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悪役からヒロインになるすすめ  作者: 龍凪風深
三章 白蛇の御手付き
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40 怪我をした結果

遅くなりましたが、やっと更新です。

今回は少し短めにお送りします。


骨折の件を少し修正しました!


 「綾部、あーん」

 「……」

 「口を開けてくれないか? でないと食べさせられない」


 何だろう、このシュールな光景は。

 中庭のベンチの上、隣に腰掛け、箸と私のお弁当を手に持ち、私の口元にたこさんウインナーを運ぶ緋之瀬先輩を、冷めた目で見つめながら思う。

 困った顔の緋之瀬先輩なんて知らない。

 口なんて開かない。


 「あ、綾部さん」

 「……あ」

 「!」


 緋之瀬先輩とは逆隣に座る安泉さんからお声掛かり、私はようやっと口を開ける。

 緋之瀬先輩が目を瞬かせながらも、差し出してくるウインナーを咀嚼。

 安泉さんが僅かに緩んだ空気に息を付く。

 はぁ、何でこんなことになってるんだろうか。

 いや、これも全部、天条くんが悪いのは間違いない。

 これは、真剣に報復を考えるべきだろうか?

 昨日、あれから、私は北條さんが呼んだのか、駆け付けた篠之雨先生により病院に連行された。

 診察結果は、捻挫程度かと思いきや、骨にひびが入っていたらしく、全治一ヶ月と言い渡され、腕を包帯でぐるぐる巻きにし、吊るされている。

 二の腕に関しても、深めの裂傷と言う事で包帯でぐるぐる。

 腕以外は打ち身、擦り傷などなど。

 全身包帯まみれ、傷だらけのゾンビの完成である。

 何処に行くにも、じろじろと付き纏う視線がとても不快だ。

 ひっそりと治癒術でも使って、治りを早くしよう。

 いきなり治ってたら不審だから、徐々に徐々に行うとしたら、多分一週間くらいは完治が早くなる筈だ。

 まあ、そもそもな話、人間の骨折を一瞬で治せるような治癒術を私は知らない。

 探したら有るかもしれないけど。

 私が使うものでも最低三日~一週間は掛かるだろう。

 

 そして、怪我の話よりも、今、何よりも問題なのはこれだ。

 登校時より、纏わり付く生徒会組みが非常に不快。

 生徒会役員の不祥事な訳だから、心配するのは分かる。

 けどね、朝からずっと私に付いて来るのはやめて! 本当、切実に。

 授業中外だけとは言え、それ以外はずっと、て……!

 三割増しで視線が痛くなってるから!

 授業の合間合間に、代わる代わる来るのやめて。

 ちょっと、自分の顔を鏡で見直せ、イケメン攻略対象者共……!!

 今日以降もやろうものなら、私、不登校になるぞ、きっと。

 どうして皆、こうも私と安泉さんの時間を奪うんだ。

 唯一の救いと言えば、まだ妖怪関連の事情聴取が行われていない事か。

 少し落ち着いたら、話があると篠之雨先生が言っていた。

 ……ああ、平和が欲しい。


 「緋之瀬先輩、自分のご飯食べたらどうですか?」


 口腔内の食べ物を嚥下し、緋之瀬先輩を静かに見据える。


 「俺の事は気にするな。役員の不祥事は会長の責任でもあるからな」

 「……天条くんの代わりに、緋之瀬先輩の手を煩わせるのは居たたまれないのですが」

 「ああ、すまない。蒼樹は今、自室謹慎中でな。それに……昨日の今日で会いたくはないだろう?」


 うん、まあ、そうですけど。

 私は小さく頷く。

 昨日の今日だから、お世辞にも会いたいだなんて思えない。


 「綾部さん? て、天条くんが、どうか、したの……?」


 安泉さんにはこの腕について、ただ転んだだけだと説明してあるから、多分私と緋之瀬先輩の話が理解出来なかったんだろう。

 怖ず怖ずと問い掛けてくる安泉さんに、苦笑し、「何でもない」とかぶりを振る。

 態々説明するのは面倒臭いし、天条くんに怪我させられた経緯は関係者でない安泉さんに話せるものではない。

 安泉さんを関係者になんて、私はしたくない。

 心配そうにしながらも「そっか」、と食事を再開させた安泉さんに頷き、緋之瀬先輩に向き直る。


 「ほら、早く食べないとお昼休みが終わるぞ?」

 「……いいです、返してください。自分で食べます」

 

 ウインナーに続き、卵焼きを差し出してくる緋之瀬先輩を、私はジト目で睨み付け、お弁当の返却を要求する。

 確かに、私は利き腕を怪我している。

 けれど、だからと言って食べさせて貰わないと食事が出来ない訳じゃない。

 現に私は最初、自力で食事していた訳で、箸の他にスプーンとフォークを持って来ているのだ。

 私は普通に自分で食べられる。


 「……」

 「……返してください」


 無言で見つめ返す緋之瀬先輩に、私は左手を差し出し、再び要求する。


 「……どうしても、か?」


 問う緋之瀬先輩に緩く頷き、「どうしても、です」と更に手を差し出す。


 「……そうか、分かった」


 え、ちょ……何で、そんなしょんぼりと肩を落としてるんですか。

 何でそんな、まるでお預けされた犬みたいな目してるんですか。

 そんなに私の餌付けは楽しかったんですか。


 「と、取り敢えず緋之瀬先輩、私は平気なので生徒会に」

 「綾部ちゃーん!!」

 「……戻ってください」


 私の言葉を遮る陽気な声。

 知らず知らずに眉間に皺が刻まれる。

 何故、増えたし。

 私今、お引き取り願おうとしてたのに、何で狐が増えた。


 「お帰りください」


 私の目の前に来て、にこっと笑った栞宮先輩に素早く頭を下げる。

 「え、酷いっ?!」と、瞬時に声を上げた栞宮先輩を、私は冷めた目で見上げた。

 何せこの人、基この妖怪こそが付き纏う生徒会組みの筆頭なのである。


 「なぁんで、怜也は良くて俺は駄目なの?」


 ぷくう、とまるで河豚ふぐみたいに頬を膨らませ、不貞腐れる栞宮先輩。

 いや、どちらかと言うとひまわりの種を頬袋一杯に詰め込んだハムスターの方が近いかもしれない。


 「ね、雛乃ちゃん、酷いと思わない?!」

 「え、えっ、と……」


 栞宮先輩、何でそこで安泉さんに行くんですか。

 安泉さん、困ってるじゃないですか。


 「悠里、安泉が困ってるぞ」

 「おっと、急にごめんね、雛乃ちゃん」


 呆れたような目で告げる緋之瀬先輩に、栞宮先輩がはっとしたように安泉さんに謝罪の言葉を口にした。


 「あ、いえ……大丈夫、です」

 「いや~、誰かさんと違って雛乃ちゃんは優しいなぁ」


 緩く微笑む安泉さんと、それに合わせて笑う栞宮先輩。

 ちらりと向けられた視線に、ぷいとそっぽを向いた。

 もしかしなくとも、その誰かさんって私の事ですか。


 「綾部、もう少し悠里に」

 「無理です」

 「即答?!」


 緋之瀬先輩が言い切る前に、遮るように告げると、栞宮先輩から悲鳴が上がる。

 いや、だって、ねぇ?

 どうせ、優しくしろ、て言うんでしょう?

 攻略対象に優しくしたって、私にはメリットがないばかりか、関わったせいで漏れ無く、厄介事と死神が付いて来るので……普通に考えて、無理です。

 まあ、数日後には関係者にされると思うのだけれど。

 だからと言って、態々死亡フラグを率先して乱立させるような自殺志願者になった覚えはない。

 よって、さっさとお帰りください。

 栞宮先輩のみならず、緋之瀬先輩も込みで。

 せめて、もう直に終わるかもしれない平穏を、噛み締める時間くらいくださいよ。




. 

今回は会長と副会長、それにちょっとだけ安泉さんのターンでした!




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