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悪役からヒロインになるすすめ  作者: 龍凪風深
二章 とある少女の逃走劇
31/66

30 天狗の割り込み

今回は一応、ヒロインと瀬戸くんのターン!

絡みは物足りない感じの回です。

 火曜日のお昼休み。

 私は鞄を掴むと、安泉さんとお昼を取るべく立ち上がる。

 それと同時に何やら、北條さんが物言いたげに、こちらに近付いてきた。

 昨日の今日で何だろうか。

 まだ、私と栞宮先輩の仲を勘ぐっている?

 いや、北條さんに限ってそれはないか、多分。


 「あ、あの……!」

 「何? どうかした?」


 意を決した様に話し掛けてくる北條さんに、私は首を傾げた。

 そんなにもじもじして、本当どうしたの。

 北條さんが唐突に私の鞄を持つ手を握り込むと、勢いよく口を開く。


 「よ、良かったら……一緒にお弁当上げようッ!!」

 「え? は……? 上げ……誰に?」


 上げる、て……何? 誰に?

 私別に誰かにお弁当作ってきた覚えはないけど。

 それとも、お弁当をその誰かに渡すのに付き合って、て事?


 「あっ、やっ、違っ……! 失礼しましたぁーー!!」


 訝しげに北條さんを見遣れば、北條さんは昨日と同じ様にくるくると目を泳がせる。

 そして、漫画ならば、ばびゅーんと言う効果音が付きそうな早さで教室内から出て行った。

 えぇと、何か言葉を間違った訳ね。

 それで、言い逃げされた私はどうしたらいいの?

 気にせずお昼食べに行っちゃっていい感じ?


 「あ、綾部さん……今の」

 「……何だったんだろうね? 私も分かんないかな」


 不思議そうな安泉さんと同様に、私も首を傾げて呟いた。

 昨日といい、今日といい、私は何回北條さんに逃げられるんだろうか。

 これで二度目、三度目がない事を切に願おう。

 内容によっては、言い逃げされるのは居たたまれない。


 「綾部さん、安泉さん! うちの満月がご迷惑をお掛けしました!」

 「え、ああ、うん。大丈夫……」


 名前を呼ばれたかと思うと、いきなり目の前で、がばっ、と頭を下げられ、早口で謝罪の言葉を貰い、私は慌てて頭を上げさせる。

 な、何……何で城崎さんに頭下げられるんだ、私。

 確かに城崎さん、城崎結唯はサポートキャラで北條さんの親友だけども……こんな、保護者みたいな子だったっけ……?

 ゲーム内の城崎結唯は、序盤で新入生代表をやってはいるが、何かとヒロインに振り回される、比較的大人しい性格の眼鏡女子だった筈だけど。

 短い栗色の髪に、焦げ茶の瞳……と、容姿は同じだが、今の城崎さんの性格が大人しいとは思えない。

 寧ろ快活そうで、サバサバしていて、姉御肌のような……。

 私の記憶違いだろうか?


 「じゃあ、あたしは満月追うから! またね!」


 城崎さんはそう言って笑顔で手を振ると、走って消えた北條さんの後を追って出て行った。

 私達はそれを静かに見送った。


 「……私達も行こうか」

 「そ、そうだね」


 暫しの沈黙の末、私が口を開くと、安泉さんはそれに頷く。

 そして、私達も昼食を取るべく教室を後にした。

 向かうは屋上である。

 中庭、もいいが、たまに北條さん達を見掛ける事があるので、今日は屋上一択だ。

 今の所、屋上に北條さんが現れる事はないし。

 たまに瀬戸くんを見掛けるが、直ぐに何処かに行っちゃうから、気にする事もないだろう。


 廊下を過ぎ、上の階への階段、屋上への階段を上る。

 屋上の扉を開いて直ぐ、ぶわりと流れてきた強い風が私の髪を靡かせた。


 「今日も貸し切りだね」

 「う、ん。そうだね」


 安泉さんが、言いながら頷いて笑う。

 お昼は、いつも通りに隅っこで。

 真ん中だと、扉から入って来た人と鉢合わせしちゃうから。

 丁度、物陰に当たる場所で食べる。

 それのお陰で、瀬戸くんを見掛けはすれど、気付かれる事はなかった訳だし。

 二人で屋上の、日差しにより少し生温くなった床に座りながら、もごもごとお昼を食べ始める。


 「そう言えば、明日、生徒会の補欠選挙、らしい、よ?」

 「確か、庶務と会計が空席なんだっけ?」

 「うん、毎年一年生に入って欲しくて、空けてるんだって」


 うんうん、知ってる知ってる。

 で、青鬼と烏天狗が生徒会入りするんでしょう。

 確か青鬼が会計の、烏天狗が庶務だった筈。


 「誰が、なるんだろうね……?」

 「……二人共男子だよ」

 「え……?」


 安泉さんが不思議そうに私を見ると、首を傾げる。

 私は曖昧げに笑った。

 思わず口が滑ったのだ。

 私は預言者にでもなる気か。


 「何でもないよ」

 「そう……?」

 「うん。……あ、安泉さんってさ、北條さんと仲良い?」

 「北條さん? えー、と……あんまり、話したことないから、仲良くはない、かな……」


 安泉さんが困ったように笑う。


 「そっか、変なこと聞いてごめんね? 今日、教室でいきなり声掛けられたからさ……安泉さん経由かなと」


 頬を掻くと、私も苦笑して言う。

 安泉さんは「ううん、大丈夫」と笑って、ご飯を口に運んだ。

 安泉さんが仲良いからではないとすると、今日の北條さんは……何で急に私に?

 今まで何のアクションもなかった筈で、昨日だって少し話した程度だし……。


 「……っ?」

 「おっ! 溜息さんめっけ!」


 ばたぁん──激しい音と共に開け放たれる扉。

 思わず肩を跳ねさせると、こちらに駆けてくる瀬戸くんの姿を確認し、首を傾げた。


 「なぁなぁ、一緒にごはん食べよーぜ」


 いつもはこちらに気付かない瀬戸くんが、一直線に私達に近付いて来るなり、突拍子もなく笑ってそう言った。

 唐突な出来事に私は目を丸くして安泉さんに視線を向けると、安泉さんも瞬きを繰り返してながら、こちらに視線を向ける。

 二人で顔を見合わせながら、頭を捻った。

 あー、何故に? 意味分かんないよ?

 君は北條さんとご飯食べなさい。

 

 「いや」

 「えー、何でっ?」

 「……どうして私達が瀬戸くんと一緒にお昼食べるの」


 私は即時に首を横に振る。

 瀬戸くんが唇を尖らせようと、それは変わらない。

 何が悲しくて死亡フラグ付属の烏天狗と、陰陽師がお昼食べなきゃなの。


 「それは……俺が一緒に食べたいと思ったから!」

 「却下」

 「うぇっ?!! 即答っ?!!」


 きらきらと眩しい笑顔で放たれた一言を、有無を言わせずに切り捨てる。

 瀬戸くんが目を丸くしているがスルーで。

 北條さんと言い、瀬戸くんと言い……何で、急に一緒にお昼を食べたがるのか……?


 「あ、綾部さん? 彼が一緒でも私は大丈夫だよ……?」

 「いいのかっ?!」

 「安泉さん、気を遣わなくていいんだよ。割り込んできたのは瀬戸くんなんだから」


 私達のやり取りを見てか、気を遣った安泉さんからお声が掛かる。

 あからさまに目を輝かせる瀬戸くんにイラっときたので、取り敢えず安泉さんに瀬戸くんを放って置くように言う。


 「で、でも……」

 「大丈夫、瀬戸くんは北條さんと食べるだろうし」


 そう、そうなんだよ。

 ヒロインと攻略対象の輪に、わざわざ入りたいだなんて思わない。

 

 「えー、そんな事言わずに……!」


 瀬戸くんがぶつくさと言いながら、いつぞや宜しく私の体を左右に揺する。

 食べてる! 今、食べてるからっ。 


 「っはぁー……瀬戸くんは北條さん達と食べるんじゃないの……?」

 「ん? いや、一人。今日は溜息さんと食べようかと思って!」


 静かに溜め息を付いた後、じとりと瀬戸くんを睨み付けて問うと、意外な回答が返ってくる。

 ……うわ、瀬戸くん、北條さん達を断ってこっちに来たの?

 何それ。北條さん達より、私達とご飯を食べたい、て?

 ないないない。

 ヒロイン差し置いて、攻略対象が悪役に構う意味が分からない。

 ……今は、悪役辞退中だけど。


 「……綾部さん」 

 「……勝手に混ざればいいよ」


 いい加減、瀬戸くんが気の毒に思えてきたのか、安泉さんから再び声が掛かる。

 ……仕方ない、か。

 これ以上邪険にするのも、なけなしの良心が痛むし、何より安泉さんに気を遣わせ続けるのは嫌だ。

 私は素っ気なく瀬戸くんに了承の意を告げる。


 「やった! さんきゅ」


 私がやっと口にした肯定の言葉に、ぱっと満開の花が咲いた様に瀬戸くんが笑った。

 画面越し──スチル、で見た事のある様な笑顔。

 ヒロインに向ける様な飛び切りのそれに、僅かに、じんわりと心の奥に暖かみが広がるのは見ない振り。


 ──誰が攻略対象に絆されるものか。


 私は誤魔化すようにお弁当を咀嚼した。

 早くお昼が、この時間が終わる様に。




.

 







これにて、二章目とある少女の逃走劇、完でございます。

次話から三章目突入!!

二章目はちょっと短めでしたね?

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