第4話「次なる挑戦」
ゴブリン討伐を終え、銀貨30枚という報酬を手にした順一は、ギルドの酒場で仲間のガルドとリナと共にささやかな祝杯を上げていた。リナが明るく笑いながらジョッキを掲げる。
「今回の討伐、大成功だったね! 順一のおかげで助かったよ!」
「そうか? 初心者なりに頑張っただけだけどな」
順一は照れくさそうに笑いながら、ジョッキの中の異世界特有のフルーティな飲み物を一口飲む。ガルドが真面目な表情で話に加わる。
「順一、お前の動きは確かに新人離れしていた。初めてだとは思えないくらいだ!これからも一緒にパーティーを組もうぜ!」
順一は内心ドキリとした。スキル「万能適応」の存在は誰にも明かしていない。身体が自然と動いたのは完全にスキルのおかげだが、それを説明すれば彼の能力が異常だと疑われるかもしれない。ただ慣れない世界で仲間ができるのは願ったり叶ったりだ。
「まぁ、なんとかやれたのは、二人が頼りになるおかげだよ。でもパーティーはこちらも願ったりだ!これからもよろしく!」
順一は軽く話を流し、リナが満足そうに笑顔を浮かべるのを見て安心した。
ギルドの掲示板の前で、順一たちは次のクエストを選んでいた。今回は報酬が少し高めの依頼を選びたいというのが三人の共通の意見だ。
「これはどうだ?」
ガルドが指差したのは、森に出現した巨大なイノシシ型魔獣「グランボア」の討伐依頼だった。
『巨大魔獣グランボア討伐』
推奨人数:3名以上
報酬:銀貨50枚
リナがその依頼を見て目を輝かせる。
「グランボア! 魔力のコアが取れるって聞いたことがあるよ! それを売ればもっと稼げるかも!」
「コア……か」
順一は未知の単語に少し戸惑ったが、リナのテンションにつられて頷いた。ガルドは腕を組みながら慎重に続ける。
「だがグランボアは危険だ。一撃でひねり潰されることもある。慎重に動かないと全滅もありえる」
その言葉に一瞬緊張が走るが、順一は覚悟を決めた。
「……やろう。銀貨50枚なら、かなりの額だ」
「よし、決まりだな」
こうして三人はグランボア討伐に挑むことになった。
指定された森の奥深くに進むと、巨大な足跡と木々が折れた跡が見つかった。それがグランボアの通った道だと分かる。
「……本当にデカいんだな」
順一が足跡を見て呟く。リナが緊張した表情で続ける。
「この先にいるみたいだね。準備しておこう」
ガルドが作戦を説明する。
「俺が前衛でグランボアの注意を引く。リナ、お前は魔法で後方支援だ。順一、お前は俺とリナの間に入って補助に回れ」
「了解」
順一は剣を握りしめながら深呼吸をした。スキル「万能適応」はあるが、それに頼りすぎるわけにはいかない。初めて挑む大型モンスターに対して、自分の限界を超えた動きを見せてしまえば不自然だと疑われるだろう。
「絶対に、普通の冒険者らしく動かないと……」
森の奥でついにグランボアを発見した。体長は約3メートル、鋭い牙と硬い外皮を持つその姿は威圧感に満ちていた。
「行くぞ!」
ガルドが盾を構えて突撃し、グランボアの攻撃を受け流す。リナが後方から炎魔法を放つ。
「ファイアボール!」
しかし、魔法がグランボアの外皮に当たるも、少し焦げる程度で大きなダメージにはならない。順一は攻撃のタイミングを見計らいながら、剣を構えて動き回る。
「スキルの力を使えば簡単に動ける……でも、それを見せるわけにはいかない!」
順一はスキルを全力で抑えながら動く。普段の自分の能力だけでギリギリ対応し、あえてぎこちない動きを見せることで、初心者らしさを装った。
「くそっ、硬いな!」
順一が剣で攻撃するも、グランボアの外皮に弾かれる。だが、その間にガルドが敵の側面に回り込む。
「今だ! リナ、もう一発行け!」
「分かった!」
リナが魔法を最大出力で放つ。
「フレイムバースト!」
爆風と共に放たれた炎がグランボアの横腹を直撃。硬い外皮が割れ、ようやく大きなダメージを与えることができた。
「やった!」
喜ぶリナを横目に、順一は剣を握り直す。そして、グランボアの動きが鈍った瞬間を見逃さず、最後の一撃を繰り出した。
「これで終わりだ!」
剣が急所を貫き、グランボアが地面に崩れ落ちる。順一は大きく息をついた。
「ふぅ……何とか勝てたな」
ガルドが盾を地面に置き、額の汗をぬぐう。リナは満面の笑みを浮かべながら、グランボアの死体から魔力のコアを取り出していた。
「見て! これ、すっごく綺麗だね!」
リナが誇らしげに見せる魔力のコアは、青白く輝く宝石のようだった。それを見た順一は、初めて大型モンスターを倒した実感が湧いてきた。
「報酬も手に入るし、このコアを売ればもっと稼げるな」
ガルドも満足げに頷く。
「お前、やるじゃないか。初心者にしては上出来だ」
「いや、二人のおかげだよ」
順一は笑顔で答えたが、内心ではスキルの存在を隠し続ける難しさを感じていた。
「万能適応のおかげで勝てた。でも、これを知られたら……」
仲間に疑われることを恐れ、順一は改めてスキルの秘密を守る決意を固めた。
三人は報酬を手に街へ戻る途中、順一の容姿が通行人の目を引いていることに気付いた。すれ違う女性たちがちらりと視線を送るのだ。
「……何か見られてないか?」
「いや、そりゃ見られるだろ。お前、変にイケメンだからな」
ガルドが冗談交じりに言い、リナが頷く。
「本当に王子様みたいだもん。これ、みんなが振り返るのも当然だよ!」
容姿に7割振ったステータスが、順一の存在感を自然と引き立てているようだった。それが彼にとって好都合でもあり、少しだけ居心地の悪さも感じさせた。
「……普通に目立たず生きたいだけなんだけどな」
順一は苦笑いを浮かべながら、次のクエストに思いを馳せた。