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悪役からヒロインになるすすめ  作者: 龍凪風深
二章 とある少女の逃走劇
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20 手負いの狼

主人公、相も変わらず巻き込まれに行きます。

 放課後。

 帰る準備を終えた私は、玄関に向かうべく廊下を歩いていた。

 今日は、安泉さんは別の友人に連れて行かれてしまったので、私は一人だ。

 そろそろ、友人を増やすべきなのだろうか。

 最近、安泉さんにも「綾部さんって、人と、仲良くするの……嫌い……?」て聞かれちゃったし。

 別に嫌いじゃないよー、安泉さん。

 私的には居ても居なくても、どちらでも構わないのだけど…そりゃ、居ないよりは居た方がいいに決まってるが、如何せん私は今死亡フラグで手一杯だし、下手に友人を増やして、それが何処にどう影響するか分からない。

 おまけに、私の死亡フラグに巻き込まないとも限らないし。

 そう考えると、今は友人は安泉さんだけでいい気がするのだ。

 友人一人なら、守るなり逃がすなり、リスクは最小限に抑えられる。

 まあ、別にクラスメートと仲が悪い訳じゃないからいいか。

 出掛けたり、登下校を共にしたりはしないが、教室内で授業の話とか、軽い会話ならするし。

 全ては今年一年の辛抱なのだから。


 「……うん、頑張ろう」


 私は一人呟くと、ぐっと拳を握る。

 この所、色々とついていないが、取り敢えず頑張って逃げよう。死亡フラグとシナリオから。



 「っはぁ……、っ……!」

 「……?」


 廊下を歩いていると、通り道にある家庭科室の中から、荒い息遣いと呻き声が聞こえてきた。

 急病人? 怪我人……?

 何にしろ、嫌な予感しかしないのだけど……無視したら不味いだろうか。


 「……っ血?」


 家庭科室の前に差し掛かると、微かに香る鉄臭さが鼻腔を刺激した。

 急病人ではなく、怪我人か……。

 これ、怪我人を放置って人間的に駄目なんじゃ……?

 いや、それより何より放置した後の罪悪感が……やっぱり確認だけ、確認だけしよう。その後の事は見てから、と言う事で。

 私は心内で結論付けると、そっと家庭科室に近付き、扉の隙間から中を覗く。

 !! あれは……。

 窓際、隅っこにうずくまる人物が一人。

 その人は、手足の所々に擦り傷や切り傷などの怪我をしており、殴られたのか、唇も赤く染まっていて痛々しい。きっと、衣類に隠れた箇所にも怪我があるんじゃないだろうか。

 私は隠れて、その人物を観察する。

 確か彼は、『桃色妖怪記─契約の口付け─』の悪役の人狼じんろう。名前は新垣紅弥あらがきこうやで、二年生の口悪い不良の先輩……だったかな?

 私はあの人の事、あんまり覚えていないみたいだ。

 最初の方のイベントに出てきてたのは覚えてるんけど……。

 ! そうか、そのイベントがあったのか。だから、怪我を……。

 篠之雨先生に香り対策の為の御守りを貰ってから数日で起こる人狼遭遇イベント。お昼休み、たまには外で食べようと北條さんはサポートキャラの親友と中庭で昼食を取るのだが、その時に北條さんが派手に転び怪我をする。強く打ったのか、手の平と膝の項を擦りむき、血が出てしまう。そこに居合わせてしまった人狼である新垣先輩は、血の匂いに誘われ、抑えきれずに北條さんを襲う。北條さん、親友、共に危機的状況に陥り、そこに攻略対象である生徒会メンバーの中で一番好感度の高い人物が登場。戦闘になる。そして、途中で先生達が止めに入るも、新垣先輩の抵抗が激しく、暫くは戦ってた筈。

 端から見るとこれ、新垣先輩も被害者っぽいな。

 与幸の巫の血の香りの誘惑は計り知れない。

 ゲーム曰く、攻略対象達だって、何とか理性を総動員してヒロインを襲わないように我慢しているらしいし。

 空腹の犬の前にご馳走を用意しておいて、食べちゃ駄目だから諦めなさい。て言っても、ね……?

 あ、ちょっと例えが悪いかな。


 「……と、そんな事はいい」


 一時考えを拡散させるように首を横に振る。

 ある意味被害者っぽいのにフルボッコされたからって、ちょっと可哀想とか思ってる場合じゃない。相手は人狼、妖怪、悪役だ。

 関われば禄な事にはならないだろうし、何より私まで悪役に引きずり込まれたくない。

 妖怪だし、怪我なんてきっと直ぐ治るだろうから、私が何かしなくても大丈夫。

 寧ろ私が出てったら、有り難迷惑で、余計なお節介で……。

 結論、見なかった事にしよう。


 「……ぬわっ?!!」


 私は一人結論付けると、くるり、踵を返して家庭科室の前を後にする……筈、だったのだが、急に開いた扉から家庭科室の中に力任せに引きずり込まれた。

 そして、ぴしゃりと扉が閉められる。

 えぇぇー、何? 何で? どうして、こんなっ……?


 「っっ……」


 家庭科室の中に力任せに身体を放り込まれ、私は台に突っ込むようにして手を付く。

 転倒はしなかったものの、勢いのまま付いた両手の平がびりびりと痺れる。

 私は、私を室内に投げ入れた人物を黙って、恨みがましげに睨みつけた。

 どういうつもりですか、先輩。

 後輩を引きずり込んで、挙げ句に投げるとか……。


 「てめぇっ……こそこそと……人の苦痛を覗き見とは……いいご趣味だなぁ?」


 セミロングの灰色の髪を揺らし、目つきの悪い深紅の瞳を細め、新垣先輩は不機嫌そうに言った。

 どうやら、覗き見がバレて引きずり込まれたらしい。

 何故だ。室内をちらと覗いただけでこの扱いって……。

 はぁ、八神先輩といい、新垣先輩といい……どうしてこうも気配に敏感なんだ、皆さん。


 「……そんな趣味ありません。勘違いしないでください。私はただ、呻き声が聞こえて……急病人でも居るのかと思って来ただけです」


 私は新垣先輩の言葉を否定した。

 覗きなどの変な趣味は私には断じてない。


 「どうだかなぁ? 人は見掛けによららねぇとはよく言うだろ?」

 「はあ、そうですか」


 先輩は私の言葉など信じる気はないらしい。

 私は特にそれ以上何も言わず、話を区切る。

 この人と話す事など何もない。

 攻略対象だろうが悪役だろうが、どんなフラグでもいらん。

 厄介事や死亡フラグに変わりはないんだから。

 何故、好き好んで自ら自分が死する物語の舞台に立ちたいなどと思おうか?

 この人と関わったら禄な事がないに違いない。

 だって、悪役だし、既にヒーローにやられてるし。

 私は既に悪役から下りたんで、勝手に余所でやってください。

 心配してとは言え、覗いたのは謝るので。

 だから、もう行っていいです?


 「話はこれで終わりですよね……? では、私は用事があるので、これで」


 心内で意味のない謝罪をして、私は立ち去ろうとしたのだが、それは新垣先輩により阻まれる。


 「お前……美味そうだなぁ?」

 「っはぁ?」


 私が新垣先輩に言われた言葉を理解しきれずに、目を白黒させていると、新垣先輩が緩慢な動作で迫ってくる。

 え、ちょっ、えっ……は、何故っ?


 どんっ


 「っ何するんですかッ……?」


 新垣先輩は台に後ろ手を付いていた私に迫ると、私を台に押し倒し、押さえつける。

 私は唐突な出来事に、目を見開きながらも、慌てて抗議の声を上げた。

 有り得ないっ……何、この状況。この狼は何なの?

 痴漢か、変態か、性犯罪者か。

 何か、私、文字通りに食われそうなんだけど。

 そりゃあ、普段の私の霊力は一般人の変わらない強さ、量に見えるようにしてあるけど、質だけは変えられない。

 分かるものには分かるらしい霊力の純度。

 より純度の高い霊力を保持する者程強いとか。

 私の霊力は高純度らしいのだけど、それに気が付いての美味そう発言なのだろうか。

 まあ、何であれ私はみすみす妖怪に食われる気なんてない。

 誰が好き好んで、霊力──体液やら体の一部やらを差し出すと言うのか。 

 拘束から逃れようと、私がじたばたと暴れるも、新垣先輩の身体はびくともせず、逆に愉快そうに笑う。


 「くくくっ……あぁ、巫は食いそびれたが、てめぇは逃がさねぇよ」

 「っっ?!!」


 べろり、新垣先輩に味見するように頬を舐められ、私は声にならない悲鳴を上げた。

 …………と、鳥肌が。

 今直ぐ滅してやろうか、この人狼ッ……!


 「っ今直ぐ退いてください、先輩」

 「あぁ? 言っただろぉが、逃がさねぇって。大人しく俺に食われろよ、人間」


 にやりと嫌らしい笑みを浮かべて、新垣先輩は言う。

 ……前言撤回、この人猛獣だ。諸、加害者だ。

 誰だ、こんなぎらついた目をした狼を捕まえて被害者なんて言ったのは……ああ、私か。






長くなったので取り敢えずこの辺で一区切りです。

次回、19話目でちらりとしか登場できなかった八神先輩のターン入ります!

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