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フラグメーカー  作者: 夏野ゲン
菊川教授の偏愛
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菊川教授の偏愛(上)

私こと橘健太郎は欠伸をかみしめていた。

私もれっきとした大学生である。半分寝ながらも講義には出る。


この日の講義担当は菊川という教授で、延々と土壌中の微生物の話をしている。

根粒菌(大豆の根につく有益な微生物)の話をしている時は、まるで自分の恋人の話をしているかのような、恍惚とした表情になる。


ぱっと見、なかなかのナイスミドルなのだが、結婚歴はなく、


「微生物を愛しているのではないか?」


とまことしやかにささやかれている。




私はとある事情により、「他者から他者への好意を見ることができる眼鏡」である「フラグメーカー」を持っている。


しかしながら、このフラグメーカーなる優秀な眼鏡は、「(※1)全長3cm以下の生物の持つ好意のラインは表示できない」という注意書きがあり、事実、微生物や蚊、ノミ、ダニ、といったサイズの生き物の好意の線はみることができないのであった。


故に菊川教授の微生物に関する愛の有無の真偽は私の力をもってしてもわからないのである。




さて、私はもう暇で暇でしょうがなくなってきた。

両隣の友人は寝ているし、私も寝ようかと思う。


しかしながら、菊川教授は怒らすとなかなか怖いので、なんとか暇つぶしをしながら起きていることにする。


私はフラグメーカーの電源を入れるべく、左のボタンを長押しした。

最初からシンプルモードで表示されるように設定したため、最初に起動したときのような混乱はない。


私はフラグメーカーを手に入れてからも、必要な場合以外には、なるべくその電源を入れないようにしてきた。


フラグメーカーを常に使っていると、否応なく、好意、嫌悪が見えてしまう。

故に常に起動していると、あまりの殺伐とした相関関係に目を覆いたくなるのであった。


しかしながら、この眼鏡を必要に応じて使うことで、恋のキューピットになったり、逆に恋愛に終止符をうってみせたり、悩める両想いをくっつけてみたりと、その道ではそれなりに有名な「恋愛マスター」として名をはせることになった。


…が、それはまた別の話である。




さて、そんな「恋愛マスター」の私であるが、当人の恋愛歴は、いまだに年齢とイコールである。


なぜなら、このフラグメーカー、自分に向けられる好意、また、嫌悪感は表示できないのである。


「自分に対する好意が表示されたら恋愛もくそもない」


という取り扱い説明書の注意書きを読み、「それなら何のための機能なんじゃ!!」と憤ったりもした。

しかし、そもそも万年わき役の私に好意を向ける人間などいるはずもないので、赤い糸が一本もないと落ち込まずに済んだのはある意味よかったのかもしれない。




さて、話が脱線した。




そんな風に普段フラグメーカーを活用していない私であるが、必要な時以外にも、どうしようもなく講義が暇なときなど、暇つぶしにフラグメーカーを起動してみたりする。

確かに殺伐としなくはないが、まぁこの授業を受けている仲間の大半の恋愛事情は、過去の事件などにより、否応なく見えてしまっているので、殺伐としたところでショックは薄いのである。




さて、フラグメーカーを起動すると、左隣の席の少しチャラい友人の斉藤からは無数に赤い糸が伸びていたり、右隣のいかにも硬派そうな、友人の石川からは一本も赤い糸が伸びていなかったりする。


ついでに、斉藤の赤い糸の向かう先にいる小西さんの赤い糸は前の席の頭のよさそうな三上君に向かっていたり、その三上君の赤い糸は原田さんに向かっていたり、原田さんの赤い糸は三上君に向かっていて、ついでに小西さんに向かって黒い矢印が飛んでいたりと、なかなか殺伐とした気分になれる。


そんな感じで後ろの席からぼーっといろんな人から伸びる糸たちを見ていた。


「ああ、あいつまた女変えてるなぁ…」


とか、


「また糸が太くなってる…あの二人は仲がいいなぁ…」


とか、まぁそんな感じでほのぼのしたり、殺伐としたり。


んでまぁ、何とはなしにもうほとんど話を聞いていなかった教授のほうに顔を向けると…。






………あった。






何があったのかというと、菊川教授から伸びる太い赤い糸があった。

そして、矢印の向きは、教授から外の方向に向かっている。


(…これは猛烈な片想いだ)


私は大変なものを見てしまった。

恋愛の臭いのしない、未婚大学教授の猛烈な片想いの存在を知った。




そして私は…おせっかいなことにその片想い相手を突き止めてやろう、可能ならかなえてやろうとか思っていた。


そう。私は自分で言うのもなんだが、「いい人」なのである。


もし、このフラグメーカーなる道具が、心の汚い人間に渡ったなら、きっと他人の恋愛フラグを断ち切りまくって、「メシうま」しながら楽しむことであろう。

しかしながら、私は他人の不幸でメシが食えない。むしろ、幸せをつかんでほのぼのとしている人たちを見るのが好きなのである。


ゆえに私はおごられることよりおごることが好きという人間なのだ。






かくして、私の独断による、「菊川教授の恋愛成就作戦!!」が決行されることとあいなった。


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