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フラグメーカー  作者: 夏野ゲン
ある合コンの話
24/35

推理

キツネどころの騒ぎではなかった。

藪をつついたら、予想もしていなかったような化け物が出てきた。

オレはひょっとするとろくでもない物が入った箱のふたを開けてしまったのかもしれない。


「フラグメーカー?何ですか?それ?」


「斉藤さん?あなた、何を言ってるんですか?」


そんな風に無邪気に笑う白川真琴の姿をオレはどこかで期待していた。

オレが心のどこかで感じていた、白川に対する、異常な不安感。そんなものは気のせいだったと払拭してもらえることをどこかで望んでいた。


しかし、結果はオレの勝ち。

オレの推理が当たり。

めまいがした。どうすればいい。こんな事実を隠したまま、あいつらと接することはできるのか?




目の前に立つ一人の人間は、自分の告白に対して、特別な感情は何も感じてはいないようだった。あまりに強く、あまりにまともではなかった。




「斉藤さん。ここからは逆に、私からあなたへ質問したいことがあります。聞いていただけますか?」


彼女は笑顔で言った。

オレにはその笑顔を、もう素直に受け止めることなんてできない。


「私は、石川君から橘さんへの告白というか、追及というか、そんなものを影で聞いていたんです。ほら、あなたの言っていた、橘さんが『石川を怒らせてしまった』とあなたに告白したあのときの話。それを盗み聞きしていたんです。具体的にどんな内容だったか、お聞きにはなりましたか?」


オレは首を横に振る。

…具体的な話は知らない。


「話の内容は、要約すると、『石川君がフラグメーカーという機械を使って心を覗き見ていたことに対して怒った』そして、『橘君がフラグメーカーを使って、周囲に波風を立てないようにしようとした結果、私の気持ちに向き合おうとせず泣かせた事に関して、石川君が失望した』と話した。以上2つです」


ここまで聞いて、オレは違和感を感じる…。

何か、おかしい。


「斉藤さん、あなた、ひょっとして、石川君に対して、私が泣いたと思っていますか?伊藤さんと橘君の関係をかき回すために、石川君に向かって、『橘君が向き合ってくれない』と泣いたと思いますか?」


オレは、その問いを受けて悩む。そう、そこだ。違和感の根源はそこにある。

そうではないのか?石川から橘へ向けられた言葉も、目の前に立つ白川真琴の策略の結果ではないのか?


でも…それは違う気がしてならないのだ。目の前の女がそんなことをするはずがないという感覚が、勝っている。


オレの表情を読んでか、彼女はゆっくりと微笑む。


「私は、石川君の前で泣いたりしていません。そんなことできません。だって…私には涙を流せるほど強い感情がないもの。私は実験の計画ができます。人の心理を読んで、どのようにすれば目的とするような心の動きを生み出せるのか、想像することはできます」


「しかし、私は気持ちの流れを想像することはできても、真実の意味で理解することはできません。できるのは観察することだけ。そして、観察者の私には、演技を使って心の動きに干渉することなんて毛頭できない。…理解していただけますか?」


なんとなく…わかる。

こいつは冷血な実験者だが、冷血さゆえに、感情を振り切らせることなど、きっとできない。

そんなところも、オレに似ている…。


「それに何より…私は橘さんと伊藤さんの観察を、もうあきらめていましたから、そんなことをする必要はすでにありません」


…確かに、そのとおり。




「それでは、石川君はなぜ、そんなことを橘さんに言ったのでしょうか?私が橘さんに向き合ってほしくて泣いているだなんてそんなことを」


「石川君は…橘さんに私の心が向かっていないことを知っています。『あなたを見ていれば、あいつに気がないことくらいわかる。あなたの心の動きはわかりやすいから』そんな風に言っていました。らしいセリフだと思いませんか?こんな私をわかりやすいだなんて…石川君も相当変わっています」


彼女はここで言葉を区切り、くすくすと笑う。


「それならば余計に、なぜ石川君が橘君に向けてあんなセリフを向けたのかがわからなくなる。私がやったことは、石川君に橘君が持っている『フラグメーカー』という機械の存在を教えてあげただけ。一言も、『橘君に振り向いてほしい』なんて言ってません」


こんがらがってきた。

石川は、何を意図している。


「私はさらに想像します。想像が行き過ぎると、大方もとの路線から外れてしまうものですが、それでも、今回の私の想像はいい線をいっていると思うので、聞いてください」


「私が想像した結果…彼の言う、向き合ってほしかった『白川』というのは、誰か別の人物なのではないかという結論に行き着きました」


オレは、息を呑む。この先に来る言葉が…読める。読めてしまう。


「そして、私の想像が正しければ、石川君の言う、『橘さんに向き合ってもらいたい白川真琴』とはズバリ斉藤さん、あなたのことなのではないでしょうか?」


想定はしていた。藪に突っ込む以上、傷なしで帰ってくることはできないと。

しかし、想定していた以上に、突き刺さった刃物は、深くオレをえぐった。


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