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悪役からヒロインになるすすめ  作者: 龍凪風深
三章 白蛇の御手付き
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33 送り主の謎と怪我と青鬼

 翌日、朝。

 私は自らの机に突っ伏していた。

 はぁ、予想に反して次は直ぐだったよ。

 登校時、下駄箱にはまた手紙が入っていた。

 今回は安泉さんに見られるようなヘマはしなかったが……。

 手紙の内容はこうだ。


 『次は最後まで居て。

 もっといいものを用意するから』


 次は最後までって……この手紙の主はあの場に居たのか。

 おまけに、いつかは分からないがまた次があるのか。

 まさかだ。

 気配なんてなかった筈なのに、私は何処からか見られていた?

 視線も気配も悟らせずに?

 随分と隠れ上手な犯人だ。

 それとも、私が勝手に一般人だと油断していたのだろうか。

 何はともあれ、偶然ではなく、手紙の主が故意的にあの妖気の持ち主を私にけしかけたのならば、私は間違いなく疑われている。

 私は妖気を感じるなり、あの場を速やかに逃げたのだから。

 そもそも、誰が私にそんな事する?

 生徒会がこんな事する……? しない、よね。

 私が関係者である疑惑を確固たるものにしようと、妖怪を差し向けたのならば、一体誰が何の為に?

 疑惑を確かめると言う点では実に、生徒会が怪しい。

 けれど、学園を守る側に居る生徒会が、他生徒を巻き込みかねないような事をするだろうか?

 人気のない裏庭と言えど、たまに人は通る。

 一般生徒に見られる危険性もあれば、被害が及ぶ可能性だってあるし……。

 よって、生徒会は手紙の主ではないと思われる。

 次に、風紀委員。

 こちらも、生徒会同様であれば、教師もまた然り。

 では、一体誰が……上記以外のの陰陽師? 妖怪?

 内部、生徒の犯行? それとも外部か……?


 「おはよー!!」


 悶々と思考の波に溺れかけていた意識を、北條さんの元気な声が引き戻す。

 私は反射的に声の主に顔を向け、目を丸くして固まった。

 何、何で? 何で北條さん、包帯まみれなのっ……?

 私の視線の先には頬にガーゼを貼り、手足に包帯を巻いた北條さんの姿。

 その痛々しい容貌に、私は思わず北條さんを凝視した。


 「満月ッ?! どうしたの、その怪我っ?!!」

 「き、昨日、濡れおん……いや、転んじゃって……えへへ」

 「えへへ、じゃない! もう、気を付けて、ていっつも言ってるのに!」


 血相変えて北條さんに駆け寄る城崎さん。

 北條さんは力なく笑うと、頬を掻きながら誤魔化すように言う。

 濡れおん……?

 ああ、濡れ女に襲われたのか。

 城崎さんは北條さんが言い直したのを気に留める事もなく、早口で捲し立て、傷の具合を確認している。

 それ程、心配だったのだろう。

 でも、何で北條さんがこんな怪我を……こんなの、知らない。

 北條さんの傍には生徒会が居て、護衛している筈で、来月のイベントまで怪我と言う怪我はしない筈なのに。

 やっぱり、ゲームと現実は違う?

 いや、そんなの当たり前か。

 私が転生者な時点で、色々と変わってきている訳で……。

 でも、ヒロインである北條さんに死亡フラグなんて易々と立たないと思いたい。

 今回は、多分ミステイクだよ。ミステイク。

 きっと、次回は生徒会がしっかり守ってくれる……事を祈ろう、切実に。

 今回、ヒロインが怪我してしまったのだから、ここ暫くは生徒会は過保護になるだろう。


 「あ! 綾部さーん! おはようっ!!」

 「……おはよ、北條さん」


 え……何で、そんなに嬉々として駆け寄るの。

 城崎さんとの話はどうしたの。

 もう終わった?


 「あれ? 今日は安泉さんは一緒じゃないの?」

 「安泉さんなら部活で、家庭科室だよ」

 「そっかぁ……綾部さんは部活は?」

 「……帰宅部だけど」


 北條さんの質問に淡々と答える。

 すると、背後でぱぁっとまるで花が咲いたように明るいオーラを醸し出しながら、北條さんが笑顔で有り難くない提案をする。


 「そうなんだ! あ、じゃあ一緒に部活見学でも……!」

 「遠慮しとくよ。私、部活入る気ないから」


 何でそうなるの。

 安泉さんの誘いも断ったのに、部活見学なんて行かない。

 私がきっぱりと切り捨てると、北條さんは「そっかぁ」と肩を落とし、城崎さんの元に戻って行く。

 彼女は一体何なんだろう。

 怪我人に悪い事したと思わない事もないが、ヒロインたる北條さんと仲良く部活見学など、する気はないのだから仕方ない。

 最近よく北條さんに話し掛けられる気がするのだが、やはり少し関わってしまったせいか。


 「……はぁ」


 誰にも気付かれないように、小さく溜め息を零す。

 白蛇に殺されるのなんて絶対にごめんだ。

 イベントが終わるまでは、出来うる限り北條さんには近付きたくない。

 何が白蛇の死亡フラグに繋がるか分からないから。

 「僕のお嫁様に近付くなよ」とか言われて、死亡フラグ立つとか嫌だ。

 あの白蛇なら、私が陰陽師だと気付いて殺しに掛かりそう。

 ああ、有り得そうで怖い。


 「! ……?」


 あれ、視線……?

 私は背後に視線を感じ、振り返る。

 あ、えーっと?

 ばちり──一人の男子生徒と視線がかち合うが、直ぐ様逸らされる。

 私は首を傾げながら、顔を前に向き直す。

 ……何か用があったのだろうか?

 それとも、北條さんと話せて羨ましいとか、そんな感じなの、か?






 ◆






 チャイムが鳴り、四時限目の授業が終わる。

 やっとお昼休みだ。

 騒がしくなる教室内で、私は重い腰を上げる。

 その手には勿論鞄を持って。

 安泉さんと共に席を立つ。

 今日は中庭で食べる予定だ。

 北條さんの様子からして、多分お昼は生徒会室で取るだろうから。

 中庭に向かうべく、扉を潜る。


 「……あ」

 「……何だ」


 正確には、潜ろうとして立ち止まる。

 思わず零れ落ちた声に、目の前の壁が反応して、訝しげに目を細めると、その鋭い眼光で睨み付けられる。

 ……何で居るの、この青鬼。

 北條さんのお迎え? にしては間の悪い。

 私はどうしたものか、と目前の壁、 さらさらの肩より少し上程度の青い髪に、僅かに隠れた鋭い真っ赤な瞳を持つ攻略対象、 天条蒼樹を見た。

 ……うわー、凄い睨まれてる。


 「邪魔だ、退け」

 「……」


 ……何様だ、この青鬼。

 冷たく言い放たれた言葉に、内心イラッと青筋を立てながらも、大人しく進路を譲る。

 ここで張り合ったって意味はないし、得もない。

 いや、寧ろ不利益を被りそう。

 私が横に避けた事で、天条くんがすっと横を通り過ぎる。

 今回は何もないようだ。

 良かった、良かった。


 「行こ、安泉さん」

 「う……うん」


 微妙な面持ちで過ぎ去る天条くんと私を交互に見る安泉さんの手を掴み、私は今度こそ教室を後にした。

 生徒会会計、瀬戸くんと同じクラスの一年生、天条蒼樹は青鬼と言う妖怪だ。

 彼は簡単に言うとドS、鬼畜だ。

 その癖、一度懐に入れた者に対しては甘い。

 分かり辛い優しさではあるが、栞宮先輩等には伝わるらしい。

 当のヒロインには伝わらずに擦れ違う事、多々だが。 

 ゲームでの天条蒼樹は、会長程ではないにしろ、綾部鎮馬への扱いが酷い。

 そして、天条蒼樹のルートには高確率でヒロインの死亡フラグが建設される事になる。

 因みに、ヒロインに死亡フラグが立った時点で、綾部鎮馬にも死亡フラグが立つ二重の嫌がらせ。

 雷獣と遭遇するわ、鵺と戦闘になるわ、わやである。

 ……狂気的な鬼に喰い殺される未来なんて嫌だ。

 北條さん、悪い事は言わないから、天条くんはやめといて!

 後々のイベント、面倒臭さはハンパじゃないから!

 

 「……綾部さん、大丈夫? 考え事?」


 黙々と廊下を歩いていると、不意に掴んでいた手を、くいっと軽く引かれる。

 私が立ち止まり振り返ると、安泉さんは首を傾げて心配げに言う。

 私は「何でもないよ」と苦笑すると、再び歩を進めた。




.



やっと天条くんと主人公が遭遇しました!

後は亜木津さんで生徒会コンプリートです(笑)

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