追及(上)
「来てくれてありがとう。白川さん」
「いえ、お待たせしました。斉藤さん」
こうして対面してみると、やはりこいつからはオレと同類のにおいがする。
だが、やはり、こいつのほうが底が深くて、何も見えない。
「今日はちょっとした、オレの想像した物語を聞いてもらおうと思ってよんだんです」
「あら、いいですね。私、物語は大好きですよ」
そして笑顔。
さて、オレはこれからこの笑顔を崩すことができるだろうか?
「今日はね、ちょっと前々から気になってたことを言わせてもらおうと思います。えっと、どこから話したもんかな…」
オレが思案するのを、彼女は楽しげな様子で見ている。まるで、「あなたの言いたいことはわかっていますよ」といわんがばかりの様子。
…めんどくさい。ストレートにいこう。
「あの、白川さんフラグメーカーって機械、知ってますか?」
この問いかけに、「あらっ」というような表情の彼女。
そして、その後に肯定とも否定とも判断のつかない微笑。
こいつはほんとにタヌキだ…。いや、見た目的にきつねか?
「…まぁ、いいや、続けます。とりあえず、オレがあなたに違和感を感じたのは最初にあったとき。あの合コン。あなた、いかにも楽しくなさそうってオーラ出してたじゃないですか。見てくれいいから、数合わせにつれてこられたんだと思ってたんですよ。最初は」
ここで言葉を切ると、彼女はキラキラした目で、「続けて」みたいな顔をしている。
調子を崩したオレは、ひとつ咳払いをしてから続ける。
「でも、ひとみから聞いたら違うらしいじゃないですか。何でも、自分から『いきたい』と言い出したらしいですね。あの合コン。それなのにあまりに楽しくなさそうだった…いいや、あなたはっきり言って楽しむ気がなかった。オレにはそう見えました」
「そうかもしれませんね」
彼女はあいまいな微笑を崩さずオレの話を聞いている。
まだ、何も崩せちゃいないみたいだ。では、次の一手で多少は外壁が崩せるだろうか?
「合コンの件は、『男と知り合いたいけど慣れてないだけかな?』とか思って、いつの間にか忘れてました。でも、決定的におかしいと思ったのがその次だ。あなたと次にあったのは、橘が刺されたときでしたね?」
「…はい。そうだったかもしれません」
彼女は一瞬思い出すような顔をした後うなずいた。
本当にキツネだ。こいつの演技は、オレですら意識してみないと演技だということに気がつけない。
「なんでも、あいつはストーカー男で、占い師にあなたとの赤い糸を見せられて、勘違いしてしまったんだとか」
「はい。警察の方もそんな風に言っていたと思います。ストーカー男が勘違いして逆恨みしたんだろうって」
「でも、冷静に考えて、それっておかしくありませんか?相手はストーカーするような男ですよ。ろくにあなたと面と向かって話すこともできないような男だ。そんな人間が、たかだか占いで『あなたとあの人は運命の赤い糸で結ばれている』なんていわれたぐらいで、重い腰を上げて、勇気を出して告白なんてできますか?」
「…さぁ?私はストーカーなんてする人の気持ちはわかりませんから」
…おっと、少し崩れた。今のは多少は効いたか?
「ここからは、あくまでオレの想像です。いやだと思ったなら聞かなくてもいいし、失礼だと思ったなら怒ってくれていいです」
彼女は「どうぞ?」というように目で合図する。
ここからが…勝負だ。
「思うに、オレはあのストーカー男に占い師の一押しであなたに告白できるほどの勇気はなかったと思う。それじゃあ、なぜあいつはあなたに告白しようと思う勇気を得たのか」
オレは大きく息を吸う。ここで間違っていればジエンド。しかし、ここをしのげば、オレの勝ち。
「単純に考えると、『あなたがやつを誘惑した』って考えるのが妥当だ。『私はあなたに興味を持っています』そんなアピールをさりげなくしていたんだ」
「何で私がそんなことをしなければならないんです?」
彼女は否定せず、ただ笑顔で返した。
そう。否定はなかった。
「正直言って、そこがわからない。ただ、オレの推測を裏付けるように、あなたとつかまった男が一緒に楽しそうに話してるところを見たって話をいくつか聞きました。勝手にかぎまわってしまって申し訳なかったとはおもっているけど」
「いえ、身辺の聞き込み捜査は、推理の基本ですから」
そういって彼女は微笑んだ。
「それは…認めてるってことですか?」
「さぁ?どうでしょう?」
そう言って彼女は笑った。