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悪役からヒロインになるすすめ  作者: 龍凪風深
三章 白蛇の御手付き
33/66

32 下駄箱の手紙

ちょっと短めです。


 五月十二日、月曜日の朝。

 私はいつも通りに、いつもの時間に、安泉さんと学校に登校する。

 攻略対象もヒロインも既に学校で、生徒会の仕事をしているだろう時間帯なので、何ら心配しなくていい時間だ。

 生徒会補欠選挙は先週の内に無事に終わり、私の記憶通りに瀬戸くんと天条くんが新たに生徒会入りを果たした。

 後、北條さんも無事に生徒会のお手伝いに任命された。

 そのまま生徒会のお仕事にでも精を出していてください。

 私なんて気にする事なく。

 これで、瀬戸くんのお昼の屋上訪問の回数が減ったらいいな、と秘かに願う。


 そして、本題はここから。

 安泉さんからの部活見学の誘いを泣く泣く断った私なのだが、今激しく後悔している。

 安泉さんが、何とあの料理部に入ってしまったのだ。

 やはり、私がついて行って何とか回避するべきだったか……。

 安泉さんが八神先輩に虐められないかが非常に心配である。

 料理部に遊びに来てとお願いされたが、行くべきか行かざるべきか、これまた悩みの種だ。


 「え……手紙?」


 生徒玄関にて、私が靴を履き替える為に靴箱を開くと、ぱさりと中から落ちてきたのは一通の手紙。

 何これ、何この下手な展開は。

 ラブレター……はないから、果たし状? 怖いお呼び出し?

 私は落ちた手紙を拾い上げると、首を捻った。


 『貴女に、是非見て貰いたいものがある。

 放課後、直ぐに裏庭へ』


 手紙を開き、中を見てみると、内容はたったそれだけで、差出人の名前も、宛名すらもない。

 何なんだ、この手紙は……やっぱり、怖いお呼び出し説が濃厚か。


 「あ、綾部さん! それ、どうしたのっ……?」

 「ん? あー、何でもないよ。間違い手紙」

 「え、間違い?」

 「うん、そう間違い。だから、後でちゃんと届けとくからさ、早く教室い行っちゃおう」


 心配そうに見てくる安泉さんを余所に、私は平静に誤魔化すと、尚も首を傾げる彼女の背中を押して教室に向かった。

 こんな得体の知れない手紙なんて、安泉さんに見せられない。

 学校で唯一の友人に心配を掛けるのは気が引ける。

 それに、怖いお呼び出しだろうと、果たし状だろうと、悪戯だろうと、やたら見せるものではないし。

 悪戯だったら、別に誰も来ないだろうから、私の時間が浪費されるだけ。

 無駄に時間を取られるのは嫌だが、呼び出しの相手が誰かくらいは確認してみるべきだろうか。

 もし怖いお呼び出しだった場合、安泉さんにとばっちりがいく可能性もあるし……どうしたものか。







 ◆



 放課後、無事に帰りのHRを終えた私は、部活のある安泉さんと別れ、結局一人裏庭に来ていた。

 勿論、堂々と手紙の主を待っている訳ではない。

 木陰にひっそりと身を隠しながらだ。

 姿をこの目で拝んだら、さっさと帰るつもり。

 いや、人にもよるか。

 木の幹を背もたれに、私は体育座りしながら、裏庭の様子を窺う。

 今の所、人の気配はしない。

 十分くらい待って誰も来ない様だった場合も、悪戯と思って帰る事にしよう。

 まあ、生徒会である確率は限り無く零に近いし、特に警戒する事はない。

 生徒会だったら、こんなまどろっこしい事せずに、直接来るだろう。

 私はポケットから取り出したスマホをいじりながら、ぼんやりと考える。

 私に見せたい物、ねぇ。

 胡散臭い気がする。

 そして、悪戯感が否めない。


 「……あ、れ?」


 暫し、手紙の主を待ち続けていると、手紙の主の代わりに感じ取った不穏な気配に首を傾げる。

 ……っ妖気……?

 こっちに、向かってきている……?

 これは、この学校の生徒の妖気じゃない。

 また、餓鬼みたいに校内に妖怪が入ってきた?

 ……よし、逃げよう。

 妖気は真っ直ぐこちらに近付いて来ている様だし、ここに居たら鉢合わせだ。

 おまけに、こんな堂々と妖気を振り撒いていたら生徒会が気付く。

 校内ならば、誰かしらが対処し、怪我人なんて出ないだろう。

 人気のない裏庭なら、特に。

 そこまで考えて、私はひっそりと、素早くその場を離脱した。

 足早に向かうのは、寮の自室。

 段々と遠くなる妖気にほっと息を吐くと、進める足の速度を上げる。

 校内で戦闘などするものか。

 新垣先輩との一件で、大変な思いをしたのだ。

 二度はごめんだ。

 八神先輩からも、次はないと忠告を受けているし。


 ただ、気になるのが……何故、あの妖気の主が真っ直ぐ私の居る裏庭に向かってきたのか。

 その妖怪がもし、仮に手紙にあった私に見せたいものであったとしたら……誰が何の為に妖怪なんて私にけしかけたのか。

 手紙の主が現れる気配がなかったのはその為か。

 はたまた、全てはただの偶然か。

 ……直ぐに逃げた私には分かる筈もないけど。

 もし意図的であるなら、私にやる意味が分かんない。

 北條さんになら、まだ分かるのに。


 「は、あぁぁぁぁぁ」


 ばふん──寮の自室に着くなり、私は持っていた鞄を床に放り投げ、制服のままベッドにダイブした。

 深い溜め息を零しながら、柔らかな枕に顔を埋める。

 手紙の主は生徒なのか教師なのか。

 はたまた、外部の何者かなのか。

 もし偶然じゃないなら、きっと次がある。

 それで、どちらか分かるだろう。

 まあ、次がないに越した事はないが……ある気がするんだよね。

 やだな、憂鬱だ。

 取り敢えずは様子見、かな。

 妖怪絡みならば、生徒会に任せて置けばいい。

 校内の事ならば、大抵対処するのは生徒会だろう。

 仮に私個人を狙っていたとしても、校内である限り、生徒会が動くのだから、私は逃げてしまえばいい。


 「……けど、安泉さんに被害が及ぶのだけは阻止しなきゃ」


 何にせよ、第一は安泉さんの身の安全。

 私の身の回りに妖怪が発生し、彼女が巻き込まれるのは絶対に嫌。

 彼女は妖怪とは無関係の一般人なのだから。

 陰陽師の事も、妖怪の事も悟られてはならない。

 一度知れば戻れなくなる。




.



今回は繋ぎの回なので、主人公以外の出番は全然です。

安泉さんだけ、辛うじてちらりと……。

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