00 プロローグ
乙女ゲームのお話を書いてみたいなぁ、と思いまして…。
書き始めてみました!
最近のマイブームなんですよね、妖怪。
物心が付いたのは、僅か齢三歳の誕生日の事。
その日、私は家族である母、父、兄、祖母の四人に囲まれて、二歳の時と同様に誕生日を祝われた。
お決まりの誕生日ソングを歌い、蝋燭の火を吹き消して、ケーキとご馳走を食べさせて貰い、私はご満悦だった。
家族と笑い合い、ただの子供として過ごせたのは、そこまで。
その夜、ベッドに入り、いざ夢の世界へ旅立とうとした時、私の頭の中を数多の映像が駆け巡った。
見た事もない筈のそれは、とても懐かしくて、泣きたくなるような、何処か物悲しいような、私に複雑な感情を抱かせる。
──これは、夢だろうか?
閉ざしていた瞼を開き、数回瞬きさせて思う。
今現在、起きていると思い込んでいるだけで、私は実は既に寝むってしまったのではないか、と。
訳も分からないまま、むにり、とまだ幼くてマシュマロのように柔らかい頬を抓る
僅かに走る痛みに、思わず瞳が揺れた。
これは、夢じゃない。
ならば、頭を駆け巡るこれは何なんだろうか……?
そっと目を閉じて思考する。
知っている筈なんてない。
見覚えなんて、在る筈がない。
なのに、何故か心を揺さぶる映像の数々が、鮮明に蘇ってくる。
それを見ながら、私はふとある事に気が付いた。
この映像の視点はまるで自分で、これは自分の記憶ではないか。
そう思い至った直後、記憶の蘇りが完了し、その映像が何であるのかを、はっきりと理解した。
映像は全て、私の前世の記憶だ。
その記憶によれば、私は若くして亡くなり、今の私となったらしい。
前世時代は一人っ子で、両親、祖父母共に健在。
性格はマイペース。
特に特別な何かがある事もなく、普通の凡人として、小中高と卒業した後、介護職へと進み、毎日を忙しなく過ごしていた。
どう死んだかは、残念ながら分からないのだが……それよりも問題なのは、今私の居るこの世界が、前世に友人に薦められるままにプレイした乙女ゲーム『桃色妖怪記─契約の口付け─』の世界だと言う事だ。
何故そんな事が分かるのかと言うと、私は既に妖怪と呼ばれる人外と接触を果たしているし、私こと綾部鎮馬の容姿は、ゲーム内の悪役キャラの“綾部鎮馬”と瓜二つなのだ。
おまけに、家族の姿も家が神社なのも一緒で、こんな偶然ある訳ない。
よって、ここが乙女ゲームの世界なのだと結論付けた。
ゲーム内容は、大まかに説明すると――。
舞台は人間と妖怪の共存の為に双方により設立された、小中高エスカレーター式の逢魔ヶ時学園。
そこに妖怪に狙われる体質の主人公が、高校一年生として入学してきた事から物語は始まる。
主人公は自らを狙ってくる者達から身を守りつつ(守って貰いつつ)、正体を隠して学校に通っている多彩な妖怪達、攻略対象と恋愛を楽しむゲームだ。
ジャンルは恋愛、ファンタジー、加えてアクション、バトル色が強い、乙女ゲームには珍しい作品である。
さて、ここまでは特に問題なさそうに思えるが、真に問題なのは、私の立ち位置だ。
私の今世の姿である“綾部鎮馬”とは、ゲーム内で九十九パーセントの確率で死亡を迎える悪役なのだ。
ノーマルエンド。
グッドエンド。
トゥルーエンド。
バッドエンド。
数多のエンディングが用意される中、彼女は友情エンド以外では生存出来ない。
乙女ゲームに置いて、友情エンドでしか生きられないなんて、私の人生は詰んでいるのではないかと、言わざる負えない。
いや、まだ諦めるのは早いか。
入学する学園は変えればいいし、主人公とシナリオにさえ関わらなければ、間違っても死亡フラグなんて立たない……筈!
ああもう、何だか、頭が痛い。
こうして、私はただの綾部鎮馬から、前世の記憶と言う有り得ないものを持つ綾部鎮馬に書き換えられ、生まれ変わった。
この日の翌日は、幼い脳に負担を掛け過ぎたのと、死亡フラグを悶々と考えてしまった事が原因で、寝込んだのだった。
2017.12.10 読みやすいように一部改稿しました。