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悪役からヒロインになるすすめ  作者: 龍凪風深
一章 物語プレリュード
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02 接点回避とルームメイト

 暫しの間、私が窓の外を眺めてぼーっとしていた所、いつの間にやら入学式の開始時刻になっていた。


 危惧していた遅刻者は現れず、新入生はちゃんと全員揃ったらしい。

 呼び出しに来た教員に連れられ、皆あいうえお順に二列に並んでぞろぞろと歩く。


 入学式会場の前で一度止まり、学級担任がお浚いするように、控え室内でも説明していた入場、着席の要領を指示する。

 私含む新入生達は、話を真剣に聞き、頷く。


 お浚いを終えた所で、いよいよ私達の出番だ。

 まず、拍手喝采の中、私達新入生が入場し、席に着く。


 その後、国家斉唱に始まり、学級担任による新入生の氏名読み上げ、入学許可の宣言を含む校長による式辞、新入生代表による宣誓、地域の方からの励ましの言葉、在校生代表から歓迎の言葉、そして最後に校歌斉唱と入学式は淡々と進んだ。


 新入生代表と在校生代表は、眼鏡女子なサポートキャラと吸血鬼な攻略対象であったが関わる気はないのでスルーしよう。


 入学式後、生徒会主催で新入生を祝う会が執り行われた。

 席はまたあいうえお順……ではなく、何を思ったのか、まさかのランダム席順。

 分かり易く名前の書いた紙が置いてあるのは助かります。

 けど、何故よりにもよって、私をこの席にしたんだ!


 前方、私の前の席に座っている少女をちらりと見て思う。

 羊毛を連想させるふんわりとしたアプリコット色のセミロングに、くりっとしたキャロットオレンジの大きな目が特徴的で小柄な美少女──彼女こそが、今最も接触を避けなければいけない人物、原作ヒロインだ。


 よりにもよって、何故私がヒロインと向き合ってるのッ!?


 確かに隣も嫌だが、否応無しに互いが視界に入るこの席はもっと嫌だ。

 接触を避けようと思っていた矢先にこれって、何の虐めだろう?


 「……はぁ」


 人知れず私は小さく溜め息を吐いた。

 そんな私を尻目に、当の本人はまだ緊張しているのか、若干挙動不審になりながら、無言で周りの様子を窺っている。

 私はどうしたものか、と頭を捻った。


 終始無言を貫くか、敢えて話すか。

 いや、ヒロインに声掛けるのはないな。

 ここは隣の子に話し掛けて、入る余地をなくすか……。

 それも無理か、話題なんてないし。

 要は話し掛けられても、当たり障りなければいいんじゃないか?

 いやいや、甘く見ていると痛い目を見るのはこっちだ。


 芋づる式で攻略対象達とも接点を持ってしまえば、目も当てられない。

 原作に関わらないように、一切会話しないように、だなんて過敏だとは思うけど、背に腹は代えられない。


 何たって、こっちは命が掛かってる……!


 「……むぐ」 


 悩んだ末、私は今忙しいから話し掛けるなオーラを放ちながら、目の前のお弁当とお菓子達に全神経を注ぐことにした。

 無言のまま、ひたすら口を動かして食べ物達を咀嚼そしゃくし、嚥下えんげする。


 その内に、周りもこの雰囲気に慣れてきたのか、話し声がちらほらと。

 目の前のヒロインも話したいのか、ちらりとこちらの様子を窺っていたが、素知らぬ顔でこれまたスルー。


 すると、隣の子と楽しげに会話し始めたので、当初の会話しないと言うミッションは成功した事となる。

 グッジョブ、自分。

 自らに親指を立てながら、お弁当の次はデザートと、袋入りのロールケーキに手を付けた。

 味も見た目もノーマルなやつで、程良い甘さと生地のふんわり感が堪らない。


 周りでは、親交を深める為と生徒会役員を主催に、催しとしてクイズ大会やら合唱やらと行っているが、私は特に我関せずを貫いて、一人甘いもの達を堪能した。

 ヒロインを避けた結果、一切喋らない食いしん坊キャラになったが、こればっかりは仕方がない。


 他にヒロインと喋らない口実が思い付かなかった訳だから。

 こうして、祝う会は私にとっては無言のただの食事会として幕を閉じた。





 学校玄関前、入学式と言う大イベントを無事に終えた私は、母と二人でそこに立っていた。

 祝う会は楽しかったかとか、入学式緊張したかとか、聞いてくる母に、私は適当に返事を返していく。

 母は終始笑顔で私の話を聞いていた。


「……それじゃあ、あたしは帰るけど、気を付けるのよ?」

 「うん、分かってる。大丈夫」


 話が一段落付き、母が少し心配そうに私を見るので、私は言いながら薄く笑って見せた。


 祖母もであったが、何故母がこんなにも私の心配をしているかと言うと、ここ、逢魔ヶ時学園は高等部から全寮制となり、私は今日から寮住まいになるからだったりする。

 普通はここまで心配したりしないんだろうが、この学園は妖怪が通っていたり、私が陰陽師だったりするのが心配の要因になってしまったのだろう。


 我が家に置いて、祖母は高い霊力を持ち、分家の末端でありながらも、安倍家とは繋がり深いらしく、数年前までは連絡も取っていたみたいだ。

 その娘たる母も高い霊力を持っていて、父と結婚するまでは私と同じく陰陽師をしていたらしい。


 そんな二人の血を継ぐ私と兄も霊力が高いのだが、父だけは感じる事しか出来ず、見鬼の才すらない。

 私的には、父みたいに霊力なんてさしてなくても良かったのだけど、本人曰わく「一人だけ仲間外れみたいで、ちょっと寂しい」とか。


 「またね?」

 「うん、またね」

 

 ひらり、軽く手を振って母が短く別れを告げる。

 私は小さく頷くと、手を振り返しながら自分もそう別れを告げた。

 遠くなる母の背を見送った後、私は今日から自分の過ごす事となる寮へと足を進めた。


 寮は大きな白い建物で、北側が男子、南側が女子と分かれており、宿泊施設のようなそこそこ大きな浴場、トイレに、建物の真ん中には共同の食堂がある。

 部屋にはミニキッチンと冷蔵庫があるが、朝晩は食券でご飯が食べられるので楽だ。


 部屋は二人部屋、三人部屋、四人部屋の三種類があり、一番多いのは二人部屋で、大人数を好まない私は迷わず二人部屋にした。

 ルームメイトの名前は、 安泉雛乃あずみひなの と言うらしい。


 寮内も学校と同様、土足厳禁で、私はまた用意しておいた上靴に履き替えると、ちらりと案内板を見てから、女子部屋のある南側へ向かう。

 部屋には間違わないように番号が振ってあり、私の部屋は二階の三十一号室だ。


 とんとんとん、と軽快に階段を上って行くと、程なくして部屋に辿り着いた。

 ドアノブを回して扉を開けると、そこには、下で二つに括られたクリーム色のウェービーなロングヘアーに、焦げ茶色の瞳、羨ましいくらい色白な肌の、これまた美少女と目がかち合う。

 私の存在に驚いたのか、彼女の肩が大きく跳ねた。


 「……っあ、あああああ、あのっ!!」


 私を視界に認識した途端、慌て出したかと思うと、前半凄まじくどもりながら、決起迫る勢いでこちらに話し掛けてくる。


 ……何だ、この子は。

 何か凄い必死だけど、極度の人見知りか何かなのだろうか?


 「わ、わわ、わた、私っ……あ、安泉雛乃ですっ! る、ルームメイトの方ですよねっ? よ、よろしくお願いしますっ……!」

 「私は綾部鎮馬。よろしくね? 安泉さん」


 更にどもりながら、彼女が自己紹介をし、深々と頭を下げると、握手してください! 、と言わんばかりに両手を差し出される。


 安泉さんの勢いに圧倒され、苦笑いを零しつつも、私も自己紹介し、伸ばされた手を握り、握手する。

 すると、安泉さんは「はっ、はいぃぃぃぃ……!」だなんて、またどもりながらも私の手を握り返す。


 現時点でルームメイトの安泉さんは私の中で、極度の人見知り、引っ込み思案に認定された。


 「安泉さん、取り敢えず落ち着こうか? 後、出来れば敬語やめて欲しいな。同級生だし」

 「う、うん……ありがとう、綾部さん」


 今だに忙しない安泉さんに、私は落ち着くよう促し、ついでに敬語をなくしてくれるように話す。

 安泉さんは小さく頷くと、私の言葉を聞き入れてくれたようで、敬語をやめてくれた。


 話した感じ悪い子ではない。

 むしろ素直な良い子の印象。

 美少女なのに、ゲーム内には出てなかったみたいだし、仲良くしても支障はないだろうと思う。


 「まだ、荷物ってダンボールの中だよね? 取り敢えず荷解きでもしよっか」

 「あ、私もう終わったから……良かったら手伝う、よ?」


 私はふとまだ部屋の整理をしていない事に気が付き、先に部屋に運んであった荷物の整理を提案すると、安泉さんは苦笑い気味に自分は終わった事を告げ、遠慮がちに手伝うと言ってくれる。

 それに、私が「悪いからいいよ」と返すと、安泉さんは「大丈夫、丁度……暇だったの」と笑うので、軽く荷解きを手伝って貰う事にした。


 荷物はそこまで多くはなかったが、話ながらした為か、それなりに時間が掛かり、明日の準備と合わせて、今日の残りの時間を見事に費やした。




.


やっとキャラ登場…!

雛乃ちゃん、少しおどおどし過ぎであんまり好かれそうな子ではありませんが、これから良い子として頑張ると思うので…!

雛乃ちゃんは主人公の友人ポジに落ち着いてくれたらな、と考え中。

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