表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
悪役からヒロインになるすすめ  作者: 龍凪風深
二章 とある少女の逃走劇
25/66

24 寮に帰宅しまして

安泉さんのターン!

 ────ぱたん。


 「はぁぁぁぁぁぁ……」


 部屋に戻り、扉を閉めると、私はその場で脱力。

 ぺたん、と床に座り込んだ。

 今日はとても疲れた。早くお風呂に入って寝たい。

 結局八神先輩に送って貰っちゃったし。

 保健室から出て、寮で別れるまでさして会話はしなかったけれど。

 本当にもう、最近は散々だ。

 いや、正しくは最近じゃなく、この学校に入学してからだろうか。

 流石は死亡フラグだらけの学校……と、言った所か。

 他の人は知らないが、少なくとも、私に取って、この学校、この環境は優しくはない。

 今すぐ、帰りたい。切実に助けてください、お祖母様。

 この念がもし届いても、多分辛抱しなさいと言われるだけだろうけど。


 「あ、綾部さんっ……!!!」

 「安泉さん?」


 安泉さんが部屋の奥から慌ただしく出て来たかと思うと、一直線に私に向かい、思い切り抱き付いてくる。

 私は目を見開きながらも、安泉さんを受け止め、その場で固まった。


 「……え? え? ど、どうしたのっ……? 大丈夫……?」


 私は安泉さんに前からきつく抱き付かれながら、頭を困惑させた。

 これは、どういう状況……?

 何で安泉さんが私に抱き付いてるの?

 え、何これ夢?

 実はまだ保健室で寝ていて……。

 現状を理解しきれず、ぱちぱちと瞬きを繰り返す。

 私、何かした……?


 「げ、下校時間……過ぎてるのにっ……全然、帰って来なかったからっ……! 心配、だったのっ……」

 「……ご、ごめん。安泉さん、ちょっと色々とあってね……?」


 私をぎゅうぎゅうと力いっぱい抱き締めながら、安泉さんが言う。

 これは、夢じゃないようだ。

 私は凄く申し訳なく思い、宥めるように謝罪した。勿論、遅くなった理由は濁して。

 そっか、そうだよね、ルームメイトが全然帰って来なかったら、ちょっと心配するよね。

 最終下校時間は六時なのに、今はもう八時過ぎてるし、外真っ暗だし。

 普通は六時になった時点で一般生徒は学校から出されるのだが、多分、新垣先輩に襲われて気絶したのと、付き添いが風紀委員であった事で、私は特例で居残り出来ただけだろうと思う。

 だから、私は外出届けなんてものも寮に出していないので、当然何の知らせも受けていない安泉さんが心配するのは、当たり前で……寮側だって、もし八神先輩が私の帰宅が遅くなる事を連絡していなかったら、心配していたのだろう。

 かく言う私も、安泉さんが帰って来なかったら心配するだろうし、安泉さんの心配はごもっとも……でも、何だろ。


 「……~っ」


 安泉さんが抱き付いたまま無言で力を強めた。

 私は安泉さんの背に手を回し、抱き返すと、大人しくされるがままになる。

 安泉さん、て実は凄い心配性……?

 にしても、これは心配性過ぎな気がする。

 いや、これが普通? 普通、なの?

 まだ、一応高校生な訳だから……でも、高校生って大人と子供の境界線が微妙なお年頃だよね。


 「……」

 「安泉さん? えぇと……」

 「……」

 「私は、大丈夫だよ」


 安泉さんの背中をぽん、ぽん、と緩く叩く。

 すると、安泉さんが緩慢な動作で私から離れた。


 「……ご、ごめん」

 「いや、私の方こそ心配掛けてごめんね? ありがとう」


 取り敢えず、安泉さんの位置付けは心配性って事で。

 また心配掛けないよう、今後気を付けなきゃいけないな……。


 「……安泉さん、着替えちゃうね」


 少しの沈黙の後に、私は安泉さんに一言断りを入れ、制服から部屋着、紺色のスウェットへ早着替えする。

 脱いだ制服はハンガーに掛け、ロッカーの中に仕舞う。

 保健室で寝てた訳だから、多少なりとも既に皺が寄ってるだろうが、更に皺を増やす気はない。

 後からアイロン掛けよう。



 着替え終わった私は、夕食を作ろうかと動くが、安泉さんに制止される。

 そして、作り過ぎてしまったとかで、安泉さんの手料理─肉じゃがと、豆腐とワカメの味噌汁に焼き鮭─を夕食に頂く事になった。

 安泉さん自身、まだ夕食を食べていなかったらしく、私は安泉さんが用意してくれた、ほかほかのご飯を二人で談笑混じりに食べた。

 安泉さんの料理はレベルが高い。

 たまに食べさせて貰う事があるのだが、今日も美味しかった。

 安泉さんはきっと良いお嫁さんになれるに違いない。

 夕食を終え、せめて片付けはと、言い張り、暫しの押し問答の末、私は食器を洗う。

 して貰ってばっかりは少し気が引けるので良かった。


 「……あ、の、綾部さん。明日、なんだけど……」


 食器を洗っていると、不意に安泉さんから声が掛かる。

 明日……? 何かあっただろうか?

 私は記憶を手繰り寄せながら、首を傾げ、ちらりと安泉さんの様子を窺うと、用件を問うた。 


 「明日がどうかした?」

 「お出掛け、しないかな?」

 「お出掛け……? うん、いいよ」

 「本当?! じゃあ、ね……近くに、新しく出来た喫茶店、あるの。そこ、行かないっ?」

 「へぇ、近くに喫茶店なんて出来たんだ。いいね、行こうか」


 嬉々として話す安泉さんに、こちらも笑顔になりつつ、私はお出掛けの誘いを承諾した。

 喫茶店かぁ……新しく出来た、て言うのに少し引っかかるけど、ゲームでファミレスに行くイベントはあっても、喫茶店に行くイベントはなかった筈だし、大丈夫だろう。

 行く時間帯が被る確率なんて低いし、何より安泉さんの折角のお誘いを無碍にする気はない。

 もし、何かあるようだったら、安泉さんの手を引いて全力で逃走しよう。


 「あの、ね、そこ……パンケーキが美味しい、らしいの!」

 「……私パンケーキ、凄い好き」


 ……これは絶対行かなければ。

 安泉さんと二回目のお出掛けにプラス、パンケーキなんて幸せじゃないか。

 休日の予定なんてなく、部屋に引きこもろうと思ってた訳だし。

 今日の疲労回復に甘い物は丁度良いね。


 「時間は何時頃に、する……?」

 「うーん、お昼頃とかは?」

 「うん、それで」

 「じゃあ、一時くらいかな」

 「一時、ね!」


 


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ