24 寮に帰宅しまして
安泉さんのターン!
────ぱたん。
「はぁぁぁぁぁぁ……」
部屋に戻り、扉を閉めると、私はその場で脱力。
ぺたん、と床に座り込んだ。
今日はとても疲れた。早くお風呂に入って寝たい。
結局八神先輩に送って貰っちゃったし。
保健室から出て、寮で別れるまでさして会話はしなかったけれど。
本当にもう、最近は散々だ。
いや、正しくは最近じゃなく、この学校に入学してからだろうか。
流石は死亡フラグだらけの学校……と、言った所か。
他の人は知らないが、少なくとも、私に取って、この学校、この環境は優しくはない。
今すぐ、帰りたい。切実に助けてください、お祖母様。
この念がもし届いても、多分辛抱しなさいと言われるだけだろうけど。
「あ、綾部さんっ……!!!」
「安泉さん?」
安泉さんが部屋の奥から慌ただしく出て来たかと思うと、一直線に私に向かい、思い切り抱き付いてくる。
私は目を見開きながらも、安泉さんを受け止め、その場で固まった。
「……え? え? ど、どうしたのっ……? 大丈夫……?」
私は安泉さんに前からきつく抱き付かれながら、頭を困惑させた。
これは、どういう状況……?
何で安泉さんが私に抱き付いてるの?
え、何これ夢?
実はまだ保健室で寝ていて……。
現状を理解しきれず、ぱちぱちと瞬きを繰り返す。
私、何かした……?
「げ、下校時間……過ぎてるのにっ……全然、帰って来なかったからっ……! 心配、だったのっ……」
「……ご、ごめん。安泉さん、ちょっと色々とあってね……?」
私をぎゅうぎゅうと力いっぱい抱き締めながら、安泉さんが言う。
これは、夢じゃないようだ。
私は凄く申し訳なく思い、宥めるように謝罪した。勿論、遅くなった理由は濁して。
そっか、そうだよね、ルームメイトが全然帰って来なかったら、ちょっと心配するよね。
最終下校時間は六時なのに、今はもう八時過ぎてるし、外真っ暗だし。
普通は六時になった時点で一般生徒は学校から出されるのだが、多分、新垣先輩に襲われて気絶したのと、付き添いが風紀委員であった事で、私は特例で居残り出来ただけだろうと思う。
だから、私は外出届けなんてものも寮に出していないので、当然何の知らせも受けていない安泉さんが心配するのは、当たり前で……寮側だって、もし八神先輩が私の帰宅が遅くなる事を連絡していなかったら、心配していたのだろう。
かく言う私も、安泉さんが帰って来なかったら心配するだろうし、安泉さんの心配はごもっとも……でも、何だろ。
「……~っ」
安泉さんが抱き付いたまま無言で力を強めた。
私は安泉さんの背に手を回し、抱き返すと、大人しくされるがままになる。
安泉さん、て実は凄い心配性……?
にしても、これは心配性過ぎな気がする。
いや、これが普通? 普通、なの?
まだ、一応高校生な訳だから……でも、高校生って大人と子供の境界線が微妙なお年頃だよね。
「……」
「安泉さん? えぇと……」
「……」
「私は、大丈夫だよ」
安泉さんの背中をぽん、ぽん、と緩く叩く。
すると、安泉さんが緩慢な動作で私から離れた。
「……ご、ごめん」
「いや、私の方こそ心配掛けてごめんね? ありがとう」
取り敢えず、安泉さんの位置付けは心配性って事で。
また心配掛けないよう、今後気を付けなきゃいけないな……。
「……安泉さん、着替えちゃうね」
少しの沈黙の後に、私は安泉さんに一言断りを入れ、制服から部屋着、紺色のスウェットへ早着替えする。
脱いだ制服はハンガーに掛け、ロッカーの中に仕舞う。
保健室で寝てた訳だから、多少なりとも既に皺が寄ってるだろうが、更に皺を増やす気はない。
後からアイロン掛けよう。
着替え終わった私は、夕食を作ろうかと動くが、安泉さんに制止される。
そして、作り過ぎてしまったとかで、安泉さんの手料理─肉じゃがと、豆腐とワカメの味噌汁に焼き鮭─を夕食に頂く事になった。
安泉さん自身、まだ夕食を食べていなかったらしく、私は安泉さんが用意してくれた、ほかほかのご飯を二人で談笑混じりに食べた。
安泉さんの料理はレベルが高い。
たまに食べさせて貰う事があるのだが、今日も美味しかった。
安泉さんはきっと良いお嫁さんになれるに違いない。
夕食を終え、せめて片付けはと、言い張り、暫しの押し問答の末、私は食器を洗う。
して貰ってばっかりは少し気が引けるので良かった。
「……あ、の、綾部さん。明日、なんだけど……」
食器を洗っていると、不意に安泉さんから声が掛かる。
明日……? 何かあっただろうか?
私は記憶を手繰り寄せながら、首を傾げ、ちらりと安泉さんの様子を窺うと、用件を問うた。
「明日がどうかした?」
「お出掛け、しないかな?」
「お出掛け……? うん、いいよ」
「本当?! じゃあ、ね……近くに、新しく出来た喫茶店、あるの。そこ、行かないっ?」
「へぇ、近くに喫茶店なんて出来たんだ。いいね、行こうか」
嬉々として話す安泉さんに、こちらも笑顔になりつつ、私はお出掛けの誘いを承諾した。
喫茶店かぁ……新しく出来た、て言うのに少し引っかかるけど、ゲームでファミレスに行くイベントはあっても、喫茶店に行くイベントはなかった筈だし、大丈夫だろう。
行く時間帯が被る確率なんて低いし、何より安泉さんの折角のお誘いを無碍にする気はない。
もし、何かあるようだったら、安泉さんの手を引いて全力で逃走しよう。
「あの、ね、そこ……パンケーキが美味しい、らしいの!」
「……私パンケーキ、凄い好き」
……これは絶対行かなければ。
安泉さんと二回目のお出掛けにプラス、パンケーキなんて幸せじゃないか。
休日の予定なんてなく、部屋に引きこもろうと思ってた訳だし。
今日の疲労回復に甘い物は丁度良いね。
「時間は何時頃に、する……?」
「うーん、お昼頃とかは?」
「うん、それで」
「じゃあ、一時くらいかな」
「一時、ね!」




