前の世界が偽物にり替わってしまったような、そんな感覚。

 何処かで見た事のあるような、感じた事のあるような……これは体調が悪いせい? 気のせい?

 目に映る、いつも通りの下校風景を見つめながら、私は首を捻る。

 私の直感が、引き返せと言う。

 頭の中で、警報音がなってる気がした。

 でも、ここを通らないと帰れない。

 裏口は使えるか分からないから。


 「……はぁ」


 一瞬、鞄を持つ手にぎゅっと力を込めた後、力を抜くように小さく溜め息を吐く。

 ……やはり、直感を信じよう。

 ぼんやりと、鈍い頭では違和感の正体を探れそうにないし。

 直ぐに帰れないのは辛いが、違和感の正体が分からない以上、この状態で違和感の中を通るのは気が引ける。

 もしも、妖怪関連であるなら、きっと、最終下校時刻までには先生方か生徒会がどうにかしてくれるだろう。

 だから、私はそれまで保健室で寝させて貰おう。

 私はそこまで考えると、踵を返し、校内へと逆戻りする。

 ……否、しようとした。

 けれど、それは聞き知った声により妨害された。


 「綾部さんっ……!!!」


 驚愕を含んだような、私を呼ぶ声に、思わず足を止めて振り返る。

 ……北條、さん?

 瞬間、空間が爆ぜた。

 私の見ていた景色が崩れ落ち、まざまざと虚実を見せ付けられる。

 ああ、そう言う事か。

 違和感の正体が判明し、納得する。

 この空間、丁度生徒玄関から校門までの間には、隠蔽系の術の掛けられた結界が張られていたのか。

 それが、私の感じた違和感の正体。

 私が見ていたのは結界の外側で、隠された内側を見る事は出来なかったが、そこに何かがある事には変わりなく、故にそれなりに霊力のある私は違和感を感じたんだ。

 北條さんの呼び声により、何故か結界の内側に引き込まれた私は、目の前に広がった実際の現状に静かに眉を潜めた。


 「綾部ちゃんッ?!!」


 北條さんに引き続き、響くのは栞宮先輩の声。

 結界内に捕らわれた略皆様が、目を丸くしてこちらを見た。

 生徒会メンバー、北條さん、八神先輩、篠之雨先生、そして──怪物映画にでも出てきそうな程大きい真っ白い大蛇二匹を従えるように立つ、ふわりとパーマの掛かった長い白髪と、蛇のような黄色い眼に、紺色に白のスカビオサの描かれた着物を纏う美少年。

 何これ、どういう事……?


 「くすり、あーぁ……失敗しちゃったねぇ」


 遠くで、白髪の美少年が愉快そうに笑う。

 何でこいつが今、ここに居るの。

 どうして、まだ早い。

 今日はまだ、五月十九日で、六月前なのにっ……。

 ここも、ゲーム通りにいかないの?

 頭の中が僅かに混乱し、続く災難に目眩を覚えた。


 「やぁ、こんにちは。初めまして、鎮馬ちゃん、僕は白蛇の白慧しろえだよ。よろしく、ね?」


 白髪の美少年──白蛇の白慧が私を見て、私の名前を呼んで、はっきりとそう告げて、微笑み掛けてくる。

 私は、目まぐるしい現状に、目を丸くしながら、白慧に視線を向けた。

 何で、私の名前を知ってるの。

 よろしく、て何?

 どうして、今、私に笑い掛けるの?

 無意識の内に、足が勝手に動き、後ずさる。

 白蛇の白慧は、白蛇神社の忘れられた水神で、六月のイベント蛇のお手付きの敵キャラで、二週目以降に選択する事の出来る攻略対象。

 但し、綾部鎮馬が死亡した場合のみ、攻略不可。

 捻くれてたり、歪んでたり、ドSが入ってたりするが、実は一途で、ある事がきっかけで妖怪と人間の仲を引き裂くようになる。

 綾部鎮馬の最初の死亡フラグにして、最初の加害者。

 綾部鎮馬みたいな陰陽師が特に嫌いだと、作中で言っており、攻略対象の選択をした後でも、何かと攻撃的で、事あるごとに大蛇を差し向けたり、妖術で攻撃したりと、クレイジーだった。

 与幸の巫であるヒロインに興味を持ち、花嫁として誘拐。

 後に生徒会メンバーや風紀委員メンバー、先生により倒され、ヒロインに叱責され、改心する。

 それが、本来の奴だ。

 けれど、今ここに居る白慧はゲームと同じ行動を取るだろうか?

 確かに、蛇のお手付きイベントでこんなスチルを見た気がするが、どうにも……。


 「そろそろ彼等との睨み合いにも飽きてきた事だし、ナイスタイミングだよ」


 白慧は横目で生徒会メンバー等を見た後、微笑みを絶やさずに言った。

 ここに居ちゃ、いけない気がした。

 けれど、結界内に捕らわれた状態じゃ逃げたくとも逃げられない。

 おまけに、体調は悪化するばかりで、正直、今立っているだけで辛かった。

 頼りなげに、身体が傾くのを何とか堪える。


 「っ逃げろ……! 綾部!!」

 「! え……」


 唐突に、切羽詰まったような緋之瀬先輩の声が響く。

 視線の先には、白慧と大蛇二匹。

 奴等はまだ動いていない。

 なら、何……?

 頭上に大きな影が差す。

 私は慌てて視線をずらし、一瞬目を見開いて固まる。

 ああ、これ、何て死亡フラグ……?

 白慧の妖気に掻き消され、否自分の体調で精一杯で、間近に迫られるまで、気付く事の出来なかった巨体。

 北條さんの悲鳴が聞こえ、誰かが息を飲む。

 視界の端で、いち早く反応した緋之瀬先輩と八神先輩が、必死に私に手を伸ばしている姿が見えた。




.


主人公以外、全然目立たない回終了です。

次回からはちゃんと目立ちますので……!

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