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悪役からヒロインになるすすめ  作者: 龍凪風深
一章 物語プレリュード
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03 学園の初登校日のこと

 初登校日、本日のお天気も快晴。昨日の天気予報曰く、明日は曇るらしいが。

 ピーチミントの歯磨き粉で歯を磨き、マンダリンオレンジの香り付き洗顔フォームで顔を洗い、私は学園の制服である真っ黒いYシャツとスカートに、真っ白いネクタイと黒い線の入った白いブレザーを身に纏うと、朝食を取るべく食堂に向かった。

 本当は安泉さんを誘ってみたのだが、今日は食欲がないからヨーグルトでも食べるとの事。安泉さんの食生活と体調が少し心配だ。

 もし、毎朝こんな感じだったら、せめてサラダでも食べるように言おうか……。

 程なくして着いた食堂は、思いの外空いていて、直ぐに注文が出来、品物も割と早めに出てきた。

 魚の芳ばしい香りが、程よく私の鼻腔をくすぐる。

 私は朝食の乗るトレーを持ち、なるべく端の席に腰掛けた。

 トレーの上に乗っている物は、こんがりと焼けた鮭に、沢庵たくあんの漬け物、ひじき、わかめの味噌汁がセットにされた焼き魚定食である。

 基本的、皆食べるものと言ったらお肉が主みたいだが、私は魚を食べる事の方が多い。

 祖母や母が良く魚料理を作る人だから、その影響かもしれない。

 まあ、だからと言ってお肉は嫌いな訳じゃない。寧ろ、好きだ。嫌いな食べ物は余りないと思うし。


 「いただきます」


 小さく呟き、食べ始める。

 この食堂の定食はとても美味しくて、お箸片手に順にお皿を空にしていく。

 やはり、毎朝食堂を利用しようかな。

 ヒロインや攻略対象と接触の機会を作らないように、なるべく自炊するつもりだったが、朝は何かと忙しいし、考えを改めようかと悩む。

 買い出しだって毎日行けなくはないが、大変だろうし、何よりここのご飯美味しいし、朝は食堂にしようか。

 思案しつつ、忙しなく口を動かして数十分、器に盛られていた食べ物達を綺麗に平らげ、また小さな声で「御馳走様でした」と呟くと、トレーと食器を片付ける。

 そして、足早に部屋へと戻った。

 部屋に戻ると、安泉さんが「お、おかえり」と笑顔で出迎えてくれたので、「ただいま」と笑い返す。

 見た所、安泉さんはもう支度を終えたようだったので、私も登校の準備をし始めた。と言っても、持ち物なんてさしてないので、鞄に必要最低限の筆記用具などを詰めるだけなのだけど。

 

 「……そう言えば、安泉さんって外部生?」

 「え? ううん、違うよ。小学校から、この学園にいる。綾部さんは、外部生だよね……?」


 私は荷物を鞄の中に詰めながら、ふと思い浮かんだ疑問を口にする。

 私は小中とこことは別の学校に通っていたが、安泉さんはどうなんだろう?

 安泉さんは一瞬きょとんとした表情を浮かべた後、直ぐに首を横に振ると、確かめるように問い返してくる。

 それに、私は頷いた。


 「うん、私は中学は別のとこ」

 「だと、思った。見掛けた事なかったから……」


 私が小中別で高校からこの学園に来た事を告げると、安泉さんは薄く笑んで言う。


 「綾部さんは、どうしてこの学園に……?」

 「んー、祖母に勧められてかな?」

 「そう、なんだ……」


 続けて、安泉さんが首を傾げて問い掛けてくる。

 どう応えるべきか、少し考えた後に正直に答えた。祖母に言われて来ただなんて、別に隠す必要もない理由だし。

 答えを聞いた安泉さんは、短く相槌を打った後、何かを考えるように俯いてしまった。


 私の返答に何か思う所でもあっただろうか?


 よく分からず首を捻ると、取り敢えず安泉さんを凝視してみた。


 「あっ、えっと……そろそろ、学校行こっかっ……!!」


 私の向ける視線に気が付いたのか、安泉さんが口ごもり、目を泳がせながら、目に付いた時計を指差して慌てたように言う。

 安泉さんの可笑しな反応に、私は首を傾げながらも、深く追求する必要性を感じないので言う通りに流される事にした。

 鞄を持ち、互いに部屋の鍵を持っている事を確認し、しっかりと鍵を掛けてから外へと出る。

 燦々と降り注ぐ日差しを浴びながら、徒歩十分程度の学園へと向かう。道中は無言だった。

 今更ながら、また安泉さんは緊張しているようで、その顔には酷く冷や汗が伝っており、目は完全に泳ぎ切っている。

 こういう時こそ話し掛けるべきなのだろうが、私はあまり話題が豊富な方ではないのだ。

 生徒玄関でまた靴を履き替え、目的地に向かい二人で廊下を歩く。

 何か話し掛けようかと、思案している内に私達は教室に辿り着いた。

 一のA、私達は偶然にも同じクラスだったようだ。

 ここはヒロインとも同じクラスなので、手放しで喜ぶ気にはなれない。

 スライド音を立てて扉を開く。まだ少し時間が早かったのか、入った教室はがらんとしていた。

 ふと机を見ると、出席番号と名前の書かれた名刺大のカードがセロテープで貼られている。席を間違えないようにとの措置だろう。

 このクラスのあ行は私達含めて三人らしく、前の席の左端から藍朶あいだ、安泉、綾部と置かれている。


 「席、隣みたいだね」

 「…………う、ん」


 今だに緊張している安泉さんに話し掛けると、俯いたまま頷かれる。

 安泉さんの様子に私は思わず苦笑いを零した。

 彼女は何をそんなに緊張しているのか……。内部生なら知り合いだって居る筈なのに、毎回こう? まあ、性格故ならば仕方ない。

 取り敢えず、安泉さんに席に座るように促し、私も座った。

 更に話し掛けようかと思ったが、あまり続かないような気がし、諦めて机に突っ伏した。

 目を閉じると、一瞬で視界を暗闇が塗り潰す。昨日はぐっすりと眠ったから、眠たくはないし、眠気もこない。が、この静寂を潰すのには丁度良い。

 安泉さんが無言なのも手伝ってか、時計の秒針を刻む音がやけに耳に付いた。


 「…………」


 どれくらいそうしていたか、次第に騒がしくなる教室内に、顔を上げる。

 隣の安泉さんの様子を伺うと、まだ緊張が解けないのか、無言で俯いたままだった。

 んー、どうしたものか……?


 「……安泉さん」

 「! な、に? 綾部さん」

 「大丈夫?」

 「う、うんっ……ちょっとね、考え事、してただけなの……だから、大丈夫だよ」


 俯く安泉さんの名前を呼ぶ。

 すると、慌てて安泉さんが顔をこちらに向けたので、続けて問い掛ける。

 安泉さんは困ったように笑うと、頬を掻きながら言う。

 もう心配はいらないようだ。私が視界を黒塗りにしている最中に、自分で立ち直ったのだろう。ちゃんと、会話できてるし。

 それから、直ぐに担任教師が入ってきた。

 途端に騒がしかった教室は水を打ったように、静まり返り、自ずと席に着く。

 教卓に向かうのは、肩まで伸ばされた茶髪は寝坊でもしたかのようにぼさぼさで、頼りなさげな翡翠色の瞳は眼鏡に隠れている細身な男。

 名前は篠之雨享椰しののめきょうや、ちょっとドジと天然の入った一のAの担任で……陰陽師であり攻略対象だ。

 先生が攻略対象なんて犯罪だろうと思うが、先生と生徒の禁断の恋に身悶えした女性は少なくないそうな。

 この人との接点だけは避けて通れない。何せ担任だもの、と実を言うと端から諦めてる人物だ。


 「わっ、とっとっ……!」


 視界の端で先生が何もない空間に躓き、転びそうになる。が、何とか持ち直したようで、身体がよろけただけにとどまった。

 私は苦笑い気味にその姿を見守りながら考える。

 こんなんで、よく陰陽師やってられるなぁ。まあ、陰陽師でなければ教師としてここに居ないのだけど……。

 この学校はその性質故に、教員全てが陰陽師と妖怪で埋められている。不測の事態に備えて。

 妖怪と人間を同じ学校に通わせるとなれば、自ずと問題は現れる。その際、双方を理解できるものが教師でなくてはならない。

 だから、教員の中に一般人はいないのだ。


 「えーっと、おはようございます。僕はこのクラスの担任になった篠之雨享椰です。趣味は読書で好きな食べ物はチョコレート。どうぞ、よろしく?」


 黒板に白のチョークで名前を書くと、にこりと人の良さそうな笑みを浮かべて、先生が自己紹介する。補足として副担任が今日はお休みだとも。

 それに、クラス内の皆は拍手を送った。

 担任の自己紹介を終え、篠之雨先生も例に漏れず、今度は生徒の自己紹介タイムが始まる。

 前列左端から順に、名前と趣味と好きな食べ物と言う先生も使った定番な自己紹介だ。

 私は適当に名と趣味に読書、好きな食べ物は甘いもの全般と答えておく。先生と被ってるなんて抗議は受け付けない。

 安泉さんは、趣味は手芸、好きな食べ物は林檎と言っていた。

 ヒロイン──北條満月ほうじょうみつきは、趣味は料理、好きな食べ物はショートケーキと女子として可愛い答えを言う。流石はヒロイン、安泉さんもだが、女の子女の子してる。


 「……」


 続けて自己紹介をしていく残りの人達を見つつも、遠めの席の北條さんをちろりと盗み見る。

 そして、一方的に知る彼女の事を考える。

 北條さんは、ゲーム内のヒロインであり、私の親友になり仲違いする筈の子だ。

 一言で言うとザ•ヒロインな子で、心が強く優しく誰にでも好かれるような可愛い子。でも、一部の女子には妬まれてたっけ。

 そんな彼女は妖怪を惹き付け、強い力を与える血肉を持つもの──『与幸よたかかんなぎ』と呼ばれる存在である。妖怪が彼女を食らえば、忽ち力が増幅し、妖気は膨れ上がり、私には手に負えないものとなるだろう。

 まあ、今は北條さんの持つお守りの効力で抑制されているから、狙われる事なんてないけどね。

 自己紹介も最後の一人に差し掛かり、記憶を漁っていた私が油断して北條さんに視線を向けると、それはかち合った。


 「! っっ……」


 交錯する二つの視線。一瞬驚いて固まるも、慌てて目を逸らす。

 ──やってしまった。

 何、印象に残るようなことをしているんだ、自分。

 不注意な自分を叱りつつも、目が合っただけじゃないかと、内心楽観視する頭を小さく横に振る。

 今のはなかった事にしよう。授業中にクラスメートと目が合おうが、気にする人なんてそんなに居ない筈だと信じて。

 いつの間にやら自己紹介は終わり、オリエンテーションが淡々と行われる。

 この日の授業は勉強と言う勉強もなく、その後また北條さんと目が合うような事もなく過ぎ去った。




.

攻略対象登場!

一番最初に登場したのは先生でした。

これから段々、出てきます!

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