二人(上)
私こと橘健太郎は、病院の一室にて、空を眺めていた。
入院からわずかに1週間。傷はあらかたふさがり、医者も「異常に回復が早い」と、驚いていた。
入院生活中は、斉藤がエロ本をもって遊びにやってきてみたり、石川が生真面目そうな顔で講義資料のコピーを持ってきてくれたりと、なんだか思った以上にいつも通りな感じである。そう。男衆に限定しては。
おかしいのである。
絶対におかしいのである。
女性に関して交友関係のほとんどない私にとって、この状況ははっきり言っておかしいのである!!
なぜに、私のところに毎日必ず2人の女性が見舞いにくるのであろうか?
これは夢か?幻か?
入院2日目にして、白川さんが見舞いにやってきた。
たくさんの果物をかごに入れて、やってきた。
「ビタミンをしっかり取った方がいいです!!」
そんな風に言って彼女はリンゴをむき、私に食べさせた。
…この状況は一体何だ?
白川さんは少なからず石川に気があるのではないのか?なぜ私の相手をしているのだろうか?思い切って
「なぜ毎日見舞いに来てくれるんですか?講義や他の用事もあるでしょうし、もし、無理をしているなら、私は大丈夫だから、他を優先してください」
と言ってみた。これに対して、
「…私のせいで橘さんは入院してしまったのですから、治るまで毎日見舞いに来ます!それが今の私にとっての最優先事項です!!」
と高らかに宣言した。
彼女の目は使命感に燃えていた。
白川さんの訪問の理由は「使命感」で良しとしよう。
しかしながら、もう一人毎日見舞いに来ている、伊藤さんのほうは、あいまいな理由すらわからない。
「そんな無理に毎日見舞いに来なくてもいいんだよ?」
と言っても、
「私が来たいから来ているんです。先輩にはお世話になったのに何もできてないから…。それともご迷惑ですか?」
「いや、そんなことはないし、うれしいけど…」
「それならお互いうれしいということで万事解決です!!」
こんな感じである。もう、なんだかよくわからない。
そして、なぜか異常に居心地が悪いのが、二人のお見舞いがかぶった瞬間である。
空気がピリピリするのである。
非常に居心地が悪いのである。
逃げ出したくなるが、私の見舞いに来ている二人を置いて、私が逃げるなど意味がわからない。
なんだっていうのだろうか?
二人が私に気があるとでもいうのだろうか?
そこまで考えて、「…いやいや」と思う。
斉藤みたいなイケメンならまだしも、私に対して何かを感じるほど2人と私の間には接点はないはずだ。むしろこんなことを思うなど、2人にも失礼だし、石川に対してはひどすぎる最悪な考えだ。
しかし、「私に気があるのだろうか?」なんて考えている時点で、私も少しは期待しているのかもしれない。恋愛などというものに対して。
やれやれ…万年わき役のくせに私は何を考えているのやら。