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悪役からヒロインになるすすめ  作者: 龍凪風深
二章 とある少女の逃走劇
23/66

22 各々の見解

やっと更新です!

長らくお待たせしました!

 放課後、生徒会室。

 そこに、三年、会長の緋之瀬怜也を始め、副会長の栞宮悠里、 二年生、書記の亜木津咲奈あきつさな 、一年生、会計予定の天条蒼樹てんじょうそうき、庶務予定の瀬戸翔真、顧問である篠之雨亨椰、それに与幸の巫である北條満月の七人が集まっていた。


 「えーっと、北條さん。他に怪我はないね?」

 「はい、大丈夫です。血も殆ど止まってますし」


 篠之雨先生の問いに、満月は怪我をした膝(と言っても少し酷い擦り傷程度だが)を撫でて頷く。


 「篠之雨先生、御守りの効力をもってしても、巫の血の香りは防げないのですか?」

 「うん、北條さんにも言ったけど、御守りは飽く迄も平常時の香りを抑える事しか出来ないんだ。だから、巫の血の力を封ずるまでには効力を発揮しない」


 おかっぱ頭にした、さらさらと流れる艶やかな黒髪を揺らし、つり目がちなビジリアンの瞳を篠之雨先生に向け、咲奈が問い掛ける。

 それに、篠之雨先生は苦笑気味にそう答えた。


 「ん~、となると……満月ちゃんは御守りを持ってても怪我したらアウトって訳ね」

 「うん、そうだね……」

 「……すみません。私、迷惑ばっかり掛けてますよね」


 考えるように呟く悠里に、篠之雨先生が頷く。

 満月は二人の話を聞きながら、今日起こった出来事を思い出して俯く。

 それはお昼休み、中庭で昼食を取ろうとした事から始まる。

 満月は香り対策の御守りのお陰で、久々に生徒会メンバー抜きで友人と共に二人で昼食を食べれる事になり、嬉々として歩いていた。

 購買で買った昼食を片手に談笑しながら歩いていると、丁度中庭に着いた時、満月は盛大に転んでしまう。

 地面に強く打ち付けたのか、右の膝と両の手の平が赤く染まり、血が零れ落ちた。

 そこに、運悪く人狼の紅弥が居合わせてしまい、与幸の巫の血に反応した彼により二人は襲われる。

 校内を漂う巫の血の香りに、直ぐに満月達の危機を察知した生徒会メンバーが駆けつけ、満月達は救出されたのだが、その出来事のせいで、友人は保健室に行き、生徒会メンバーと紅弥も少なからず怪我を負った。

 満月はその事を気にしていた。


 「北條満月」

 「え、あ、天条くん?」


 蒼樹に名前を呼ばれ、しょんぼりと沈んでいた満月が怪訝な表情で首を傾げる。

 咲奈同様にさらさらの肩より少し上程度の青い髪に、僅かに隠れた鋭い真っ赤な瞳が満月を捉える。


 「貴様は阿呆なのか」

 「えぇっ! 違っ、何っいきなりっっ!!」

 「阿呆は阿呆だ。何が迷惑なものか。俺達を嘗めるな、このど阿呆」

 「ふぇ、ふぇーっほ……へんひょうきゅん?」


 みにょーん。効果音を付けるならばそんな所だろうか。

 蒼樹が唐突に満月の頬を両手で引き伸ばす。

 何故、私は天条くんにほっぺた抓られてるの……?

 満月は一人困惑する。


 「蒼樹、それじゃ通じないよ。要するに! 満月ちゃんは生徒会が守るべき生徒の一人であり、君はもうオレ達の仲間みたいなもの。心配すれどもそれを迷惑だなんて誰も思わないよ、て事」

 「……きゃ、きゃんみゅやしぇんぴゃいっ……!」


 みょーん、みょーんと頬を抓られたまま、悠里の言葉を聞いていた満月が、感激したように悠里の名前を呼ぶ。


 「満月ちゃん、誤解しないの。オレは蒼樹の言葉を要約しただけだらね~?」

 「……わ、分かってます! 天条くん、ありがとう」


 念を押すように言う悠里に、やっと頬を解放された満月が蒼樹に笑い掛ける。

 が、蒼樹はぷいっとそっぽを向いて咲奈に話し掛ける。


 「今回の目撃者、確か城崎結唯きさきゆいと言いましたか……彼女は今どうしているんですか?」

 「それなら心配いらないわ。新垣くんに襲われた記憶は怜也先輩が魔眼で操作したし、怪我は特に見受けられなくて、今は保健室で眠っているから」


 無視された事に頬を膨らませる満月を横目に、苦笑を浮かべながら咲奈が淡々と答える。

 満月の表情が安堵から僅かに緩む。


 「あ、そう言えば先輩方! 餓鬼討伐を目撃したかもしれない女子と、先の黒髪切り事件に巻き込まれたっぽい女子は同一だって言ってたじゃないですか。あれ、どうなったんですか?」

 「ああ、綾部ちゃんね。一応は確かめてみたんだけどさぁ、これが中々手強いんだよね」


 ふと、思い出したように翔真が声を上げる。

 それに悠里は鎮馬の事を思い浮かべながら、楽しげな表情で言う。


 「手強い?」

 「なーんか、怪しいんだけど、決定的何かを得られない。いっつも逃げられちゃう」


 よく目が泳いでたり、口元引きつってたり、冷や汗流してるけど。まだ、言質は取れてないなぁ。悠里は、続くその言葉を飲み込み、首を傾げる翔真に笑い掛ける。


 「綾部……あいつにはもしかすると魔眼が効かないのかもしれない」

 「えっ?!! ちょ、怜也?! 綾部さんに魔眼なんて使ったの?!! 駄目じゃないかっ?!!」


 話題が鎮馬の事に流れた事で、黙って事の成り行きを聞いていた怜也が口を開く。

 顎に手を添え告げる言葉に、篠之雨先生がいち早く反応し、一般生徒への魔眼使用を咎める。


 「篠之雨先生、反応する所はそこですか。で、怜也先輩、綾部さんと言うのは?」

 「私のクラスの黒髪美人!」

 「貴様には聞いていない」


 蒼樹の問いに、怜也ではなく、満月が元気よく答える。

 蒼樹は一瞬呆れた表情を浮かべた後にばっさりとそう切り捨てた。

 満月はムッと顔をしかめ、恨みがましげに蒼樹を睨む。


 「……クチナシの香りのする女子生徒だ」

 「クチナシ、ですか?」

 「あー、長い黒髪に黒目の何かマイペースっぽい娘だよ。後、反応が楽しい」

 

 そう言えばまだ二度しか会った事がないな。怜也はふとそんな事を思いながら、鎮馬の印象を告げたが、問いの答えになっていない言葉に、咲奈が首を傾げた。

 その後に、悠里がフォローを入れる。


 「綾部さんって何か不思議な感じするんだよねぇ」

 「不思議ちゃん?」


 しみじみと篠之雨先生が思い出すように言う。

 翔真が先程の咲奈同様に首を傾げた。


 「怜也? どうかした?」

 「……血の匂い。これは、綾部か……?」


 各々が鎮馬について話す中、不意に瞳孔を細め、瞳を赤く染めた怜也に悠里が声を掛けた。

 怜也は悠里の声には反応せず、考え込むように呟く。


 「あ、綾部さんッ?!!」

 「えぇッ、場所はッッ?!!」


 怜也の呟きを拾い、始めに満月が驚愕の声を上げ、続いて篠之雨先生が目を見開いて声を上げる。


 「……わからない。いきなり香水のキツい匂いでかき消された」


 怜也が首を横に振る。

 先ほどまで香っていた、吸血鬼の感じる独特な血の甘い匂いは、濃い柑橘系の香水に上書きされ、追跡不可能となった。

 怜也は静かに扉を見つめる目を細めた。




 ◆




 「あ? おいっ……!」


 がくり──糸の切れた操り人形のように、腕の中で気を失った少女、綾部鎮馬に風紀の腕章を付けた少年は驚いて声を掛けるも、鎮馬に起きる気配は見られない。


 「ちっ……」


 面倒臭ぇ。

 少年は舌打ちと共に心内で呟く。


 「八神理皇……! 何しにきたぁ? まさか、その暴力女を助けに来たなんて言わねぇよなぁ?」

 「あぁ? 何をしに来ただと? ここは俺の部室だ。来る理由なら十分あるだろうが。こいつを助けに来た訳じゃねぇ、受け止めたのは成り行きだ」 


 嘲笑気味に言う紅弥と、静かに返答を返す少年、理皇。

 二人は激しく睨み合う。


 「お前、何故こいつを狙った?」

 「あ? んなもん、答える義理はねぇなぁ?」

 「そうか。なら、答えたくなるよう躾直すまでだ」


 理皇は支えていた鎮馬の身体を抱き上げると、家庭科室の隅まで運び、壁を背もたれにして床に下ろす。

 そして、紅弥を鋭く睨み付けると、そう言うが早いか、一気に床を蹴った。


 「っっ……!!」


 何だ、この速度ッ。身体が反応し切れねぇ……!

 先程己が鎮馬にした事に近い状況に陥り、紅弥が目を剥く。

 気が付いた時には、目の前に迫った理皇により、足を払うようにして蹴られ、体勢を崩した。

 続いて、体勢の崩れた紅弥に追い打ちを掛けるように、その片腕を掴むと、くるりと体を反転させ、さっきまで自分の背後だった方向に投げ飛ばす。


 「っく、そ……!!」

 「遅ぇよ」


 宙を飛ばされながらも、人狼としての身体能力を駆使し、直ぐさま体勢を立て直し、床に着地。反撃をしようと構える。

 たが、一歩遅く、再び理皇の攻撃が紅弥に入る。

 今度は鳩尾を狙った膝蹴りであった。


 「っか、は……!!」


 理皇のとんでもない脚力からなる強烈な一発をまともに喰らい、一瞬息が詰まる。

 紅弥は蹴られた鳩尾を押さえ、よろよろと後方に後ずさった。


 「っっ……!」


 俺は奴に勝てねぇ。

 痛みに顔を歪めながら、静かにそう自覚した。

 手負いと言えど、紅弥は先程鎮馬の霊力を喰らっている。

 だが、目の前の敵、理皇には勝てる気がしなかった。


 「……なんだ? さっきの威勢はどうした。もう諦めたのか? 根性ねぇな」


 理皇が冷めた表情で皮肉気に言う。


 「……っくそが、やってられるかよッ!」


 紅弥は吐き捨てると、理皇の追撃がくる前に、窓際まで逃げ、そのまま窓を突き破り逃走。


 「ちっ……人の部室を更に荒らしてんじゃねぇ、駄犬が」


 元から追う気などなかったのか、理皇は走り去った紅弥を黙って見送ると、無惨に割れた窓ガラスを見つめて舌打ちする。


 「……おい、起きろ。綾部鎮馬」

 「……ん、ぅん……」

 「……ちっ」


 床に座らせた鎮馬の肩を掴み、左右に揺らす。

 小さく呻き声を上げるが、鎮馬に起きる気配は見られない。

 理皇は静かにまた舌打ちした。

 このまま、放置する訳にもいかず、何より傷の手当てをしなければならなかった。

 理皇は鎮馬の身体を抱き上げ、鎮馬の鞄を拾うと、保健室に向かって歩き出す。

 この傷は恐らく噛み傷。なら、早く処置しねぇと、問題になるな。

 理皇は静かに歩く速度を早めた。

 保健室までの道すがら、不思議と誰ともすれ違う事はなかった。

 その為、血だらけの女子生徒を運ぶ、風紀副委員長の姿などと言う奇妙な光景を一般人に目撃される事はなく、無事に目的地に辿り着く。

 もしかしたら、理皇が誰とも遭遇しないように歩いて来たのかもしれない。


 「…………」


 がらり、扉を開けた保健室の中には保険医と見られる先生は居らず、とても静かであった。

 理皇は小さくまた舌打ちすると、一番奥のベットに、鎮馬を下ろす。

 鎮馬の腰辺りまでの長い黒髪が白いシーツの上に散らばる。

 理皇は観察するようにじっと鎮馬を見つめた。

 先程まで開いていた少しばかりつり目気味な黒曜石の瞳は閉じられ、長い睫毛がその存在を主張する。

 ぐったりと力なく投げ出されている、まだ日に焼けていない白い肢体が何だか人形のようだ。


 「お前は、何者だ……?」


 理皇は意識のない鎮馬に向けて一人ぽつりと呟いた。





 


次回も引き続き八神先輩のターン……!

八神先輩vs新垣先輩の戦闘は一方的かつ短くしました。

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