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フラグメーカー  作者: 夏野ゲン
ある合コンの話
22/35

解答(中)

次は、何でしたか…ああ、そうでした、あの事件でしたね。橘さんが刺されたあの事件。


私はあの合コン以来、橘さんの観察はあきらめました。

それでも顔を見れば挨拶の一つぐらいはしていましたが。




私は橘さんでの実験をあきらめましたが、変わりに新しい実験を思いつきました。

その実験を思いついたのは、偶然の出来事でした。


あの合コンの帰り道、石川君が言ったのです。


「嫌な視線を感じたりしませんか?」と。


後ろを振り返ると、ストーカーが逃げていく姿がちらりと見えました。

その時私は初めて、自分がストーカーされていることに気がついたのです。


私は、性格上、自分に向けられる感情や、その他厄介な事象に関しては基本的に無頓着なので、石川君にそう言ってもらわなければ、一生ストーカーの存在に気がつかなかったと思います。




さて、ストーカーの存在に気がついたその時、私は次の実験を思いつきました。

それは、自分で言うのもなんですが、悪魔的にステキな思いつきでした。

私は、これまで観察者という立場から、自分自身が、実験、というか、『愛憎劇』の渦中に身を置いたことがありませんでした。

しかし、実際に『愛憎劇』を肌で感じるには、自分が当事者になって、爆発的な感情をぶつけてもらうのが一番だと思ったのです。


私は考えました。ストーカーするぐらい粘着質な男です。ちょっと勘違いさせてやれば、すぐに勘違いして飛びついてくるはずです。

そして私はその愛を完膚無きまでに叩きのめして、全力で逆恨みしてもらう。

そして…殺意を、身も凍るくらいに強力な、殺意を向けてもらおうと思っていたです。




私はストーカー男をすぐに特定しました。

簡単でした。私に付きまとう男がどんな奴なのか、石川君に見てもらえばいいだけだったのですから。


彼は私にストーカー男の正体を教えてくれました。


同じ学科の同級生でした。

私は橘さんの観察のために転入してきたばかりですから、完全に向こうの片想いです。


私は、彼が近い人間であったことを喜びました。

ちょっと誘惑して勘違いさせてやるのには絶好の立ち位置に彼はいたからです。


なるべく周りに感づかれないように、それとなく彼に優しく接してあげました。

正直言って、その目線に含まれるいやらしさや、生理的な嫌悪感は少なからず感じていたのですが、これも実験のため、ひいては素晴らしいミステリを書くために通らねばならぬ道です。


私は彼が完全に勘違いするまで、優しく接し続けました。

しかし…彼はいくら勘違いしても、いくら誘惑しても、一向に思いをぶつけてはきませんでした。


当然のことでした。彼はストーカーに身を落とすような自信のない人間ですから。


私は考えました。私からのアプローチだけでは、彼は決して動かない。それなら外部からの促しが必要だ、と。


そこで思いついたのが占い師を使って、彼を促す作戦です。

私は売れない占い師を探して、フラグメーカーの説明をし、念入りに口止めをしたうえで、こうお願いしました。


「彼と私の間にかかる赤い糸を見せつけて、彼が私にアプローチしてくるように促してください」


驚くほどうまくいきました。


占い師は喉から手が出るほどフラグメーカーを欲しがった。


「これさえあれば一躍有名占い師にのし上がれる」


そんな様子が端々から見て取れました。

故に、彼女は私に従順で、なぜそのようなことをするのかと理由も聞かず、私に協力してくれました。


彼は、誰かに後押しされるのを待っていたようでした。


占い師にみせられた思い人との赤い糸という強烈な後押しを受けて、ついに重い腰をあげました。


この実験は、すべて私の思惑通り。


しかし、最後のシーンだけが思うようにいきませんでした。

彼が思いを告げたとき、私は最大級の嫌悪感をこめて、彼の思いを砕きました。ここまでやれば彼に伝わるだろうと。

しかし、彼には理解できなかったようです。彼は私が彼を好いていると完璧に勘違いをしていましたから。


彼が身を寄せてきたとき、私は本気でひっぱたきました。


さすがに彼にも伝わるものがあったようです。

ついでに昼間に橘さんと会話していたこともプラスに働きました。

彼は私と橘さんの関係を勘違いしてくれたようですから。


ついに感情の爆発、愛と憎しみの入れ替わる瞬間がやってきました。

私は身構えて待ちました。彼が、ナイフか何かを出そうとした時、私は身が震える思いでした。


これが殺意か、これが恐怖か!!と。


私は彼に刺される覚悟ができていました。

刺されてこそ、愛が変わった美しい憎しみをすべて受け止めることができると思ったからです。


しかし、私は彼の憎しみを受け止めることを許されませんでした。


…橘さんが、割って入ったからです。


彼が飛び込んできたとき、私には理解が追いつきませんでした。

彼が私の変わりに刺されたことは、私にとって完全に想定外のことで…。私は驚くことしかできませんでした。


なぜ彼は飛び込んできたの?

なぜ彼は私の変わりに刺されたの?




私の実験は、橘健太郎という人間の存在によって、再び失敗しました。


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