鍛冶場狐と槌の音
刀鍛冶のもとへ現れる狐がいた
その狐はいつも窓から刀を鍛える様子を眺めていた
気づかれないようにと思ってか
窓枠に前足をかけ
その大きな耳を寝かし
目元だけを窓から覗かせていた
槌で打つたびに散る火花
刀を冷やすために飛び散る水しぶき
カン
左の耳がぴこっと立つ
ジュウ
右の耳がぴこっと立つ
炉に刀を入れて
再び
カン、カン
カン、カン
音に合わせるように、次第に伸び上がり窓枠に顎を乗せていた
時々はっと気付いてまた隠れる
それを繰り返しながら眺めていた
ある日、身なりの良い男が現れた
邪魔をしないからそばで刀を打つところを見せて欲しいという
鍛冶師は気が散るからと断った
だが、何度断ってもその男は三日と開けずに現れた
とうとう鍛冶師が根負けし、男にこう言った
「今打っている刀はお客様のもの。ですがこれが仕上がったら、自分の作りたいと思う刀を打ちます。それを打つ間なら良いですよ」
男は大層喜び帰っていった
狐は相変わらず伸び上がっては、縮むのを繰り返しながら毎日鍛冶場を眺めていた
鍛冶師は鍛えていた刀を打ち終えると、新しい刀へと取り掛かった
カン、カン
刀を打っていると、男が現れた
鍛冶師の手元がよく見えるところに陣取り、一日中飽きずに見守っていた
カン
男がぴくっと揺れる
カン、カン
男は槌の打つ音に合わせてリズミカルに身体を揺らす
刀を水に入れ冷ますと
男はほぅと溜息をつく
再び打ち始めると、音に合わせて身体を揺らしていた
鍛冶師は窓を見る
今日も狐はいない
鍛冶師は男に言った
「打ってみますか?」
男は目を輝かせた
「良いのか」
鍛冶師は男に打ち方を教え、数回打たせてみた
「簡単そうに見えるが、難しいものだな」
男は満足そうに言うと帰って行った
その後しばらく、狐も男も現れぬまま、刀は打ち上がった
鍛冶師は依頼をこなし、日々を淡々と過ごしていた
ある日ひょこっと狐が窓から顔を出した
「お前、久しぶりだな」
狐は話しかけられて驚いたのか逃げてしまった
見ると南天がひと枝落ちていた
狐はこれを届けに来たのだろうか
鍛冶師はそれを大切に部屋に飾った
その後
鍛冶師が男と打った刀は
「南天狐丸」
と名付け稲荷明神へと奉納された
狐は相変わらず鍛冶師の鍛冶場へ通って来ている




