父の日のお買い物
「父の日のプレゼントを買わない?」
義兄さんからこう提案されて私はドキン!とした。
確かに母の日は私主導で盛大にお祝いしたけど……
お父さんにお祝いしてもなあ~
でも義兄さんにしてみれば『自分の母がお祝いしてもらったのだから』と言う思いなのだろう。
『義兄さんからのプレゼントなんて!!私が貰ってみたい!!!』
お父さんにまで嫉妬してしまう私の恋の病は斯くも重症なのだけど……私は無理に笑顔を作った。
「そうだね!一緒に見に行こうよ!」
せめて、このイベントを“お買い物デート”にしてしまうのが得策なのだ!
◇◇◇◇◇◇
「甚平なんかもこれからに季節には良いよね」なんて言う義兄を見て「義兄さんが着た方が絶対カッコいい!」と妄想する私は……義兄と目が合って思わず俯いてしまう。
「ダメかな?」
「ううん!絶対似合うと思う!!」
『義兄さんが』って言葉は心の内に納めて、私はだいぶ伸びて来た髪の襟足を掻き上げる。
「ありがと!父さんの為に! 私が4千円出すのでいい?」
「それじゃ奏の方が出し過ぎだよ」
「私が3千円でいいの?」
「いいよ。お釣りはオレが貰うから」
「そっか……じゃあさ!お礼にあのキャップ買ってあげる!」
指差した先には……私がいいなと思っていたキャップが色違いで展示されている。
「あれはお礼には高過ぎるよ」
「いいの!私、まだ髪が伸び掛けじゃん! みっともないから隠す為のキャップが欲しいって思ってたんだ!義兄さんがお揃いで被ってくれたら『チーム』みたいでいいかなって!」
「じゃあ、奏の分はオレが買うよ!“バイト長者”なのは奏だけじゃないんだから」
『奏』って呼ばれるだけでドキン!とするのに“お揃”をプレゼントしてくれるなんて!!
それだけで耳を疑い心乱れるのに……
「せっかくだから奏の奢りで……フードコートで何か飲もうか?」なんて話になり……
私達は“お揃”のキャップで向かい合わせの……どう見ても恋人同士の体で……午後のひとときを楽しみ、大切な思い出をまた一つ増やした。
おしまい
このお話は 拙作「義兄のいる風景」 https://ncode.syosetu.com/n4287jp/
のスピンオフです。
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