3 嘘をつくのはやめてほしいのですが?
「ふぃー……食った食った……」
テーブルには豪華な料理の皿がずらりと並び、すでにその多くが空になっていた。肉、スープ、パン、名前の知らん野菜のグリル。
(全部うまかった。異世界なのに飯が美味いって、かなりポイント高い。)
「ご満足いただけたようで、何よりです」
横で控えていたセバスチャンが静かに微笑む。
「これ毎日出てくんの? だったらここ住んでもいいな~」
「それはご覚悟次第でございます。勇者殿」
「うっ……」
とたんに中山健二の言葉が詰まる。
(――そうだった。俺は“勇者”なんだ。聖剣が出ちゃったせいで。あれのせいで)
(ほんとなんで俺に来たんだよ……高校生3人の誰かに行けよ、空気読めよ、剣)
コン、コン、と控えめなノック音。
「失礼いたします。王女殿下がお見えです」
「……え?」
ドアが開かれ、現れたのは――
月のように白いドレスをまとい、琥珀色の髪を編み込んだ、気品あふれる美少女。
整った顔立ちに、凛とした目元、そして大きな胸。まさに“お姫様”って感じの少女が、静かに頭を下げる。
「はじめまして。わたくし、セシリア=パフパフ=サービス。
この王国、サービス王国の第一王女です」
「これはこれは、王女様、初めまして、中山健二です」
中山健二は礼儀正しく頭を下げながら挨拶をする。
(パフパフ?サービス?ぱふぱふしてくれんのか?)
頭の中でそんなことを考えて、必死におっぱいを見まいと目を逸らした。
女はおっぱいへの視線に敏感だと思ってるこの30歳ニートは、決しておっぱいを見ない事にしているのだ。実に紳士的だ。さすが童貞である。
(それにしてもこの国、サービス王国って……飯が美味いのも納得だ)
サービス満点王国である。
「勇者様にご挨拶を申し上げたく、参りました。本来であれば、召喚直後にお目通りすべきでしたが、日中は……その、深いお眠りだったと伺っております」
「申し訳ありません。夜の仕事していたため、昼間は就寝してしまいました。」
中山健二、無職なのを隠しやがった。
「そうでしたか。えっと、ナカヤマケンジ、様は、どのようなお仕事をなされていたのでしょう?」
セシリア王女はたどたどしく中山健二の名前を呼んで、ナイスな質問をする。
さて、30歳ニートはどう答えるだろう。
「えっとですね……その、フリーランスで……夜間にデータを……こう、まとめたり、分析したり……?」
視線を彷徨わせながら、必死に嘘の仕事内容を述べる30歳ニート。
「ふりー、らんす?でーた?申し訳ありません。あまり、聞き馴染みのない言葉でして……」
申し訳なさそうにするセシリア王女を見て、嘘がバレてないことにほっとする30歳ニート。
だがしかし、ベテラン老執事のセバスチャンと王女の従者は挙動不審になった様子を見逃さなかった。が、従者のために口を挟むようなことはできない。
二人が中山健二を睨みつけると、その視線に気づく。
(やっべ、嘘バレてそう。ここは正直に言った方がいいか?嘘をつき続けるとか苦手なんだよなぁ)
冷汗だらだらでどうするか目を回す。
最初から嘘をつかなければいい話である。
「申し訳ございません!嘘つきましたあぁ!!何の仕事もしていないニートですぅぅぅ!!!!」
潔く、土下座をした。見事な謝罪に見直したぞ。後は働くだけだ中山健二
「へっ?」
セシリア王女は、突然の土下座に面食らった。
まさか王族相手に嘘をついて、そしてそれをいきなり謝罪をしたのだ。セシリア王女には意味不明である。
「頭をあげてください。勇者様。えっと、とりあえず、嘘をつくのはやめてほしいのですが……」