第3話「初めての冒険仲間」
スライム討伐を終えた順一は、ギルドの宿に戻り、一息ついていた。狭い部屋ながらも清潔感があり、異世界初心者にとっては十分すぎる環境だった。窓の外には石畳の街並みと行き交う人々の賑やかな声が広がっている。
「ふぅ……ようやく落ち着けた」
ベッドに倒れ込みながら、順一はスライム討伐で使った筋肉の疲労を感じていた。しかしそれ以上に、「万能適応」のスキルのおかげで初仕事を成功させたという達成感が彼の胸にあった。
「でも、銀貨5枚じゃ全然足りないんだよなぁ……」
銀貨を手のひらで転がしながらため息をつく。これでは生活費で消えてしまい、とてもコンカフェに通う余裕などない。
「もっと稼がなきゃ……推しに会えない」
彼がつぶやいた瞬間、ギルドからの使者が彼を訪ねてきた。
「高山順一さんですね?」
訪れたのはギルドの受付嬢、金髪のショートカットが似合う活発な雰囲気の女性だった。彼女は微笑みながら、順一に話しかける。
「特別な依頼をご紹介したいと思いまして」
「特別な依頼?」
順一は思わず身を乗り出した。受付嬢が手渡してきた依頼書には、こう書かれていた。
『近隣の洞窟に出現したゴブリン群討伐』
推奨人数:3名以上
報酬:銀貨30枚(成功時)
「なるほど……スライムより手ごわい敵か」
ゴブリンは初心者が挑むには危険な相手だ。しかし、報酬が銀貨30枚と聞いて彼の心は揺れた。
「……わかった。引き受けるよ。ただ、一人じゃ無理そうだな」
受付嬢は満足そうに微笑み、情報を追加する。
「他にもこの依頼に興味を持っている方がいます。チームを組むのはいかがでしょう?」
ギルド内の酒場は、まさに異世界の冒険者たちが集う場所だった。にぎやかな声と酒の匂いが漂い、剣や魔法具を携えた冒険者たちが次の仕事について語り合っている。
受付嬢が案内した先には、二人の冒険者が座っていた。ひときわ目を引くのは、長身で鋭い目つきをした男性と、小柄で明るい雰囲気の少女だった。
「お前が新入りか?」
低く落ち着いた声で話しかけてきたのは、長身の男性だ。彼はガルドと名乗り、剣術に長けた中堅冒険者らしい。一方、小柄な少女は明るく笑いながら自己紹介を始めた。
「私はリナ! 魔法が得意なんだ! 一緒に頑張ろうね!」
リナは炎魔法を得意とする魔法使いで、その幼さからは想像もできないほどの実力を持つという。二人とも、初心者の順一に対して興味を持った様子だったが――。
「……えっと、俺は高山順一。異世界から来たばかりの初心者だけど……よろしく頼む」
そう名乗ると、ガルドは順一をじっと見つめた。
「お前、何だその顔……やけに整いすぎてないか?」
「そ、そう? 別に普通だろ」
順一が焦って笑うと、リナが目を輝かせて口を挟んだ。
「本当だ! なんか、王子様みたい! それに髪のツヤもすごい……すっごい近寄りがたい雰囲気っていうか……」
容姿に振ったステータスポイントがここで威力を発揮したのだ。二人とも、初対面の順一に強烈な印象を受けているようだった。
「いやいや、ただの冒険者だって」
必死で取り繕おうとする順一だったが、リナの目はキラキラと輝き続けている。
「ねぇねぇ、後で髪のケア方法教えてくれない? 私もそんなサラサラになりたい!」
「おいリナ、仕事の話をしろ」
ガルドが呆れたように止めるが、順一の外見はすでに彼らに強烈な印象を与えていた。
「まぁ、見た目は良いとして……お前、ちゃんと戦えるのか?」
ガルドが真剣な表情で尋ねる。
「まぁ、なんとかなると思う」
その言葉に、ガルドは少し驚いた様子を見せた。
「それなら実力を本番で見せてもらうとするか」
こうして、順一は初めての冒険仲間を得ることとなった。
翌朝、三人はゴブリン討伐のために近隣の洞窟へ向かった。洞窟の入り口は薄暗く、湿った空気が漂う。足音を立てないよう慎重に進むと、やがて奥にゴブリンの群れが見えた。
「よし、行くぞ。俺が前衛、リナは後衛で魔法を頼む。順一は中衛でサポートに回れ」
ガルドが的確な指示を出し、三人はゴブリンの群れに挑む。
「ファイアボール!」
リナが放った火球が洞窟内を照らし、ゴブリンの群れに直撃する。一方、ガルドは盾で敵の攻撃を受け止めながら、鋭い剣の一撃で反撃する。
順一は「万能適応」のスキルのおかげで、敵の動きを直感的に読み取り、剣を振るうタイミングを掴んでいた。
「うおっ……やっぱ勝手に体が動く!」
自分でも驚くほどスムーズに敵を捌く順一。その姿を見たリナが興奮した声を上げた。
「順一すごい! かっこいい!」
「お前、本当に初心者か?」
ガルドも思わず感心していた。スキルと容姿が相まって、順一は一気にチームの中心的存在になりつつあった。
ゴブリン討伐を無事に終えた三人は、戦利品を手にギルドへ戻った。受付嬢が笑顔で迎えてくれる。
「お疲れ様でした! 無事に討伐できたようですね」
「まぁな。この新入りも頑張ってくれた」
ガルドが順一の肩を叩き、リナも笑顔で言葉を添える。
「順一、すごかったよ! あの動き、私もびっくりした!」
「そ、そうか? (まぁ、スキルのおかげだけどな……)」
恥ずかしそうに笑う順一。その姿は、仲間たちの中で確実に信頼を得始めていた。
獲得報酬:銀貨30枚
報酬を手にした順一は、心の中で小さなガッツポーズを取った。
「よし……この調子で稼いで、絶対に推しに会いに行くぞ!」
仲間と共に成長しながら、順一の冒険者生活はさらに加速していくのだった。