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第37話「影朧を握る時、思い出す初心」

ギルド公式戦の決勝で敗れた翌日。


順一は新しい刀を探すために、リナと一緒に鍛冶屋へ向かっていた。


「うーん……やっぱり、また武器を買いに行くのって、なんか最初の頃を思い出すね」


リナが軽く笑いながら言う。


「そうだな……最初に霧霞を買ったのも、こうしてお前と一緒だったっけな」


順一も懐かしそうに頷く。


あの頃は、ただの駆け出し冒険者だった。右も左も分からず、リナに案内されるままに鍛冶屋へ行き、武器を手に入れた。


それが今、剣聖と戦うまでになったのだから、時の流れは不思議なものだ。


「でも……霧霞、折れちゃったんだよね」


リナが少し寂しそうに呟く。


「ああ……限界を超えちまった」


順一は腰の鞘を軽く叩いた。そこにあるのは、鞘だけになった霧霞の残骸。


「新しい刀を手に入れねぇとな」


「そうだね!」


そう言いながら、二人は目的の鍛冶屋へと足を踏み入れた。


「おお、客かと思ったら……なんだ、お前さんか」


無骨な風貌の男が店の奥から姿を現した。


鋼炎鍛冶工房の主、ガルザン。


「……なるほど、刀が折れちまったか」


順一が折れた霧霞の刀身を差し出すと、ガルザンはじっくりとそれを見つめた。


「これは……魔力の過剰負荷だな」


「やっぱりか……」


ガルザンは鼻を鳴らし、折れた刃を机に置いた。


「霧霞は確かにいい刀だ。だが、元々は普通の刀だ。魔法剣として使うには耐久性が足りねぇ」


「じゃあ、どうすればいい?」


順一の問いに、ガルザンは腕を組みながら答える。


「お前さんのような戦い方をするなら、特注の刀を作るしかないな」


「特注……?」


「魔法剣としての負荷に耐えられるように、特別な金属を使った刀だ。だが、普通の金属じゃダメだ。魔力に適応し、強度も圧倒的なものが必要になる」


「そんな都合のいい金属があるのか?」


「あるとも――オリハルコンだ」


「オリハルコン……」


順一はその名前を聞いたことがあった。


「それって、めちゃくちゃ希少なやつだろ?」


「ああ。オリハルコンはこの世界で最も頑丈な金属だ。しかも、魔力を蓄え、放出する特性を持つ」


「つまり、魔法剣向きってことか?」


「その通りだ。ただし、普通の金属とは比べ物にならないくらいの加工難易度だ。扱える鍛冶職人は限られるし、素材自体が滅多に手に入らねぇ」


「そりゃまた厄介だな……」


順一は頭を掻いた。


「でも、手に入れば、お前さん専用の最高の刀を打ってやるよ」


ガルザンは自信たっぷりに言う。


「お前の戦い方に合わせて、耐久力も斬れ味も最適なものをな」


順一は頷いた。


(つまり、今の俺にはオリハルコンが必要ってことか……)


しかし、すぐに手に入るようなものではない。


「じゃあ、それまではどうする?」


「今すぐに戦えないってのは困るだろう。だから、とりあえず霧霞と同等の刀を用意する」


ガルザンは工房の奥から、一振りの刀を持ってきた。


「こいつは《影朧かげろう》っていう名の刀だ。霧霞と同じ技法で鍛えられた、鋭い刃を持つ一品だ。お前の戦い方なら、これでしばらくは十分だろう」


順一はその刀を手に取り、軽く振る。


(……なるほど。霧霞と似た手応えだ)


刃は美しく輝き、鞘に収めた時の収まりも違和感がない。


「ただし、これはあくまで仮の武器だ。オリハルコンの刀ができたら、こいつは用済みになる」


「それはまぁ、仕方ねぇな」


順一は納得し、《影朧》を購入することにした。


工房を後にし、順一は新しい刀《影朧》を腰に収めた。


「……オリハルコンを手に入れる」


「言っておくが、簡単にはいかねぇぞ」


ガルザンは釘を刺すように言う。


「オリハルコンは、一般的な採掘場にはない。迷宮の深部、ドラゴンの巣、あるいは魔王の遺跡……そんな場所にしか存在しねぇ」


「やっぱり、そうなるか」


順一は苦笑した。


「まぁ、すぐには見つからねぇだろう。だが、どこかで手に入れたら、お前のためだけの剣を打ってやる」


ガルザンは順一の肩を叩いた。


「楽しみにしてるぜ、魔法剣士」


リナは順一の隣で微笑みながら言った。


「なんか、また初心に戻ったみたいだね」


「そうだな……」


順一は影朧の柄を握りしめた。


(今は仮の武器だけど、戦えないわけじゃない)


(オリハルコンを手に入れたら、俺はさらに強くなる……!)


新たな目標を胸に、順一は再び冒険の道を歩み始めるのだった――。

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