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フラグメーカー  作者: 夏野ゲン
ある合コンの話
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アルコール・ララバイ(上)

私こと橘健太郎は、深夜の大学近くのコインランドリーにて、上半身全裸のまま、目を閉じて瞑想していた。


それだけ聞くとただの変態であるが、こうした事態に陥ったのには、やむにやまれぬ事情があったのである。


事件の始まりは今から数時間前のことになる。




その日私は、本日最後の4限の講義を終えて、いそいそと帰り支度をはじめていた。

しかしてその日はチャラめの友人、斉藤よりお呼びがかかる。


「おお~い、橘先生。今日の夜7時から時間ある?」


彼が私を「橘先生」と呼ぶときには、少なからず恋愛関係の厄介事を持っている時だ。


…やれやれ、眼鏡を手に入れてから、こういった方面では人気者である。


夜7時、今日はバイトもないし大丈夫である。7時という時間設定を見るに、おそらく合コンであろう。


「ああ、大丈夫。暇だよ。…合コンか?」

「橘先生は話が早くて助かる!!今日どうしても落としたい子がいるんですよ~。アシスト頼めます?」


斉藤は「グエッヘッヘ…」といった笑みを浮かべる。

この性格で顔が整っていなければ、女性にもてることなどないだろうに。美形は得である。

しかしこの男、女性関係にはだらしないが、一緒に遊んでいて楽しい男ではあるのだ。さばさばしたところがあり、変に後腐れしない付き合い方をするから、彼に向かう黒い線は少ない。ゆえに多くの人が共通してそのように感じているのだろうと思う。


「石川も暇か?よかったら人数合わせ手伝ってほしいんだけど」


このチャラチャラした斉藤と対をなす硬派一直線の石川も、なぜか斉藤と仲がよい。

得てして似たもの同士よりも、多少違うところのある人間同士のほうが、一緒にいて面白いものなのかもしれない。


「…他にいないのか?あまり気が進まない」

「いやぁ、すまんね。なかなか平日の夜に人を集めんのは大変なのよ。よろしく頼みますわ」


石川は渋々といった感じでうなずいた。


「やぁ、両先生ともありがとう。暇な二人に感謝ですな!」


あんまりな言い草だが、斉藤が言うとあまり嫌味に聞こえない。ほんとに得な男である。


「それじゃあ、今日の夜6時50分までに『広川』集合な」

「はいよ」「…ああ」


我々二人はうなずき、それぞれ一時帰路に就いた。




6時50分ちょうどに広川の前についた。

広川はバースペースと座敷スペースが両方ある居酒屋で、私の大学では中規模の人数での飲み会において、よく利用される店である。

ちょっとおしゃれな内装と、あまり堅苦しくない空気がこの店のいいところだと思う。


広川の前に行くと、石川がすでについていた。

こちらに向かって手をあげるので、私もそれに答える。


特に何を話すでもなく待っていると、斉藤が残りの男性陣と女性陣を連れてやってきた。

そして、私は男女の人数を確認する。


(…5対5。ちょうどいいな。)


私は素早くフラグメーカーを起動し、すべての合コン参加者をロック機能を使ってロックする。

得てして飲み会の席などというものは、あちこちから好意と嫌悪のフラグが行き交い、どの線がどこにつながっているのかわけがわからなくなり、次第にこんがらがってくるのである。


故に飲み会が始まる前に、一緒に飲むメンバーの全員、もしくは人数が多いときは、男女どちらか一方を全員ロックしておく。そうすることで、その飲み会での関係性の図式があらかた把握できるという仕組みなのだ。


さて、男性陣ロックしてみると、斉藤の目当ての相手はすぐに見つかった。

正直フラグメーカーなんて使わなくても、一発でわかる。あいつ、彼女と会話するときだけ、顔が違う…。

ついでにほかの二人の男からも赤い糸がそれぞれ伸びており、それが絡まっていたり、斉藤と同じ人に向かっていたりと、これはこれでなかなかに混乱しそうな図式である。




今回のメンバーで赤いラインが伸びていない人物は3人であった。


まず、私。なぜなら私に関係するラインは表示されないから。

しかして、私に関するラインを表示する機能があったとしても、きっとラインは一本も見えないことであろう。


あとは石川。彼はどこまで硬派なのであろう…。


そして女性陣の中で一人だけ浮いている、もの静かそうな女性。

よく見てみると整った顔をしていて、清楚で美しい。

しかしながら、この空間において、彼女は全くというほど目立っていなかった。


さて、大体の図式を把握した私は考える。

…まぁ、うまいこと立ちまわって見せよう。






お酒が入ればみな口も軽くなる。心もオープンになり、ライン一本一本が太い太いつながりになる。


斉藤は口がうまい男だ。要領もよい。顔もよい。ゆえに私が合間合間でちょっとしたホローを入れてやるだけで、簡単に相手からも、細いながら赤い糸を向けてもらうことに成功した。


他の男衆二人も、斉藤が仲間として連れてくるだけあって、目的の相手を絞り、それなりにうまくやっているようであった。




さて、そんな彼らと同じグループであるはずなのに、完璧に浮いているのが3人いた。


まず、「お前は武士か!!」と突っ込みを入れたくなるようなペースで、ただ黙々と焼酎のロックをあおっている石川。


次に、「私お酒はあまり得意じゃなくて…」とあいまいな微笑でウーロン茶ばかり飲んでいる、先ほどの清楚な女性。なお、自己紹介で白川さんという名前を知った。


そして、お酒が入りだして急にやかましくなった、一つ下の後輩。

お酒を飲む前は、ボブショートのよく似合う、活発そうな子だと思っていたのに、少しお酒が入りだしたら、もうあほみたいに高笑いを始めたり、意味もなく男性陣にまとわりついてみたりといろいろと大変である。名前は伊藤というらしい。


そして、私の仕事は、もっぱらこの「合コンにおいては困ったちゃん」な3人の相手ということになった。



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