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悪役からヒロインになるすすめ  作者: 龍凪風深
三章 白蛇の御手付き
38/66

37 死亡フラグか、戦闘フラグ

急展開!

ヒロイン、天条くんのターンに参ります。


 翌日、放課後。

 手紙によれば、一年の空き教室に何かあるのだろうが、私に行く気など皆無。

 鞄を引っ掴み、一人生徒玄関へ向かう。

 規則正しい雨音に耳を傾けながら廊下を歩いて行く。

 今日も昨日と変わらず酷い雨だった。

 今朝からずっと、止む気配の見せない雨は次第に激しさを増している。

 確か、明日の予報は晴れマークだった筈だが、この分では無理ではないだろうか……?

 となると、当分は雨か。

 いや、勢いが強い分、案外明日は予報通りに晴れるかもしれない。

 何にせよ、これ以上強くなるようなら、安泉さんの帰りは大丈夫だろうか心配だ、と言う事だ。

 程なく生徒玄関に着き、私はすたすたと自らの下駄箱に向かう。

 ──本当に、本当に無視していいのだろうか。

 下駄箱に手を掛けた所で、不意に手紙の事が気に掛かり静止する。

 今回、もしまた私が逃げた事で怪我人が出たら……。

 僅かに頭の中を不安が過ぎる。 

 だ、大丈夫。大丈夫、だって、今度は学校内だし。

 けど、保証なんて、何処にもない。

 悶々と頭を悩ませながら、私は下駄箱を開いた。

 すると、ひらりと目の前をつい最近見た覚えのある物が落ちてきた。


 「……また、手紙?」


 今度は何だ。

 昨日きたばっかりじゃないか。

 いや、寧ろ毎日来るのか、これは。

 私は新たな手紙を拾い上げると、静かに目を通す。


 『ああ、やっぱり、向かわなかったんだね? でも、いいの?


 このままじゃ────……。』


 読み終えると同時に、私は駆け出す。

 心臓の音がやけに早く、五月蠅い。

 私は焦っているのだろうか。

 慌てているのだろうか。

 激しい動悸に、全速力で駆ける足は重かった。


 「……っっ」


 何をそんなに……私が行かなくたっていい筈なのに。

 だって、北條さんには生徒会も、風紀委員も、先生も付いている。

 綾部鎮馬わたしみたいなぼっちでも、悪役でも、敵方の陰陽師でもない。

 フラグなんて、バッドエンドの時だけでしょ?

 今、こんな序盤で立つフラグなんてない。

 大丈夫。そんな事ない。

 必死に頭に言い聞かせる。

 きっと、嘘だって分かってる。

 けど、もしもを考えたら動かずには居られなかった。


 『このままじゃ、与幸の巫が死んじゃうよ?』


 手紙の最後の一フレーズが頭の中を再び流れる。

 私の思考を凍り付けにし、頭を掻き乱す言葉。

 ヒロインに、そう簡単に死亡フラグなんて立ってたまるか!

 北條さんは怪我したばかりで、だから、護衛強化中じゃないの?

 私が行く必要性なんて……。

 けれど、自信はない。

 北條さんが、本当に大丈夫だって、私は言い切れない。

 私は今、側に居ないから。

 私の死亡フラグは回避したいし、こんな事に関わりたくない。

 だから、と言って、北條さんを見捨てていい理由になんてなりはしない。

 黒髪切りの時も、濡れ女の時も、私の認識が甘かったのだ。

 生徒会も先生も風紀委員も万能じゃない。

 見落としだってする。勝てない相手だっている。

 だから、私も気を付けなきゃいけないのかもしれない。

 もしもの時は、私も助けに行かなくては。

 そう、思う。

 例え、私が悪役でも。敵でも。陰陽師だから。


 「……北條さんっっ!!」


 ばん──指定された空き教室の扉を荒々しく開け放つ。

 視線に飛び込んだのは。


 「え? 綾部、さん……?」


 ぽかん、と呆気に取られたように、口を開けてこちらを見る北條さんと、その傍らに居る天条くんの姿。

 ……っなんだ、やっぱり嘘か。

 私は小さく安堵の溜め息を付いた。

 本当に北條さんに死亡フラグ立ってたらどうしようかと……焦って損した。


 「……ごめん、教室間違えた」


 居心地の悪い空気が流れ始めた教室内に、早々に邪魔者は退散しようと、私はそれだけを告げて、扉に手を掛けた。

 目的は果たした。

 北條さんの無事は確認出来たし、天条くんが側についているのも分かった。

 だから、もう用はない。


 「貴様が、綾部鎮馬か」


 唐突に口を開いた天条くんに、扉を閉めようとしていた手を止める。

 心なしか、彼から怒気が感じられるんだが、気のせいだろうか。

 私は首を傾げると、「そうだけど?」と短く返す。

 それが、何だ。

 私が誰であろうと、天条くんは興味ないだろうに。


 「っ?!」

 「綾部さん!」


 北條さんの呼ぶ声が僅かに遠く聞こえる。

 えっ……は? いや、何これ。

 私の返答を聞き終えたと同時に、天条くんが地を蹴り、一息で距離を詰め、私の目の前へ。

 驚く私に構わず、繰り出されるのは渾身の右ストレート。

 か、仮にも女子生徒の顔に右ストレートはないでしょ、この青鬼! 鬼畜!

 私は慌てて身体を横にずらして避けると、廊下に飛び退く。

 な、な、何を考えてるんだ。

 一瞬、心臓止まるかと思ったッ。


 「天条くん! 綾部さんに何て事するのッ?!」

 「退け、阿呆。見ただろう、今の動き……その女は、一般人じゃない」


 一触即発の雰囲気で天条くんと睨み合っていると、怒っている風な北條さんが割り込んでくる。

 天条くんは、私から目を離す事なく淡々と告げると、北條さんの手を引き、背後に隠す。

 この青鬼は馬鹿か!

 私がもし一般人だったら、どうしたんだ。

 おまけに、一回躱しただけで、一般人じゃないって。

 いきなり襲われれば、誰だって驚いて避けるでしょ。

 普通だよ。普通。うん、普通……多分。 

 ……いや、認めよう。

 今のは些か不味かった。

 妖怪の攻撃を避けた時点で、只の女子生徒は無理があるかもしれない。

 問題はここからどう誤魔化すか、なのだが……如何せん、天条くんが何故私を攻撃したのか、そんなにも敵意を剥き出しにしているのか、わからないから、何とも言えない。

 北條さんの言葉にも聞く耳持たず、みたいだし。


 「……何するの。話が見えない」


 取り敢えず何も知らない体で反発。

 あ、今眉間の皺が動いた。


 「貴様が一般人でない事はもう分かっている。貴様が元凶、貴様も与幸の巫は害であると?」


 いや、待て。何の話だ。

 私は怪訝な表情で天条くんを見つめた。

 天条くんは気にする事なく、続ける。


 「与幸の巫に罪などない。貴様も、同じ人間なら、分かる筈だろう。巫は被害者であっても、加害者ではない」


 いや、だから、何の話だ?!

 それ、言う人間違ってないっ?!

 私は頭に鈍い痛みを覚えながら、困惑の表情を浮かべる。

 確かに、今の台詞は知ってる。

 だって、ゲーム内でヒロインを殺そうとした安倍家の人間に、言い放った言葉なんだから。

 けど、綾部鎮馬が言われた訳じゃない。

 綾部鎮馬は攻略対象を滅せようとはしたが、少なくともヒロインを、与幸の巫を殺そうとした事は一度もなかった。

 なのに、だ。

 何故、正体を隠している筈の私がその台詞を聞く羽目になった。

 何故、この青鬼は私に怒りを覚えている。


 「て、てて、天条くんっ……あれっ?!!」

 「……あんなものを、連れてきたのか。この学校に!」


 背後に庇われていた北條さんが、天条くんの袖を引っ張ると、慌てたように廊下の奥を指差す。

 天条くんが、視線で人を射殺さんばかりに鋭い眼光で、私を睨みつける。

 私か。私が悪いのか、これは。

 私は静かに、北條さんが指差す方へ視線を向けた。

 ……あー、廊下の奥に妖怪らしきものが佇んでいるんだが、これは目の錯覚だろうか?

 いや、天条くんにも北條さんにも見えてる訳だから、そんな訳ない。

 どうやら、私は慌てていたせいで、視覚的に確認出来る距離に接近されるまで、妖気に気付かなかったらしい。

 これは完全に巻き込まれたパターンだ。




手紙のせいで完璧に巻き込まれたようた主人公、次回も引き続きヒロインと天条くんが出張る予定。

いよいよ、戦闘パート突入!

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