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悪役からヒロインになるすすめ  作者: 龍凪風深
二章 とある少女の逃走劇
30/66

29 逃走劇の裏側

視点変更。

今回、主人公はお休みでございます。

 「……綾部」


 保健室のベッドの上、小さく寝息を立てる鎮馬の名前を呼ぶ。

 怜也は静かに近寄ると、彼女の眠るベッドに腰掛け、顔を覗き込む。

 僅かに赤みの差す頬を見る限り、大分体調は良さそうだった。

 怜也はほっと安堵の溜め息を吐く。


 ──無事、みたいだな。一応は。


 初めて会った時から、何故だか不思議な感じのする鎮馬を、怜也は少なからず気にしていた。

 魔眼が効かない可能性と、悠里が怪しんでいる事、加えて黒髪切りや人狼に襲われ、軽傷はあれど無事であった鎮馬は一体何者なのか。

 悠里曰く、自分達をさり気なく避けているらしい彼女は、本当は自分達の正体を知っているのか。

 疑問の多い彼女に付いて少しでも知る為に、怜也はお昼休みになるなりここに来ていた。


 「お前は、何なんだろうな」


 呟いた言葉は誰にも聞かれる事なく、空気に溶ける。


 周囲の一般生徒とそう変わらない霊力からして、ただの一般人なのか。

 それとも、高い霊力を有し、それを隠す一般人なのか。

 はたまた高い霊力を隠している陰陽師なのか。

 前者ならば何の問題もないが、後者二つだと問題がある。


 高い霊力を持つ一般人など、そう居らず身を守る術など持っていない筈なのに、霊力の高い教師や妖力の高い自分達妖怪から、霊力を隠せる程の高等技術を独学で学び取った事になる。

 もし、陰陽師が師に付いたならば、弟子も陰陽師に当たるのだから。

 とても稀なパターンだ。


 霊力の高い陰陽師についても、名も知られていない陰陽師が、そこまで強い霊力を有しているとは考えづらい。

 もし居るとしたら、安倍家の人間か、何処にも属していない陰陽師か。

 だが、もしそうならば、何故正体を隠すのか。

 何故、この学園に来たのか。


 ──いや、安倍家の人間だとするなら、理由は……。


 そこまで考えて怜也は首を横に振った。


 それは、ない。

 安倍家が天星院家に乗り込む事などない。

 確か今安倍家は次期当主に付いてごたついている筈だからな。

 おまけに、綾部が今の安倍家の人間には見えない。


 「綾部、お前は俺達が妖怪だと知っているのか……?」


 最も問題なのは、鎮馬が敵か味方か。

 はたまた、どちらでもない中立者か。


 怜也はそっと、壊れ物を扱うように優しく、僅かに血の香りの残る左肩を撫でる。

 人間特有の、吸血鬼の食欲を刺激する甘い匂い。

 怜也は静かに疼く牙を、押し止めた。






 ◆



 お昼休みの食堂。

 怜也、悠里、満月の三人は各々のお昼を食べながら、雑談に花を咲かせていた。


 「……でね、そしたらさぁ、満月ちゃんってばいきなりオレと綾部ちゃんが付き合ってるとか勘違いし始めてもう爆笑!」


 けらけらけら、とお腹を押さえて悠里が思い出し笑いをする。

 その横では満月が恥ずかしそうに身を縮こませ、向かいでは怜也が黙って話を聞いていた。


 「う、うぅ……栞宮先輩、そんなに笑わなくても」

 「えー、こんなに面白いのに?」

 「悠里、その辺にしておけ。北條が今にも泣き出しそうだ」


 眉をハの字にする満月に、悠里が飄々と返す。

 そんな悠里に、満月の事を流石に不憫に思ってか、怜也が止めに入る。

 悠里は差し詰めいじめっ子であった。


 「仕方ないなぁ」

 「緋之瀬先輩! 栞宮先輩がいじめっ子の顔してますッ……?!!」


 悠里が今だに楽しそうに笑う。

 満月は怜也に助けを求めるように言うのに、怜也は僅かに苦笑した。


 「悠里。で、綾部の反応は?」

 「ふっつーに、冷たくされたよ」

 「そうか、まあ、予想通りだな」


 話を逸らすように怜也が問うのに、悠里は唇を尖らせながら答える。

 それは、怜也に取って予想通りの答えであり、静かに納得した。


 まあ、あの綾部ならばそんな反応が当たり前だろう、と怜也は知った様に思う。


 「怜也の方は?」

 「……緋紗羅に邪魔された」


 怜也は僅かに眉根を寄せると、ばつが悪そうに呟く。

 思い出すのは保健室から追い出された時の一連のやり取り。

 悠里も予想通りの結果だったのか、「あー、やっぱりかぁ」なんて苦笑した。


 「な、何の話ですか?」

 「こちらの話だ。気にするな」

 「え、えー、気になります」


 自分を置き去りに話を進める先輩二人に、満月が堪らず問い掛けるも、二人は顔を見合わせると、怜也が首を横に振る。

 満月は不満の声を洩らし、二人をじっと見つめた。


 「満月ちゃんはさぁ、綾部ちゃんと仲良くなりたくない?」


 悠里により、話を逸らす様に持ち掛けられた話に、満月は首を傾げる。


 「そりゃあ……もしなれるなら、仲良くなりたいですよ! だって、綾部さん、美人ですし、長い黒髪は綺麗ですし、格好良いですもん! 何て言ったって私、入学式の時に一目惚れしたんですから!」


 嬉々と瞳を輝かせ、胸を張りながら語る満月に、二人は再度顔を見合わせると、同時に笑い出す。

 怜也は口元を押さえ、肩を震わせ、悠里は声を上げて。

 当の本人たる満月は、意味が分からずに、ぽかんと口を開けて二人を凝視した。


 「ひ、一目惚れって……!」

 「わ、笑わないでくださいよ~! 私、そんなに変な事言いましたかッ?!!」

 「くくくっ……綾部に一目惚れか」


 自分を見て笑う二人に、満月がはっと我に還り抗議するが、全く取り合って貰えず、怜也にまでくつくつと喉を鳴らして笑われる。


 あの、鎮馬に一目惚れ。

 恐らく満月も含む自分達を避けているだろう鎮馬に一目惚れだなんて、大変だ。


 この時、二人の思考がリンクしていたのは誰も知らない。 


 「あっはははっ……いや~、本当満月ちゃんは素直だねぇ」

 「そ、それって……馬鹿にしてますっ?」

 「いや、そんな事はない」


 今だに笑い続ける二人に、満月はむっとして唇を尖らせる。

 一日に二度も立て続けに笑われるなんて。

 満月の怒る気配を察してか、怜也が告げるも、満月はぷい、とそっぽを向いてしまう。

 そんな満月を、悠里はテーブルに頬杖を付きながら、見つめると一言。


 「ねぇ、満月ちゃん。綾部ちゃんを籠絡してみない?」


 にんまり、三日月を描く様に妖しく、笑って言った。





本当は淡々と主人公視点で進む筈がちょっとヒロイン達の話を入れたくなって、途中変更しました。

最初に執筆していた、元29話目は30話目のネタになる予定です。

もうそろそろ、ヒロインが出張り始める予感(笑)




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