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りいんかぁねぇしょん ~あまり甘くない転生物語~  作者: 葵尋人
一幕 人生の終わり、遊戯の始まり
6/9

第五話 彼の者等の人生に似ていて苦い

「う……うわぁぁぁぁあああ!!」 

 絶叫し、桐島と三戸部は、ガタガタと音を立てて震える両足に何とか力を込めてその場から逃げ出した。

「ま、待てッ! お、俺を見捨てるなァァァ!!」

 ――友人である筈の小阪を置き去りにして。

 脇目も振らず、ただひたすら死ぬことを、殺されることを怖れて。

「大丈夫」

 そんな彼等の所為で、絶望の淵へと落とされ、既に泣き喚いていた小阪に、

「死ぬ時は、一緒だ」

 僕は出来る限り柔らかな微笑みを向け、そして、友人を見捨てる不届き物を追いかけた。

 ついでとばかりに、小阪の右足を踏み潰しながら――。

 恐らく右足の骨が完全に砕け散ったであろう小阪の呻き声を後ろに聞きながら、僕は工場の出口まで来ていた、彼等との距離を、刹那のせにすらならぬ程の速力を持って一気に詰める。

 一気に詰めて、まず、三戸部の左膝関節(しつかんせつ)の辺りに、右膝を叩き込む。

 所謂、『膝カックン』という名前の子供の悪戯。

 僕が放ったそれによって、三戸部の足の骨は()し折れ、肉を突き破る。白い骨が剥き出しになり、血が溢れ、筋肉の繊維が千切れていく。

 その様子後目にしつつ、今度は桐島の目前へと周り込み、両手で腰を掴み、腕に力を入れる。

 途端に、十本の指が肉へとめり込み、鮮血を噴出す。同時に、腰骨が、砕けた。

「ウグァァァアア!!」

「イギィィィイイ!!」

 苦しみ、悶える二人の叫び声が、後からやってきた。

 地面に倒れふし、暴れるかのように転げ回る桐島と三戸部。

 顔を歪め、涙、鼻水、涎を垂らし醜い姿を晒している。

 ――実に、良い。

 僕はそんな彼等の服の襟を引っ掴み、小阪が横たわる場所まで移動し、三人を並べ、まず彼等の服やズボンのポケットを探った。

「事の最中に音が鳴るのは気分がよくないからね」

 そう僕は彼等に言って、三人の携帯電話を握り潰した。

 開いた掌から、破片がゆっくりと砂時計の砂のように落ちていく。

「さぁ、お三方。お待ちかねの処刑の時間だ」

 そして、僕は、告げた。

 その宣告に、彼等は涙目になって、芋虫のように、地面を()って逃げて行こうとする。

 だが、無駄である。

 僕はまず、一番近い所にいた小阪の左足に、近くに落ちていた鉄パイプを、突き刺した。

「イッ……!?」

 短い悲鳴が上がり、その後、足の肉へと食い込む柔らかな音と、骨を突き破る軋む音が響く。さらに、鉄パイプは地面にまでも刺さる。

 これにより、小阪はこの場から動くことが出来なくなった。

「さてと、まずお前からだ、小阪昴」

 こいつは四人のいじめっ子の中では、涼にはあまり直接的な暴力を振るってはいなかったように思われる。

 精々、上靴や体操着を隠したり、暴言を吐いたり、掃除の時間にバケツで水をかけたりとその程度だ。

 だから、軽くで良い。

 僕はそう思い、小阪の額に人差し指の爪で、真一文字に小さな傷を入れる。

 そして、その傷口に親指を抉り込ませ、皮膚を剥いでいく。

 最早人間の言語にすらなっていない悲鳴を上げる小阪。

 しかし、僕は構わず、皮膚を剥いでいく。肉を巻き込みながら、剥いだ皮膚が途中で千切れても、その千切れた箇所を摘み、頭部の肉が、全て露出するまで僕はそれを続けた。

「あ……あ……あぁ……」

 この光景を目の当たりにしていた二人は悲鳴すらどもるほど恐怖した。

 だが、まだ、足りない。

 僕は小阪の両目を抉り出す。

 その目玉を投げ捨て、さらに小阪の頭を蹴飛ばす。

 一回、二回、三回と。

 しかし、まだ足りない。

 今度は、左足に刺した鉄パイプを引き抜き、何度も何度も頭を殴り飛ばした。

「この位に……しておこうか……」

 そして、最後にその鉄パイプを、小阪の心臓へと突き刺した。

 断末魔は、聞こえてこなかった。

 ()うの昔に、息絶えていたようであった。

「次は……次はお前だ……」

 三戸部の方へと向き直り、僕は、笑みを零す。

 どのような、叫び声なら良いか。どんな痛みならば彼女の慰めになるか。

 それを考えたら、ついつい顔が綻んでしまう。

 そんな僕の表情を見て、三戸部はこれまでに無い位に顔を引きつらせ、片足だけで無理矢理立ち上がる。

「く、糞ォ! 糞ォォォ!!」

 悪態を吐きながら、片足跳びで逃げようとする三戸部。

 僕は敢えてそれに合わせてゆったりとした歩調で、彼を追う。

「来るな……! 来るなッ! 来るなァッ!」

 逃げながら、祈るように三戸部は何度も何度も唱える。

 だが、僕は、そんな懇願を無視して、一歩、また一歩と、除々に彼へと迫る。

 そして、ある程度距離が詰まると、三戸部は、

「ヒッ!?」

 自ら足を滑らせる。

「あがっ!」

 そのまま、顔を固い床に打ち付けると、三戸部は呻く。

 そして、体を起こし、鼻を打ちつけ、真っ赤に染まったその顔で、僕の顔を見上げた。

 その顔は、何もかもを――自分の命でさえも諦めたとでも言いたげな顔をしていた。

「なんで……、どうして俺らがこんな目に遭わなきゃならなぇんだよぉ……」

 そんな表情で、そんなことを僕に問うものだから、僕の怒りは――頂点にとっくに達している怒りは、遂にそれすら振り切れ、三戸部の顔面に無意識のうちに蹴りを入れていた。

「どうして? どうしてだと?」

 この連中はどうしようもなく度し難かった。

 そういう連中だから、涼を死ぬまで甚振り続けたのだ。

「お前等が、僕の大事な人を殺したからだろうが!」

 徹底的に痛みを与えて、出来る限り苦しませて、殺す。

 それは変わらない。

 変わらないが、もっと最悪な手段を。もっと最低な死に方を。

 僕はそれだけを考えながら、まず、怪我をしている鼻を右手で三発殴りつける。

 さらに僕は、地面に錆びた釘を見つけるとそれを拾い、三戸部の鼻へと打ち込む。

 苦悶の声を上げる三戸部だが、僕は収まらない。

 次は耳を削ぎ取り、歯を一本一本毟り取り、舌を掴んで千切り取る。

 断末魔が聞こえた気がしたが、これでは足りない。

 さらに僕は顎関節を外し、頬の肉を裂きながら、顎の先端を喉仏まで持っていく。

 まだだ。

 今度は三戸部の腹に両手で腹を切開し、胃を、腸を、肺を、食道を、心臓を、全て引き釣り出して、握りつぶす。

 肉飛沫となって、それが僕へと降りかかると、

「ギャハハハハハハハ!!」

 僕はそれが愉快に感ぜられて、盛大に笑ってしまった。

 一頻り笑うと、僕は、這い(つくば)ってその場から逃げようと必死な桐島を視界に収める。

「どこに行くんだよ、桐島」

 僕は逃げようとする彼に近づくと、しゃがんで、彼の頭を鷲づかむ。

「ち、畜生……」

 僕の顔を、恨みがましく、睨みつける桐島。

 僕はそんな彼の表情などは気にも留めず、

「お前に聞きたいことがある」

 と、ずっと聞きたかったことを訊ねてみることにした。

「なんだよ……一体……」

「どうして涼を、天野涼を苛めたんだ?」

 僕は分からなかった。

 あんなに優しく、清らかであって、しかも美しいそんな涼をどうして苛めていたのかを。

 十五歳の僕はただただ彼等を憎んでその理由を聞くことをしていなかったから、今此処で訊ねた。

 きっと、何か、何かあった筈なのだ。

 せめて、その何かが分かれば、涼の心も、僕の心も救われる筈。

 そんな一抹の望みで、彼にそう訊ねた。

 しかし、

「だって、グロイじゃん。あれ」

 理由は、あまりに僕にとっては納得し難いものであった。

 桐島の死は揺ぎ無いものだったが、もっと何かありさえすれば、僕は受け入れられたのかもしれないのに。

 桐島の死に方ももっとマシだったかもしれないのに。

「ハ……」

 僕は鷲掴んだ彼の頭を押さえつけ、

「ヒャッハハハハハハハハ!!」

 そのまま桐島を引き摺って走り出した。

 走る、走る、走る!

 あちら此方を、まるで狂った獣のように乱雑に動き回る。

「イアァァァアァアアッ!!」

 摩擦で擦れる桐島の顔。

 走る距離が増える度、皮膚が捲れ、血液で床が塗れ、頭蓋が削れ、断末魔が上がる。

 顔の前側が少し削れた程度で、桐島の断末魔は最早止まっていたが、けれど、そんなことは関係ない。

 僕は桐島のその血肉を、一片までも破壊するまでは止まらない。

 僕はさらに動き続けた。

 顔が無くなって、真っ赤なのっぺらぼうになってもだ。

 僕は頭を掴んで、骨肉おろしを続ける。

 頭が完全になくなっても、今度は体を掴んで走り続ける。

 縦横無尽に。右往左往に。

 床を、壁を、天井を。

 走って、走って、走って。

 遂には、桐島の体が発火し、僕はそれで漸く止まった。

「ははは……」

 煌々と燃え上がる桐島の死骸。

 僕はそれを見てほくそ笑んだ。

 ――炎の向こう側に、涼の笑顔が見えた気がした。

 彼等の言動には苛立ちを隠せなかったし、満足のいく処刑であったかというと、それは半分だと答えざるを得ないだろう。

 けれど、僕はこれで良いと思った。

「やったよ、涼」

 僕はそう言って、懐からRUCKY STRIKEの箱を取り出し、その中の一本に、死骸から立ち上る炎で火を点す。

 そして、僕は五年ぶりのRUCKY STRIKEの味を堪能した。

 その障害を無惨に遂げた四人の人生によく似た苦味がした。

 とても――美味い。

「しかし……」

 これからどうしようか?

 最早復讐は終わった。

 生きる意味は無くなった。

 自ら命を絶ち、涼の元へと行こうか? それとも、何か目的を探し、文字通りの第二の人生を涼が生きられなかった分まで生きてみようか?

 そんなことを考えていると、

「やぁ、今晩は」

 奴が現れた。

 工場の入り口。

 そこに、白髪で、子供のような無垢な顔をした、青年が立っていた。

 しかし、僕はそれが何であるか知っている。

「今晩は、神様」

 ――神が再び僕の前に舞い降りたのだった。


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