傍観、思考
伊藤かえでという女の子は、面白い。
最初はかわいいだけで、なんだかふわふわした、頼りない子だと思った。
それが、しばらくぶりにあってみたら、一本芯が通っていた。でも、それは曲がらない強さじゃなくて、しなやかにしなって受け流すような、自然な強さだ。
なんだか橘に似てきた。そんな風に思う。
それにしても、この子に何があったのだろうか?
彼女は急に強くなった。彼女と会って橘が刺された原因を話したときには、まるで親猫に捨てられた子猫のような顔をしていたのに、今は白川女史の細かなけん制にも負けずに、今日も見舞いに来て、せっせと橘の世話を焼いている。
橘は橘で、そんな風に世話を焼いてもらえることに慣れておらず、すごく照れていて、でも、明らかに彼女を意識し始めていて…。
そんな姿は、どこかほほえましくて、うらやましい。
きっと、オレはあの子のまっすぐさに憧れを抱いているのだ。
ぐにゃぐにゃに捻じ曲がったオレは、自分にないものを持っているあの子がうらやましい。
…逆に、オレには、白川真琴という女のことがよくわからない。
あの女は…わからない。
ぱっとみたところでは、ただの清純そうなお嬢様。
なのにオレにはその底が…見えない。
あの笑顔の奥には、どうしようもなく深くて、ほの暗い何かがあるような気がして仕方がないのだ。
底は見えないが、それだけはわかる。
あの女からは同属のにおいがする。きっとあいつも、オレと同じでぐちゃぐちゃに捻じ曲がった迷宮を心のうちに持っている。
…嫌な予感がしてならなかった。