1 戦いたくないんですが?
思いついたので書いてみた
その日も、俺はいつものようにベッドの上でゴロゴロしながら、スマホで適当にネットを眺めていた。
SNS、まとめサイト、動画サイト、通販、ニュース。見たいわけでもないのに、ただ延々とスクロールして時間だけが過ぎていく。
時間は午前10時すぎ。世間的には朝と昼の間でお仕事の真っ只中だろう。俺的にはもうそろそろ寝る時間だ。
(……はぁ。今日も無為に一日が終わった)
眠気もやる気もないまま、ホーム画面に戻ろうと親指を滑らせた、その瞬間だった。
スマホの画面が突然、真っ白に光った。
「――っ!?」
光が、画面からではなく部屋全体からあふれ出してくる。
眩しさに目を覆う間もなく、意識がぐらりと傾いた。
身体が床から浮き上がったような感覚。視界は真っ白で、耳鳴りがして、現実感がどんどん薄れていく。
そして――落ちた。
ドン、と背中に衝撃。気づけば俺は、冷たい石の床に投げ出されていた。
起き上がって、あたりを見回す。
天井が高く、壁は蒼と金を基調にした豪奢な装飾。神殿か宮殿のような空間。ステンドグラス越しの光が神々しく差し込む中、目の前には――
王冠をかぶった髭のおっさんが、玉座に座っていた。
目の端で、制服姿の高校生くらいの若者が三人、同じように床に座り込んでいるのが見えた。
俺以外にも、誰かが“ここ”に連れてこられたらしい。
「…は?」
この状況、そしてこの見慣れぬ風景、床の魔法陣、まさかこれは…
と、王が立ち上がり、両手を広げて声を張り上げた。
「おおっ!?……勇者たちよ!よくぞ参られた!」
(今、“勇者たち”って言ったよな? 俺もその中に入ってるのか? 異世界転移? いや待て、俺、三十路のニートだぞ? なんで俺? 人生詰んでる側だぞ!?)
ざわついた空気の中で、王が重々しく言った。
「……魔法大臣よ。四人もいるが、四人とも勇者なのか?」
(4って不吉だよなー。これ、あれだわ、絶対俺が巻き込まれちまった系だろ!)
呼ばれたローブ姿の男――魔法大臣が、一歩前に出て恭しく頭を下げた。
「……いえ、陛下。これは私にとっても予想外の結果でございます。ただ、勇者であれば“聖剣召喚”ができるはず――それが真偽を確かめる最も確実な手段です」
「なるほど……そうであったな!」
王は満足げに頷くと、咳払いして声を張り上げた。
「ごほん。ではまず、四人の名を聞こうか!」
(……“聖剣召喚”ねー?いやいやいやいや、さすがに俺がそんなもん召喚できるわけないよな!頼むぞ!!ほんと!!絶対戦いとか嫌だからな!!)
隣では、三人の高校生がちょっとワクワクしたような目をしている。
周りの貴族からあきらかに俺に好意的な目で見られていない。
……おい、やめろ。俺にそんな目を向けるな。こっちは胃が痛いんだよ。
「黒髪のそこの君から!」
王の声に促され、最初の黒髪の少年が立ち上がる。
「佐藤雄一、十七歳。高校二年生です!」
(とても素晴らしい名前だ!平凡な見た目が純朴そうで、名前には勇者の”ユウ”に一番の”イチ”だ!とても勇者らしい!彼が勇者だ!!漢字合ってるか知らんけど)
「ふむ、よろしい」
続いて、少し恥ずかしそうに美少女が顔を上げた。
「結城花梨、同じく十七歳。よろしくお願いします」
(勇気!そして美少女JK!!これは勇者にすべきだ!!)
「元気があってよろしい」
三番目は赤髪の陽キャ系少年。
「城ヶ崎ハル! 運動は任せてくれ!」
(なんという明るさ!たくましい!!勇者に相応しいのは彼だ!!)
「うむ、頼もしい」
そして、俺の番だ。
(……はぁ、来ちまった。自己紹介とか、嫌だなぁ……)
「タナカシンジと申します。三十歳です。以後お見知りおきを」
(ニートはさすがに伏せとこ)
膝を着き頭を下げて礼儀正しく自己紹介をしたことに、感心の空気が漂う。が
「む?貴様!虚偽を着いたな!王の御膳でなんたる無礼か!!」
周囲がざわつく。
(やっべ、バレた!)
「申し訳ありません。偽名が悪いことだと知りませんでしたので」
(これは嘘じゃないぞ!こっちの世界の法律なんて知らんからな!)
「はぁ…前の三人は偽らずに名を名乗った。お主も名乗れ」
王は呆れたように促した。
「ナカヤマケンジデス。以後お見知りおきを」
諦め悪く、早口で名乗る30歳ニート
(こっちのルールもわからんのに真名である本名を名乗りたくないの解かれよな!!)
無理である。
「…もうよい。魔法大臣、準備を」「はっ」
魔法大臣が儀式の準備を促した。
「では、聖剣召喚の儀式に移ろう。勇者たる証を示すがよい!」
三人の高校生が順番に剣を召喚しようと試みるも、なかなかうまくいかない。
それには本人たちはもちろん、周囲も困惑、そして残った俺を見て、更に困惑してる。
(うそだろ?なんで誰もできないんだよ!!え?俺が??は???…そんなわけないよな!絶対何かの不調に違いない!!)
俺が空に手をかざして「せい…けん……しょう…かん」やる気なーく唱えた。
(来るな来るな来るな来るな来るな来るなあああああ)
「シャキーンッ!」
まるでドラマのように輝く剣が俺の手に現れた。
「なんで俺に来んねん!!」
…エセ関西弁でノリツッコミを入れてしまった。周囲は驚き、三人の高校生に睨まれた。
(戦いたくないんだが?)