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密室の真実

作者: 心川構成

# 密室の真実


## 第一章 雪の山荘


十二月の寒風が吹きすさぶ中、私立探偵の神谷修一は、長野県の山奥にある洋館「白樺荘」へと向かっていた。依頼人は館の主人である実業家の桐山慶三。電話での声は震えており、「どうしても来てほしい。人が死んでいる」という言葉だけを残して電話を切られてしまった。


白樺荘は、昭和初期に建てられた重厚な洋館で、周囲を深い森に囲まれている。冬季は雪に閉ざされ、外部との連絡が困難になることで知られていた。神谷が到着したとき、既に雪は膝の高さまで積もっており、館は白い沈黙に包まれていた。


玄関で神谷を迎えたのは、青白い顔をした桐山慶三その人だった。六十代前半の桐山は、普段は温厚で知られる紳士だったが、今日は明らかに動揺していた。


「神谷さん、よく来てくださった。実は、昨夜から今朝にかけて、とんでもないことが起こったのです」


桐山に案内され、神谷は館の中へと足を踏み入れた。重厚な装飾が施された廊下を歩きながら、桐山は事情を説明し始めた。


「昨夜、私の古くからの友人たちが集まって、久しぶりの同窓会を開いていたのです。参加者は私を含めて五人。大学時代の同級生で、年に一度こうして集まるのが恒例でした」


神谷は頷きながら、館の構造を観察していた。一階は応接室、食堂、書斎、厨房があり、二階には五つの客室が並んでいる。三階は物置として使われているらしい。


「それで、何が起こったのですか?」


桐山は立ち止まり、深いため息をついた。


「今朝、友人の一人である田中良雄の部屋から返事がないので、様子を見に行ったところ…彼は書斎で死んでいたのです。しかも、部屋は内側から鍵がかけられていて、窓も雪で完全に塞がれていました」


## 第二章 密室の死体


桐山に案内され、神谷は問題の書斎へと向かった。書斎は一階の奥にあり、重厚な扉には確かに内側から鍵がかけられていた。桐山が合鍵で扉を開けると、そこには異様な光景が広がっていた。


田中良雄は、五十八歳の元銀行員で、現在は投資顧問業を営んでいた。彼は書斎の中央にある大きな机の前で、椅子に座ったまま死んでいた。頭部に鈍器で殴られたような傷があり、周囲には血痕が飛び散っていた。


神谷は慎重に現場を観察した。書斎は約二十畳の広さで、三方の壁には天井まで届く本棚が設置されている。唯一の窓は北側にあったが、桐山の言う通り、外からの雪で完全に塞がれていた。


「他に出入り口はありませんか?」


「ありません。この扉だけです。暖炉もありますが、煙突は細すぎて人が通ることは不可能です」


神谷は部屋の隅々まで調べた。暖炉の煙突は確かに直径三十センチほどで、大人が通ることは物理的に不可能だった。窓も外から確認したが、雪が固く凍っており、外から侵入した形跡はない。


「昨夜の様子を詳しく聞かせてください」


桐山は椅子に座り、昨夜の出来事を思い出すように話し始めた。


「昨夜は午後六時から夕食を始めました。参加者は私、田中、そして大学時代の友人である医師の山田弘、弁護士の佐藤健三、商社マンの鈴木正男の五人です。皆、六十歳前後で、四十年来の友人です」


「田中さんはいつごろからこの書斎にいたのですか?」


「夕食後、午後九時頃だったと思います。田中は読書家で、私の蔵書を見たいと言って、一人でこの部屋に来ました。他の皆は応接室で談笑していました」


神谷は机の上を調べた。開かれた本が一冊、血痕で汚れて置かれている。タイトルは「完全犯罪の研究」。皮肉なことに、推理小説の古典的名作だった。


「この本を読んでいたのですね。他に気になることはありませんか?」


桐山は首を振った。「特に変わったことはありませんでした。ただ…」


「ただ?」


「実は、田中は最近、仕事で大きなトラブルを抱えていました。投資詐欺の疑いをかけられていて、かなり悩んでいた様子でした」


神谷は眉をひそめた。「それは他の友人たちも知っていたのですか?」


「ええ。昨夜も少し話題になりました。田中は『すべて解決する』と言っていましたが、詳しいことは話しませんでした」


## 第三章 四人の友人


神谷は残りの四人と順番に面談することにした。まず最初は医師の山田弘。六十一歳の山田は、地元で開業医をしており、物静かで理知的な印象を与える男性だった。


「田中君の死については、本当に驚いています」山田は落ち着いた口調で話した。「昨夜は午後十時頃まで皆で談笑していました。田中君が書斎から戻ってこないので、桐山君が様子を見に行ったところ、部屋に鍵がかかっていて返事がないということでした」


「その後はどうされましたか?」


「疲れていたので、各自部屋に戻って休みました。朝になって、やはり田中君の返事がないので、桐山君が合鍵で開けたところ…あの状態だったわけです」


神谷は山田の手元を見た。医師らしく、清潔で器用そうな手をしている。


「田中さんの投資トラブルについて、何かご存知ですか?」


山田は少し考えてから答えた。「詳しくは知りませんが、顧客から預かった資金の運用に失敗して、大きな損失を出したと聞いています。法的な責任を問われる可能性もあったようです」


次に面談したのは弁護士の佐藤健三。五十九歳の佐藤は、がっしりとした体格で、鋭い目つきをしていた。


「田中の件は気の毒だが、自業自得とも言える」佐藤の口調は辛辣だった。「あいつは昔から金に汚いところがあった。今回の投資詐欺も、正直驚かない」


「昨夜、田中さんと何か話をしましたか?」


「少しな。奴は『すべて解決する方法がある』と言っていた。おそらく自殺を考えていたのだろう」


神谷は首をかしげた。「しかし、他殺の可能性が高いのですが」


佐藤は肩をすくめた。「それは分からないが、密室状況なら自殺以外考えられないだろう。まあ、詳しいことは警察の捜査を待つしかない」


三番目は商社マンの鈴木正男。六十歳の鈴木は、人当たりの良い温厚な性格で知られていた。


「田中君とは長い付き合いでしたが、こんなことになるなんて…」鈴木は本当に悲しそうな表情を見せた。「確かに最近は元気がありませんでしたが、まさか死んでしまうとは」


「田中さんの投資トラブルについて、詳しく教えてください」


「実は、私も被害者の一人なんです」鈴木は苦しそうに告白した。「退職金の一部、約二千万円を田中君に預けていたのですが、すべて失ってしまいました。でも、友人ですから、強く責めるつもりはありませんでした」


神谷は驚いた。「それは昨夜、話題になりましたか?」


「いえ、田中君を追い詰めたくなかったので、黙っていました。でも、彼は私の視線で察していたかもしれません」


## 第四章 矛盾する証言


四人との面談を終えた神谷は、桐山と再び書斎で話し合った。


「皆さんの証言に、いくつか気になる点があります」


「どのような点でしょうか?」


「まず、田中さんが書斎に入った時間です。桐山さんは午後九時頃と言いましたが、山田さんは十時頃まで皆で談笑していたと言っています」


桐山は眉をひそめた。「そうでしたか…確かに記憶が曖昧です。昨夜はかなり飲んでいましたから」


「それから、田中さんの投資トラブルについて、鈴木さんも被害者だったということですが、これはご存知でしたか?」


「いえ、全く知りませんでした。鈴木君は何も言っていませんでしたから」


神谷は書斎を再び詳しく調べた。血痕の状況から、田中は机に向かって座っているときに後ろから殴られたようだった。凶器らしきものは見当たらない。


「凶器は何だったのでしょうか?」


桐山は首を振った。「分かりません。この部屋にあった何かでしょうか?」


神谷は本棚を調べていたとき、ふと気づいた。一冊の本が抜けている場所があった。厚い辞書のような本が置かれていたと思われる空間が、ぽっかりと空いている。


「この本棚から、何か本がなくなっていませんか?」


桐山は本棚を見上げた。「そう言われれば…確か、そこには重い美術書があったはずです。西洋絵画の画集で、かなり分厚くて重い本でした」


「それが凶器として使われた可能性がありますね。その本はどこに?」


二人は書斎を隈なく探したが、その美術書は見つからなかった。


## 第五章 雪の証言


神谷は外に出て、館の周りを調べることにした。雪は相変わらず降り続いており、足跡はすぐに埋もれてしまう状況だった。


書斎の窓の下を注意深く観察すると、興味深いことに気づいた。窓の真下だけ、雪の積もり方が他と少し違っている。まるで何かが落ちて、雪を押し固めたような跡があった。


神谷は雪をかき分けて調べてみた。すると、雪の下から血痕のついた重い本が出てきた。タイトルは「西洋絵画大全集」。間違いなく、これが凶器として使われた美術書だった。


しかし、ここで新たな疑問が生まれた。密室の書斎から、どうやってこの重い本を外に出したのか?


神谷は再び書斎に戻り、暖炉を詳しく調べた。煙突は確かに細いが、本一冊程度なら何とか通すことができるかもしれない。しかし、重い美術書を煙突から落とすには、相当な力が必要だろう。


「暖炉は昨夜、使用していましたか?」


桐山は首を振った。「いえ、この部屋の暖炉は長らく使っていません。暖房は別にありますから」


神谷は煙突の中を覗いてみた。確かに、最近火を焚いた形跡はない。しかし、煙突の内壁に新しい傷のようなものが見える。重い物を無理に通したときにできる傷だった。


## 第六章 時間のトリック


神谷は改めて昨夜のタイムラインを整理した。


午後六時:夕食開始

午後九時:田中が書斎へ(桐山の証言)

午後十時:皆で談笑(山田の証言)

午後十時半頃:各自就寝


しかし、ここに大きな矛盾があった。田中が午後九時に書斎に入ったとすれば、午後十時に皆で談笑していたという山田の証言は嘘になる。


神谷は山田を再び呼び出した。


「昨夜のことについて、もう一度詳しく聞かせてください」


山田は少し動揺したような表情を見せた。「何か問題でもありましたか?」


「田中さんが書斎に入った時間について、証言に矛盾があります」


山田は沈黙した。しばらくして、ため息とともに口を開いた。


「実は…田中君は一度書斎に入ったのですが、三十分ほどして戻ってきたのです。そして再び、午後十時頃に書斎に向かいました」


「なぜ最初からそう言わなかったのですか?」


「田中君が戻ってきたとき、かなり興奮していました。『すべて分かった。すべて解決する』と繰り返し言っていて…何か重要な発見をしたようでした。それが彼の死と関係があるかもしれないと思い、言うのをためらったのです」


新たな事実が判明した。田中は一度書斎から戻り、再び書斎に向かっていた。そして二度目に書斎に入った後、死亡した。


## 第七章 隠された動機


神谷は田中が「すべて分かった」と言った言葉に注目した。彼は書斎で何を発見したのか?


書斎の本棚を詳しく調べていると、ある本の間に挟まれた書類を発見した。それは古い投資契約書で、桐山の署名が入っていた。日付は十年前。内容を読むと、桐山が田中の投資会社に多額の資金を預けていたことが分かった。


「桐山さん、これは何ですか?」


桐山は書類を見て、顔面蒼白になった。「これは…どこで見つけたのですか?」


「田中さんが見つけたようですね。彼はこれを見て『すべて分かった』と言ったのではありませんか?」


桐山は観念したように座り込んだ。


「実は…私も田中の投資詐欺の被害者だったのです。十年前、会社の資金三億円を彼に預けていました。しかし、それがすべて失われてしまった。私は会社を倒産させ、この山荘だけが残った財産です」


「それなら、なぜ田中さんを同窓会に招いたのですか?」


「復讐…のつもりでした。しかし、いざ顔を合わせると、昔の友情が蘇り、実行できませんでした。田中も最近のトラブルで苦しんでいましたし」


神谷は首を振った。「しかし、田中さんはこの契約書を見つけて、あなたが被害者だったことを知った。そして『すべて解決する』と言った。これは何を意味するのでしょうか?」


## 第八章 真実の推理


神谷は全員を応接室に集めた。雪は相変わらず降り続いており、館は完全に外部から遮断されていた。


「皆さん、田中良雄さんの死について、真相をお話しします」


一同は緊張した面持ちで神谷を見つめた。


「まず、この事件は密室殺人ではありません。確かに部屋は内側から鍵がかけられていましたが、犯人は別の方法で脱出しました」


神谷は窓の外を指した。


「凶器となった美術書は、暖炉の煙突から外に投げ捨てられていました。煙突は細いですが、本一冊を通すことは可能です」


桐山が口を開いた。「しかし、それでも犯人はどうやって部屋から出たのですか?」


「犯人は部屋から出る必要がありませんでした。なぜなら、犯人は最初から部屋にいなかったからです」


一同は困惑した表情を見せた。


「田中さんは午後九時に一度書斎に入り、三十分後に戻ってきました。その時、彼は桐山さんの投資契約書を発見していた。そして『すべて解決する』と言って、再び書斎に向かった」


神谷は山田を見つめた。


「山田さん、あなたは医師として、田中さんの苦悩を知っていましたね。投資詐欺の件で、彼が自殺を考えていることも」


山田は黙っていた。


「田中さんは二度目に書斎に入った後、桐山さんに電話をかけました。契約書を見つけたこと、そして自分の死後、桐山さんに保険金を譲ることで、損失を補償したいと申し出た。これが『すべて解決する』という言葉の意味でした」


## 第九章 医師の判断


神谷は続けた。


「田中さんは自殺を決意していましたが、一つだけ問題がありました。保険金は自殺では支払われません。そこで、他殺に見せかける必要があったのです」


山田が立ち上がった。「何を言っているのですか?」


「山田さん、あなたは医師として、田中さんの相談を受けていた。彼は自分を殺してくれるよう、あなたに頼んだのではありませんか?」


「そんな…」


「田中さんは書斎から桐山さんに電話した後、今度はあなたに電話をかけました。そして最後の頼みとして、自分を楽に死なせてほしいと頼んだ。医師としてのあなたに」


山田は崩れるように椅子に座った。


「彼は…あまりにも苦しんでいました。投資詐欺の件で、多くの人に迷惑をかけた。家族にも顔向けできない。でも、自殺では保険金が出ない。せめて桐山君には補償したいと…」


「それで、あなたは彼の頼みを聞き入れた」


「医師として、患者の苦痛を取り除くのが使命です。でも、これは…」山田は顔を覆った。


「あなたは深夜、書斎を訪れました。田中さんは内側から鍵をかけ、あなたを待っていた。そして、あなたは彼の頼み通り、後ろから一撃で楽に逝かせてあげた」


## 第十章 完全犯罪の終焉


「しかし、問題は脱出方法でした。田中さんは他殺に見せかけたかったが、あなたを巻き込みたくなかった。そこで考えたのが、密室トリックです」


神谷は暖炉を指した。


「凶器となった美術書は、煙突から外に投げ捨てる。これで凶器が消える。そして、あなたは…」


神谷は天井を見上げた。


「この書斎の天井には、点検用の小さなハッチがあります。そこから屋根裏に上り、別の部屋に移動して脱出する計画だった」


一同は天井を見上げた。確かに、目立たない場所に小さなハッチがある。


「しかし、計画には誤算がありました。雪の重みで屋根の一部が変形し、ハッチが開かなくなっていたのです」


山田は観念したように頷いた。


「そうです。ハッチが開かず、パニックになりました。どうやって部屋から出るか…」


「そこで、あなたは別のトリックを使った。医師としての知識を活用して」


神谷は山田の医療鞄を指した。


「あなたは筋弛緩剤を持参していました。田中さんを安楽死させるつもりでしたが、結局は彼の希望で鈍器を使った。しかし、筋弛緩剤は別の用途に使われました」


「何のために?」


「自分自身に注射して、一時的に仮死状態になったのです。少量の筋弛緩剤と呼吸抑制剤を組み合わせることで、数時間の仮死状態を作り出すことができる。医師なら可能な技術です」


山田は完全に観念した。


「田中君を…楽にしてあげた後、私は自分に薬を注射しました。そして田中君の隣で倒れていた。翌朝、桐山君が部屋を開けたとき、私も一緒に『発見』される予定でした。二人とも被害者として」


## 第十一章 雪解けの真実


「しかし、計画は完璧ではありませんでした」神谷は続けた。「薬の効果が予想より早く切れ、あなたは朝まで待てなかった。そして、こっそりと書斎から出て、自分の部屋に戻った」


「そうです…意識が戻ったとき、まだ夜中でした。このまま朝まで待つのは危険だと判断し、部屋から出ました」


桐山が震え声で尋ねた。「では、田中は本当に自殺を望んでいたのですか?」


山田は頷いた。「彼は最後まで、皆さんのことを心配していました。特に桐山君には、投資で損失を与えてしまったことを深く後悔していた。せめて保険金で補償したいと…」


鈴木が涙声で言った。「田中君…そこまで思い詰めていたなんて」


「彼は最期に、皆さんへの謝罪の手紙を書いていました」山田は内ポケットから封筒を取り出した。「これを渡すよう頼まれていました」


手紙には、田中の率直な謝罪と、友人たちへの感謝の気持ちが綴られていた。特に桐山には、保険金による補償の意図が明記されていた。


## 第十二章 友情の重み


神谷は立ち上がった。「山田さん、あなたの気持ちは理解できます。友人の苦痛を見ているのは辛かったでしょう。しかし、法的には殺人罪に問われることになります」


山田は深くうなずいた。「分かっています。覚悟はできていました。ただ、田中君の最後の願いを叶えてあげたかった」


桐山が立ち上がった。「山田君、私は田中君の保険金は受け取れません。彼の家族に渡すべきです」


「でも、桐山君の損失は…」


「それは私の責任です。田中君に託したのは私の判断でした」


鈴木も頷いた。「私も同じです。友人を失うことに比べれば、お金など些細なことです」


外では雪が止み始めていた。長い冬の夜が明けようとしている。


神谷は窓の外を見ながら言った。「友情とは複雑なものですね。愛情が深いほど、時として過ちを犯してしまう」


山田は静かに答えた。「田中君を楽にしてあげられたことに、後悔はありません。ただ、このような形で皆さんに迷惑をかけてしまったことは、申し訳なく思います」


## 終章 春への道


三日後、雪かきされた道路を通って警察が到着した。山田は素直に自首し、事件の真相を証言した。田中の死は、友情に基づく安楽死という複雑な事件として記録されることになった。


神谷は東京に戻る前に、白樺荘を最後に見上げた。雪に覆われた館は、静かに春を待っているようだった。


桐山は玄関で神谷を見送った。「神谷さん、ありがとうございました。真実を知ることができて良かったです」


「桐山さん、田中さんは最後まで友人思いの人でした。それを忘れないでください」


神谷の車が山道を下っていくと、白樺荘は雪の中に静かに佇んでいた。春が来れば、また新しい季節が始まる。友情の記憶と共に。


事件は終わった。しかし、人の心に残る想いは、雪解けと共に新たな形で芽吹いていくのだろう。神谷はそう思いながら、東京へと向かう道を走り続けた。


完全犯罪を目指した二人の男。しかし、真の完全犯罪とは、誰も傷つけることなく、すべてを解決することなのかもしれない。それは不可能に近い理想だが、人間は常にその理想を追い求めている。


白樺荘の事件は、友情の光と影を映し出した鏡だった。真実は時として残酷だが、それでも知る必要がある。なぜなら、真実の中にこそ、本当の友情が隠されているからだ。


雪は止み、空に青い色が戻ってきた。新しい季節の始まりを告げるように。


(了)

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