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フラグメーカー  作者: 夏野ゲン
ある合コンの話
12/35

気持ち

私はぼーっとしながら家に帰った。

私がぼーっとしている時には2種類あると真弓は言っていた。


本当に何も考えていなくてぼーっとしているときと、

…感情がいっぱいいっぱいで、何も顔に現れないときの2種類があると。


たぶん今日のは後者だ。




刺された先輩が心配で、


先輩と白川さんの関係が気になって仕方がなくて、


先輩の体の心配をしたいのに、そんな自分勝手な気持ちがわきあがってくる自分が嫌で、


頭のどこかで、「私が刺されそうになったら、先輩はかばってくれるかな?」なんて思っている自分がいるのに気がついて、余計に嫌いになって!!


たぶん感情のキャパシティーを超えていた。




…ガチャン。




部屋の扉が開く音がして、誰かが入ってくる。

視線の先には、小野真弓という大事な友達が立っていた。


「…飲みに行くよ。おごる。今のあんたに必要なのは、とりあえず吐きだすこと」


真弓は男顔負けの男前さで、高らかに宣言した。




『広川』のバーカウンター席に私たちは座っていた。


「悪酔いするからいい…」


と断った私を、


「今のあんたは悪酔いしてでも吐きだしとくべきだ。溜めこんどくほうがよっぽど悪い!!」


と怒られて、ほとんど無理やりに連れてこられた。


もともと、お酒に強くはない。カクテル3杯で、今日の私はクルンクルンになっていた。


「んで、何があったわけ?」


真弓の問いかけに、私はクルンクルンしながら、支離滅裂に話し始める。




…橘先輩が刺された。夕方のニュースにもなってた。

あんまり心配でお見舞いに行こうと思ったら、面会時間外で会えなかった。

斉藤先輩が出てきて、橘先輩が刺された理由を聞いた。

女の人をかばって刺されたらしい。


私は、それが気に入らないらしい。

そして、先輩を心配しているはずなのに、そんな風な気持ちが出てくる自分が嫌だ!


もう、せきららどころではなく、心情の吐露であって、独白であって、もう何が何だか分からなくなっていた。


真弓は私の話を聞いて、そして、たった一言ぶつけてくる。


「…それで?肝心なところが抜けている気がするけど?」

「…えっ?」


ぐちゃぐちゃになった私の頭の中を、真弓の言葉が鎮めた。


「あんたは、なんでそんな風に思うの?なんで、橘さんのことがどうしようもなく心配になったり、その女の先輩をかばってケガしたってことを気にするの?」

「…えっ?それは…」


私は答えに窮していた。なんで、だろう…?

真弓は「ああっ!もうっ!!」とじれったそうに頭をガリガリ掻く。


「あんたはそう。いつだってそう!!はっきりしなくて優柔不断で、はたから見ててイライラしてくるわ!!そんなだからよくわかんないうちにふられんだよ!!」

「…なっ!!その話は今関係ない!!なんで、今そんなこと言うの!?」

「いや、関係なくないね!!あんたはいっつもそうだ。自分の気持ちもよくわからなくて、それでなし崩し的に動いて、そのせいでいっつも勝手に傷ついて痛い思いをする!!たまにははっきりしたらどうなんだ!!この優柔不断女!!」

「だから何のことだって…」

「あんたは橘さんに惚れてるんだろ!!いい加減自覚しろ!!」

「…えっ?」


真弓は深く深くため息をつく。


「なんで、私にこんなこと言わすのかね、あんたは…。私も自分のおせっかいな性格が嫌になるわ」


私は呆けたまま、それでも言葉を返す。


「…違う。そんなんじゃなくて。だって、先輩とあって、まだ1月もたってないし、よく知らないし、それなのに好きとか、違う…」

「違わないよ。好いた惚れたに出会ってからの期間なんて関係あるかっての…世の中にあふれる一目ぼれ全否定してんじゃないか」

「だって、先輩は私に優しくしてくれてるのに、私は何も返せてなくて…」

「優しくしてもらえるなら、それを受け取るだけで、返さなくたっていいじゃないか。なのに、なんでそれを無理に返す必要があるんだよ?それは口実だよ。あんたの口実。先輩との糸を切らさないための、ね」


…否定する言葉が見つからない。


「かえではさ、見てくれいいから、いっつも迫られる側でさ、その上優柔不断だから、ろくに自分の気持ちを見てこなかったんだろ。流れに任せて、押されるまま流されて、なんだかよくわからないままふられて。あんたそんなんでよかったの?」

「…よくない」

「自分の気持ち否定して、なんだかよくわからないけど、体張って女の子助けた先輩の行動にむかむかして、悶々した気持ちを抱えて、これまでみたいによくわかんないまま流れに任せて終わって、そのままでいいわけ?」

「…よくない!!」

「なら、いい加減、自分の気持ちぐらい、自分で整理しろ!!」


そういったきり、真弓は私に背を向けて、ただ黙々とお酒を飲んでいた。


私は、先輩が好き?


…よくわからない。


でも、なんとなく先輩の笑顔を見ていると、安心する。

先輩が痛い思いをしているなら、それを取り除いて笑っていてもらいたいと、そう思う。


それは「恋」なのだろうか?

それは「好き」なのだろうか?


……よくわからない。


「………よくわからない」


思いがそのまま口に出た。

真弓が深々とため息をつく。何か口を開きかけるが、その前に私は言う。


「…でもっ!先輩は、何か違う…。何か特別、なんだ…」


真弓がさらに深い深いため息をつく。


「…まぁあんたにしてはよく頑張ったんじゃない?」


続けて彼女は言う。


「それならあんたは気に病む必要はないよ。自分にとって特別な人間なら、自分のことを見ていてほしいって思うもんだよ。きっと誰か別の人間をみてる、ましてや別の人間を命を張って助けた、なんて話に反応しないほうが無理な話さ。だから、あんたは気に病む必要なんかない。明日にでも見舞いに行ってきな。そしたら自分の気持ちも少しはかたまるんじゃない?」


「…ありがとう。いつも気にかけてくれて」


真弓が今日最大のため息をつく。


「ほんとにしんどいっての。何か事あるごとにドツボにはまる親友の面倒見てやるなんてさ」


「もし…」


「…うん?」


「もし真弓が男だったら、きっと速攻で惚れてるよ!!」


真弓はもう苦笑を通り越してあきれていた。


「あんたみたいな、めんどくさい女、こっちから願い下げだわ!!」


真弓はグラスに残った赤いカクテルを、グイッと一気に飲み干した。


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