追及(下)
「ある意味、ここからが、オレの想像の最大にして、最後の決め手です」
オレの宣言に対して、彼女は薄く微笑むばかり。
「フラグメーカー。知ってますよね」
彼女は小首をかしげて微笑んで見せた。
この化け物ギツネ!!
「昨日橘に見せてもらったんですよ。『僕はこんな機械で石川の心をのぞいて怒らせてしまったんだ。軽蔑したかもしれないけど、僕はお前に聞いておいてほしかったんだ』そんなふうにいって、あいつはちょっと寂しそうに笑ってました」
「でも、そのとき、オレの中で何かがつながったんですよ。ストーカー男のいってた、『赤い糸』最初はキチガイの妄言だと思ってました。でも、違う。赤い糸を視覚化できる道具は確かにあった。ならば、その占い師も見せたのではないか?やつに赤い糸を。そのフラグメーカーとやらで」
ここでいったんきって様子を伺う。
笑顔は、崩れない。
「探しました。問題の占い師。ちょっと大変でしたが、すぐに見つかりました。赤い糸を見せる占い師。そんなのがいたら評判にならないわけないですもんね」
「彼女が持っていたのはフラグメーカーでした。虫眼鏡の形をしていたけれど、あの機能は間違いなく橘のそれと同じだった」
…はぁ、とオレはここでため息をつく。
「ここからは、やりたくなかったんですが…まぁいろいろやって、占い師の口を割りました。フラグメーカー、その道具をあの占い師にあげたの、あなたらしいですね。白川さん」
彼女は「ふふふ」っと笑った。
「これで一応は筋が通る。あらかじめ誘惑してストーカー男に気を持たせ、フラグメーカーを持った占い師が、ストーカー男に告白するための、勇気という最後の一押しをプレゼントする。そして、告白してきたその男を、あなたがふる…。でも、やってることに一本の筋が通ったのに、オレにはあなたが何をしたかったのかさっぱりわからない。巻き添えに橘まで大怪我させて…本当にわけがわからないし、許せない」
オレは、ここで大きく息を吸った。
「ついでに、もうひとつ聞きたいことがある。あなた…橘に恋なんてしていないでしょう?あなたを見ていればわかるし、ついでに言えば、橘のフラグメーカーを使って橘を見てみても、伊藤さんとばかりつながっていて、あなたとの間に糸はなかった」
「しつこく橘の見舞いに来るのは、最初あいつに気があるからかと思った。それなら合コンの件も、『橘と近づきたかった』それで解決する。でも違う。あなたは橘に恋なんてしていない!!」
彼女はここまで来ても、きらきらした目でオレを見るだけだった。
「あなたは、橘に、何をしたかったんですか?それには、あの道具、フラグメーカーが関係してるんですか?教えてもらえませんか?」
………ぱちぱちぱち。
目の前に立つ底の知れない女は、オレに拍手を送った。
「名推理ですね」
そういって穏やかに彼女は笑う。
勝負は、オレの想定どおりに進んだ。しかし、まったく勝った気がしないのだった。