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悪役からヒロインになるすすめ  作者: 龍凪風深
二章 とある少女の逃走劇
29/66

28 廊下で鉢合わせ

今回は副会長とヒロインのターン!

 「さて、あなたは綾部鎮馬さんであっている?」

 「あ、はい」

 「篠之雨先生から聞いているわ。具合が悪いのは今朝から?」


 私は緋紗良先生の言葉に小さく頷いた。

 篠之雨先生が、私の事をちゃんと伝えてくれていたようだ。

 緋紗良先生は先ず私の手を取り脈を計ると、「少し早いわね」と呟いて、今度は私に体温計を渡す。

 私は黙ってそれに従い、体温を計る。

 程なくして鳴った体温計を確認すると三六度を差していた。

 至って普通、平熱だ。

 私が体温計を緋紗良先生に返すと、温度を確認して片付けた。


 「少し隈ができてるわ」


 そう言って緋紗良先生が、優しく目元に触れてくる。


 「今はもう平気?」

 「多分大丈夫かと」

 「そう。軽い寝不足かもしれないわね。大丈夫ならもう戻っていいわ。今は様子見で、また具合が悪くなったら来なさい」

 「はい、ありがとうございました」


 私はベッドから下りると、緋紗良先生に軽く頭を下げて保健室を後にした。

 また、保健室にお邪魔する日はそう遠くない気がする。

 が、成る可くは来ないようにしよう。

 緋紗良先生に正体がバレたら、要らないフラグが立ちそうで怖いし。

 私は教室に向かい、ぼんやりと廊下を歩いた。

 確か、時計は十二時半を差していたから、私の見間違いでなければ今はまだお昼休みの筈。

 早く戻ってお弁当食べよう。

 お昼抜きは流石に……。


 「!」


 ……あ、れ? 誰も居ない。

 不意に背後から視線を感じ、慌てて振り返った。

 だが、そこには誰も居らず、私は静かに首を傾げる。

 微かだけど、妖気も感じた気がする。

 けど、気のせいだった……?

 いや、でも、何か、気のせいな気がしない。

 気配もなく、誰も居ないけど、でも何か引っ掛かるなぁ。


 「! わぷっ……!」


 視線に付いて悩みながら、曲がり角を曲がる。

 注意力が散漫になっていたのがいけなかったらしい。

 固い何かに顔面から激突してしまい、私は小さく悲鳴を上げた。


 「あれ、綾部ちゃん。大丈夫?」

 「……栞宮先輩、と北條さん」


 聞き知った声に反応し、見上げるとそこに見知った顔。

 その隣にもまた見知った顔。

 私は丁度向かいから曲がってきた栞宮先輩の胸板に激突したようだ。

 ……何、ベタな展開引き起こしてるんだ、私。


 「だ、大丈夫です……」


 慌てて栞宮先輩から距離を取ると、そう返事を返す。

 少しドモったのは気にしないで欲しい。


 「……綾部さん。体調、悪いんだよね? もう平気なの……?」

 「全然平気! もう治ったから、気にしないで」


 心配そうにして声を掛けてくる北條さんに、私は笑顔を取り繕いながら、あんまり喋った事もないのに、心配された事に多少驚いた。

 流石はヒロイン、と言った所だろうか。


 「そっかぁ、なら、良かった!」


 北條さん、貴女の笑顔が眩しいんですが。

 もうどっか行っていいですか。


 「綾部ちゃん、具合悪かったんだ」

 「え? ああ、まあ……」

 「ふーん、だから……怜也が昼休みになるなり消えたのかぁ」


 ぽつり、栞宮先輩が零した呟きに私は首を傾げた。

 何が、だからなのだろうか。

 緋之瀬先輩は絶対栞宮先輩の差し金かと思ったのに、どうやら違うみたいだ。


 「ま、いいや」


 にっこり、栞宮先輩が人の良さそうな笑みを浮かべる。

 え、何か楽しそう。

 何か思い付いた感じの顔してるんだけど。

 栞宮先輩が私の顔と北條さんの顔を交互に見遣るのに、私達二人は首を傾げた。

 それと同時──。


 「……っひゃぁ?! な、何するんですかっ?!! 栞宮先輩っ?!!」


 何を思ったのか、栞宮先輩がいきなり北條さんを抱き寄せると、そのままぎゅっと横から抱き締め、北條さんの肩に顎を乗せる。

 そんな栞宮先輩の唐突な行動に、北條さんは一瞬で顔を真っ赤にすると、驚愕の悲鳴を上げた。

 何そんな、目の前でイチャラブされても困るんですが。

 何ですか、そんなに私に北條さんとラブラブなのを見せつけたいんですか。

 余所でやって下さい、余所で。

 私の居ない何処か遠くで。


 「あー、私はお邪魔虫ですね。それでは退散します」

 「ちょっ、反応はそれだけっ?」

 「はぁ、まぁ、普通じゃありません?」

 「えー、もうちょっとさぁ、何かないの?」

 「……ありませんが」


 冷ややかに栞宮先輩を見遣る。

 私達を交互に見ながら、北條さんがえ、え、と困惑気味に声を洩らすと、栞宮先輩はぱっ、と北條さんから離れた。


 「んー、期待したオレが馬鹿だったかぁ。あわよくば綾部ちゃんに嫉妬して貰おうと思ったのに」

 「それって、栞宮先輩の事を好きな女子にやらなきゃ意味ないのでは?」

 「ぶー、綾部ちゃんとオレの仲じゃない?」

 「どんな仲ですか」


 私、栞宮先輩と然程仲を深めたつもりはありませんが。

 妄想も大概にして下さい。

 私なんかに構う程そんなに女の子好きですか、そうですか。

 隣に北條さん居るんだから、余計な言葉は無用です。

 最初同様に勝手に二人でイチャラブして下さい。

 私は速やかに消えます、えぇ、それはもう迅速に。


 「え、え、えーッ?!!」


 唐突に北條さんが声を上げる。

 驚愕に目を見開き、まだ私達を交互に見遣る北條さんに私達は思わず顔を見合わせた。

 何、どうしたの?


 「あ、綾部さんと栞宮先輩って付き合ってたんですかっ?!!」


 っどうしてそうなった……!!?


 「え、違っ……!」

 「そんな、気を使わないで! 私、栞宮先輩とは何もないから!!」

 「え、ちょっ……何勘違いしてるのっ?!!」

 「あぁ、綾部さんと栞宮先輩がそんな関係だったなんてっ……」


 勘違い甚だしい発言に慌てて訂正の声を上げるも、聞いて貰える様子はない。

 いや、えー、北條さん、貴女ヒロインなんだから少しは人の話を聞こうか!

 何とかして誤解を解かねばと、栞宮先輩を見るが、栞宮先輩は北條さんの発言に何故かツボったらしく、笑いに肩を震わせていた。

 どうしよう、この狐、今すぐ滅したい……!

 笑ってないでどうにかして下さいよ!


 「あっははは! あー、本当、最高! 誤解だよ、満月ちゃん、どうしてそうなるの」

 「……え、え? 誤解?」


 私が目を細めて睨み付けていると、栞宮先輩は肩を震わせてたと思ったら、急に声を上げて笑い出し、その後北條さんに誤解である事を告げる。

 北條さんはただ、困惑した表情を浮かべた。

 ……栞宮先輩の話は聞くのね。

 私の話は信じてくれないのに。

 そんなに私の言葉は聞き取り辛いだろうか。

 ちょっと、へこみそうだ。


 「あ、あの……ごめんなさいぃぃぃぃっっ……!!!!」


 我に還ったらしい北條さんが、自分の早とちりだと気が付き、どうしたものかと視線を泳がせる。

 そして、勢いよく頭を下げて謝罪したかと思うと、私と栞宮先輩を置き去りにして来た道を走り去ってしまった。


 「……栞宮先輩、置いて行かれましたけど」

 「あっはは、そうだねぇ。本当見てて飽きないなぁ」


 栞宮先輩が面白そうに目を細め、北條さんの走り去った方を見つめながら、しみじみと呟いた。


 「そうですか。早く追い掛けたらどうです?」

 「……綾部ちゃんも一緒にお昼食べない?」

 「結構です」

 「うわ、即答。またオレふられたよー」

 「そう言う言動が勘違いの元なんですよ。気を付けて下さい」


 本当、気を付けて下さい。

 勘違いから私まで苛められたんじゃ、溜まったもんじゃないですよ。

 北條さんには貴方達攻略対象と言う助けがあったとしても、私にはないんですからね。


 「ね、オレと噂になるのはいや?」


 ……この狐は何を言っているんだ。

 不意に、普通の女子なら黄色い声を上げて、卒倒しそうないい笑顔を浮かべると、首を傾げて栞宮先輩が言う。

 何だ、噂って。

 噂なら北條さんとなればいい。

 私に来る意味が分からない。

 どんだけ私の反応を期待してるんですか。

 そんなんで、私が落ちるとでも?

 ないです。攻略対象は皆、私にとってある意味敵なんですから。

 絆されたりしません。

 仲良くなんてしません。

 私は更に呆れた視線を栞宮先輩に向けると、冷たく告げた。


 「嫌です」

 「それも即答? いい加減オレも傷つくなぁ」


 そう言って歩き始める栞宮先輩に釣られて、私も歩を進めた。

 いい加減、私をからかおうとするのは止めて貰いたい。

 私は北條さんみたいに反応しませんから。




後数話で二章目完です。

本当は去年の内に終わらせたかったのですが、無理でしたね。

さて、二章目完結まで更新速度が余り落ちないように頑張ります。

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