フラグメイク(上)
私、伊藤かえでは、今どうしようもなく陰鬱な気持ちになっていた。
朝起きた瞬間に、口からひどいアルコール臭がする。
ついでに頭の底からてっぺんまで、すべてを支配する鈍痛。
そして、断片的に覚えている、昨日の合コンの記憶。
………やってしまった。
ひどかった。本当にひどかった…。
あんなつもりじゃなかったのに。楽しく飲もうと、いろんなこと忘れて、ふっ切って楽しもうと思ったのに…。
全然ふっきれてなかった…。
3日前にふられた。
思えばよくわからず付き合っていた彼であった。
「好きだ」
と言ってくれたので、なんとなく付き合っていた。
惰性で付き合って、そして、半年たったその日に、突然ふられた。
確かに、付き合い始めた当初はよくわからずに付き合っていた彼だったが、それでも付き合い始めればいいところも見えてくる。嫌いなとこや、苦手なところもあったけど、それでも惰性で一緒にいるくらいには彼のことが好きだった。
それなのに………。
別れの言葉はひどかった。
「お前といても、あんまりおもしろくない」
…最悪だ。
………最悪だ!最悪だ!!
面白くないってなんだよ!!
そんなに面白い女がお望みなら、女芸人とでも付き合えっ!!
そう言ってやりたかった。言ってやりたかったのに…。
私は彼が去っていくのを見送るしかできなかった。憎まれ口の一つも叩けなかった。
本当にひどい、そして自分がみじめになるような幕切れだった。
彼にふられて、なんとなく引きずって、ぼーっとしてたら合コンに誘われた。
…ああ、お酒を楽しく飲んで、みんなすっきり忘れてしまうのもいいかもしれない。
私はなんとなくOKをした。
合コンに来てみると、斉藤さんというイケメンの先輩がいて、
「ああ、この人かっこいいなぁ…」
なんてぼんやり思っていた。
今日は少しいい男とお酒なんか飲んだりして、あいつのことは忘れよう。
でも、始まってみたら、斉藤さん、私なんて眼中になしだ。ずっとひろみのことばっかり見てる。
…私ってそんなに魅力ない?
私は悲しくなってきて、お酒を飲んだら、今度は腹が立ってきて…!!
気がつくと羽目を外して、傍若無人に飲んでいた。
完全にリミットを越えて、それでも気が収まらなくて…!!
そしたら、こちらの方を見ている、優しい目をした先輩に気がついた。
ぱっと見イケメンという感じではないけど、なんというか、温かみのあるような、優しい目をした先輩だ。
…名前は…ええっと…思い出せない。
私は優しい目をしたその先輩を相手に、かなりひどいことをした気がする。
それこそドン引きされても仕方がないレベルの所業を働いた気がする。
しかし、彼は、優しい目をして頬笑みをたたえたまま、「困ったなぁ…」なんて顔をするのだった。
私は、甘えた。
これ幸いと、優しい彼に全力でよりかかった。
そして、そこから先の記憶がない…。
私はあの先輩に何をしたのだろうか?
再び頭に鈍痛と、食道にこみ上げてくる嫌な感覚がして…。
私は便器に向かって、盛大にもどした。