#40
イザベラがアルベール様に判断を委ねると。彼は、ゆっくりと立ち上がり、イザベラとルイーズの間へと歩いてくる。
「……少なくとも、現状出揃っている情報を並べて見る限りでは、私個人としてはイザベラの発言に分がある、と。そう思うのだが」
アルベール様は、ルイーズに向けて、そう声をかける。
すなわち、先程イザベラに対して弁明の機会を与えたように。今度は、ルイーズに対して反論がないのか、を確認しているのだ。
「私も、同意見であり。これ以上のことは、なにもありません」
「……そうか」
アルベール様は、ルイーズに対して、どこか悲しそうな表情を浮かべながらに。断罪の言葉を放とうとする。
そして、当のルイーズはというと。その言葉を、素直に受け取ろうとしていて。しかしながら、どこか安堵したような。そんな、表情を浮かべている彼女。
それを見た、イザベラは。
「いつまで、そこにいるんですか」
この場にいる、誰でもない人物に向けて。
そう、言い放つ。
イザベラの発言に、アルベール様もルイーズも、思わず顔を上げる。
「ルイーズ。あなたと私は、ずっと、同じことを疑問に思い続けていたんではないでしょうか」
先程までのルイーズの、苦しそうな表情。そして、つい先刻の彼女が浮かべた、救われたような表情。
それらを見て。推測は、確信へと変貌した。
「私も、ずっと、違和感を覚えていたんです。ルイーズが、果たしてそんなことをするんだろうかって」
それは、おそらくこの場にいる全員の共通認識。
イザベラはもちろん、マリエルやミシェルも同じく考えていたことだし。なんなら、アルベール様も同様に考えていたからこそ、先程の彼はその表情に複雑な感情を浮かべていたのだ。
そして、それは、ルイーズも同様。イザベラが、そんな不正など行うはずがない、と。そう確信していた。
けれど、出てくるのはイザベラが不正をしているであろう証拠ばかり。
それらの証拠を前にしてしまえば。どれほど見たくはても、疑いたくはなかったとしても。信じるしかなくなってしまって。
だからこそ、だろう。
この隠しサロンにイザベラとアルベール様のみを呼び出して、ここでイザベラに対して自供を促した、というのも。これらの不祥事が公になることなく、内々に処理を終わらせるため、でもあったのだろうし。
同時に、彼女がずっと苦しそうな表情をしていたことも。それらが、先刻。解き放たれたかのように、安心した表情に移り変わったことも。
「つまり、イザベラ。君はこう言いたいのか? 今回の事件、ルイーズに対して、偽の情報を与え続け、恣意的な誘導を行った人物がいる、と」
「ええ、そのとおりです。……ですよね? セルザさん」
「――ッ!」
動揺、当時、息を呑む声が聞こえる。
「いつまで、そこにいるのか。隠れているつもりなのか、と。私は先程、警告したはずですが」
サッ、と。イザベラが手を挙げると。ほぼ同時、サーシャが動く。
サーシャが動いたことにより観念したのか。ドアの向こう側から、自発的にセルザが入室をしてくる。
「この後に及んで、保身をするつもりだったのでしょうか? 貴女の主人が、問われるべきではない罪で裁かれようとしていたというのに」
「そんなことは――」
「なら、なぜすぐに出てこなかったのですか! ルイーズの分が悪いと感じたのならば、出てきて、貴女が代わりに弁明することもできたでしょう!」
イザベラの剣幕に、セルザが怯む。
バタバタ、と後ずさり、思わず尻もちをついてしまった彼女の前にイザベラは仁王立ちで立ちはだかる。
友人を。ルイーズを、虚仮にされたのだ。
本当に、胸糞が悪い思いで一杯だった。
そうして、まるで小動物のように怯えているセルザを前にして。イザベラ、小さく息を吐く。
少し、やりすぎたか。これではまともに話ができたものではない。
「まあ、一切の行動の理解ができないわけではありませんが。……大方、出てこなかったのも、手持ちの証拠で私に対する反証ができないかと模索していたからでしょうし」
結果的に、保身であることには代わりはない。あの場における最善手はたしかにそれであったが、同時に、取ることができない手段でもあった。
であるならば、次善の策を取るべきだった。自分こそが事実上の犯人であり、裁かれるべくは自分である、と。矢面に立つべきだった。
「セルザ、もしかして、貴女が……」
「申し訳ありません、お嬢様」
「信じてもよいのか、と。私は、そう、聞きましたよね?」
「……はい。そして私は、お嬢様を裏切りました」
そう、はっきりと答えたセルザに。ルイーズは唇を横一文字にキュッと閉じる。
そうして、悔しそうな、苦しそうな表情を浮かべながらに。セルザのことを見つめてながら。しかし、それ以上のことは告げない。
そうして、重々しく、静かな空気の中。
セルザはゆっくりと立ち上がり。そして、アルベール様の方へと、しっかりと向き直す。
「アルベール殿下。今回の事件は、私の独断で、私が実行したことです」
「聞こう、続けてくれ」
「イザベラ様を陥れ、ルイーズお嬢様に彼女の断罪をさせようと計画し。情報の操作や誘導をしたのは、間違いなく、私です」
そのまま、彼女は実行した事柄についての自供を始めた。
イザベラも、予測はしていた。
今回の事件、引き起こした人物がいるとするのならば、絶対にブランシャール家かエルフェ家の関係者であろう、ということは。
なにせ、そもそもの記録の改ざん。これを行うだけならば別の人間でも不可能、というわけではないだろうが。しかしながら、それらの記録が不自然でないようにするためには、内部の人間の協力が必須であろう。
だからこそ、イザベラも事前に自家の関係者については調べた。無論、サーシャに対しても同様に。
彼女についてはイザベラ個人の恣意的感情が交じることが明白だったので、ギルスに頼んでやってもらい。それ以外の人物につてはサーシャに頼んだ。
その結果、おそらくは、問題がないだろう、というくらいには確認は取れた。さすがに期間が短かったこともあり、完全に洗い切れはしなかったが。
だが、それと並行して調べていた、エルフェ家の事情から。どうにも疑わしい動きが見えた、ということで。そちらに、一部シフトをした結果が、これだった。
つらつらと、自供されていくその罪に。ルイーズはやりにくそうな面持ちでそれを聞く。
彼女の感情は、痛く理解できる。
なにせ、セルザの行動の理由には、ルイーズのため、というものが見えていたから。
裏切った、というのは。たしかに真ではあったものの。しかし、そこにはルイーズに対して花を持たせようとしていたセルザの姿もたしかにあった。
だからこそ、ルイーズとしても、複雑な感情なのだろう。
「……私も、自身の従者とは十分な意志の疎通ができていませんでしたよ」
隣に立ちながら、イザベラはルイーズに向けて、そう小さくつぶやく。
ルイーズは、やや俯き気味だった顔を上げてながらに、ほんの少し、口を開く。
「イザベラも、ですか?」
「ええ。私も抱えていた事柄をサーシャに伝えていいものかと悩んでいた結果、彼女に必要以上の心配をかけてしまっていました」
結局のところ、言葉が足りなかった、会話が足りなかった、というところに尽きるのだが。皮肉なことに、実際に事が起こらないと不足に気づくのも難しい、というのも事実ではあり。
「お互いに、お互い様ではあった、ということですね」
「今回のことも、結局、お互いにお互いの罪を信じきれず、そのことばかりを疑っていたわけですし。……なんだかんだで、正反対で似ていますわね。私と、イザベラは」
「今に始まったことではないでしょう」
そうでもなければ、というわけではないだろうが。しかし、寄宿学校時代からずっと、好敵手として張り合いつつ、競い合い高め合ってきたのだ。
今更、といえば今更ではあるだろう。
「……あのときは、本当に安堵したんですわ。イザベラが、やっていない、と。そう確信したときは」
「私としては、驚きましたよ。していないはずの罪をあっさり受け入れようとしたんですから」
「ふふ、イザベラが無実だと知れて。安心して。けれど、私が掴まされていた情報は偽物ばかりだと知った以上、私がこれ以上暴れたところで下手なことにしかならないと思いましたし。それに、変にイザベラに飛び火したら嫌だったのでね」
ルイーズは、そう小さく笑いながらに言った。
「それでは、沙汰を言い渡すが。いいだろうか」
「……ええ、罪を犯した以上、なにも言い逃れは致しません」
セルザが、アルベール様からの言葉を受け入れる体制を取る。
それを見たルイーズは、サッとその立ち姿勢を直して。そして、イザベラに向けて言葉を差し出す。
「さて、私は私の成すべきことをしてきますわね」
そう、彼女は言うと。
なににも負けないような、しっかりとした足取りで。アルベール様の前に出ていく。
「アルベール様、ひとつ、よろしいでしょうか?」
「ルイーズ。ああ、認める。なんだ?」
「従者の不始末は主の不始末。察知できず、かつ、セルザの発言を信じた私にも責任があり。それでありながら切り捨てるように逃げるなど、言語道断」
その声音は凛々しく。そして、立ち居振る舞いは堂々としていて。
「無論、だからといって罪を犯したセルザが赦されるとは思っていませんの。彼女には、罪はあって然るべきではあります。だからこそ――」
それでこそ、ルイーズらしい、と。そう、思わせるような表情で。
「私も、彼女と同様に。罪を被りますわ」
そう、言い放った。
「これで、一件落着って感じかな?」
ぼふっ、と。イスに座り込みながら、マリエルがそう言う。
そんな彼女に隣にいたミシェルが慌てながらにオロオロとして。
「……まあ、褒められた行為ではないですが、公式な場ではないですし。アルベール様も取り込み中ですから」
本来ならば、アルベール様からの許可がない状態で、というのはよくないだろうが。しかし、現在アルベール様はルイーズの沙汰をどうするべきかということで話している最中ではある。
許可を出せる状態ではないし、マリエルたちも入室してからかなり時間が経っているので、特別叱られる、ということも、まあ、ないだろう。
「それから、まだ、解決ではありませんよ」
「……えっ? でも、今回の件はセルザさんの仕組んだことだってこと解決じゃないの?」
「それはたしかにそうなんですが。でも、まだ、全貌ではないと思うんです」
イザベラの言葉に、マリエルは「へ?」と間の抜けた声を出す。
そんな彼女を後ろにしながら、イザベラは現在話し合っているアルベール様と、としてルイーズとセルザの元へ行く。
「ひとつ、よろしいでしょうか」
「ああ、イザベラも当事者だからな。構わない」
アルベール様からの許可を得て、イザベラもその場に同席する。
アルベール様の隣、ルイーズたちと対面する席に座らせてもらって。そして、ルイーズ。
……ではなく、その隣にいる、セルザに向けて問いかける。
「聞きたいことがあります。今回の、動機についてです」
そう。事件にはどうやって起こったのか、誰が起こしたのか、ということに加えて。なぜ起こしたのか、ということがある。
かつてのマリエルが、イザベラを守るために、という理由で動いたように。
「理由としては、ルイーズのため、というところではあると思います。ですが、聞きたいのは、どうしてそれが今回の件に発展するまでに大きくなったのか、ということです」
セルザがルイーズのことを信奉している、というのは自然な話だ。だから、彼女が引き起こした動機としてそれがあるのは理解できる。
だが、それに至るにしては、急に引き起こしている。
それこそ、それだけの想いが元々あったのなら、先んじて、イザベラがアルベール様と婚約する前に動くことだってできたはず。そうなれば、現在のようにイザベラがアルベール様と婚約する現実は無く、そこにはルイーズがいたかもしれない。
そうなれば、仮に今回が成功していた場合の結果よりも、いい結果になっていただろうに。
「……きっかけは、一通の手紙でした」
その言葉に、この場にいた全員が、少々の心当たりを思い浮かべる。
イザベラとしては、ある意味予想通りではあったが。しかし、それについて、ルイーズが納得しているのが少し驚いた。
「……まさか、あの破棄した手紙ですか?」
「申し訳ありません。勝手に、読んでしまって」
「なるほど。それで、あのふざけた内容を読んで、そして乗っかってしまったのですね」
呆れた様子で、ルイーズは小さく息を吐いた。
「説明いたしますわね。……しばらく前、私のもとに差出人不明で、とある手紙が届きましたの」
手紙の内容は、イザベラを引きずり下ろす策がある、というもの。
それを見た彼女は、ふざけたことを言ってくれる、と。すぐさま手紙を破棄したものの。しかし、それをセルザが拾ってしまい、そして今回の事件につながった、と。
「……やはり、協力者がいましたか」
「やはり、とは?」
イザベラの言葉に、アルベール様がそう尋ねる。
「今回の事件、セルザさんがひとりで起こすにはやや困難な部分が多いんです」
それこそ、データの改ざんについても。たしかにひとりでできなくはないものの。エルフェ家の従者ひとりでやれる範囲はやはりどうしても狭い。
特に、従者だけでは、ということで。信用面や権力面から突っぱねられることも多いだろう。
そこを、強引に押し通すための協力者がいたはずであり。おそらくは、改ざんの主導はその人物であり、改ざんするにあたってのデータの提供などをセルザがしていたものだと考えられる。
なんなら、計画の主導や立案などはその協力者からのものだった、とのことらしい。
「そして、その協力者が。協力を持ちかけてきた手紙の差出人だ。というわけか」
「はい。そしてアルベール様、この流れには、どこか覚えがありませんか?」
「……ああ、それについては、私も同様に思っていた事だ」
マリエルやミシェルも、同様に小さく首を縦に振る。
ルイーズやセルザは知らないことではあるが。しかし、この流れには。
差出人不明の手紙。協力者が、作戦提供。
「まるで、ミシェルのもとに来た手紙みたいだね」
マリエルが、そう言う。
そう。ミシェルのところに来た、アルベール様の襲撃計画のときと、同じ。
「その口ぶり、まさか――」
「ええっと、その……」
驚いた顔をしているルイーズ。ミシェルは、気まずそうな顔をしながら。その隣で苦笑いをしながらにマリエルが言う。
「うん。私もミシェルも、ちょーっとやらかしちゃってて」
「ちょっとではないでしょう、ちょっとでは」
「あう……」
イザベラの指摘に、マリエルが縮こまる。
それに、マリエルは自発的に行ったことという大きな違いはあったりする。
「……でしたら、それなのにどうしてふたりになんの処遇も降っていないのです?」
「それについては……」
イザベラが一瞬答えようとして、しかし、そこで止まる。
ルイーズは、アルベール様の事情のことを知らない。だから、これを勝手に説明するわけにはいかない、と。
そう思って、どうしようかと迷っていると。
「私の命を狙っている手合がいる」
そう、キッパリと言い切った。
「……よろしいのですか?」
「ああ、ここまで来てそこを説明しない、というのも無理な話だろう。それに、ミシェルの件と同じだと判断するならば、今回の件も同様に関わっている――間接的に私の命を狙ったものだと判断していいだろう」
ゆっくりと顎を撫でるアルベール様。その対面では、首を傾げながらにルイーズが質問を投げかける。
「しかし、それならばどうしてイザベラのことを狙ったのです?」
その疑問については、至極真っ当なものだろう。
アルベール様が事情を説明したのならば、イザベラも話さなければならない。
イザベラの話した事情に。予知夢の話などは突拍子もないだろうから半信半疑になりながら、ルイーズが話を受け取る。
「そういえば、今回の件についても。まるで予期していたかのように準備をしていましたが。まさか」
「そう、ですね。少々ズルではありましたが、ルイーズから糾弾される、ということは予知夢で見ていました」
「いえ。そのおかげで、私は無罪の友人を裁かなくて済んだのですから」
どこか納得した様子で、ルイーズはそうつぶやく。
「それから、マリエルとミシェルについては行動の根本の動機などもあり、少々危うい可能性は加味しつつも、確実な味方として置いておくために、事実上の不問とした、というわけですね」
「大まかにはそうなる。実際の沙汰としては、イザベラの味方をして、手伝うように、ということではあるが」
「なるほど、理解しました。ついでに、イザベラが寝不足気味になっていた、その理由についても」
ふう、と。ルイーズは息をつく。
「全く。イザベラはいつもいつも、ひとりで抱え込みすぎなんです。だからこそ、この間も倒れて――」
「なにも言い返せませんね」
「言い返す必要もありません。本当にイザベラは……」
こんこんと説教をしてくるルイーズにイザベラが大人しく聞いておると、アルベール様がその様子を見て、楽しげに笑う。
「仲がいいのだな、ふたりは」
「まあ、なんだかんだでイザベラとは付き合いは長いですからね。マリエルほどではないですけど」
「……うん。そうだな、ルイーズにも、マリエルやミシェルと同じ沙汰を言い渡そうか」
優しく笑いかけながらに、アルベール様はそう言う。
「お言葉ですが、私はそこのふたりほどイザベラのことを慕っているわけではないですよ?」
「ああ、だが好敵手として認めている。だが、そもそも実行に移していない。それに――」
アルベール様はそう切り出すと、ニッコリと、楽しげな表情を浮かべながらに、言う。
「私に、イザベラを守れと真っ先に言いに来たのは君だったろう? 今となって理解したが、アレは件の手紙を受けたから、私に忠告しに来てくれたんだろう」
「…………」
その言葉に、ルイーズは顔を真っ赤にしながら俯いてしまう。
「どう、いうことですか? アルベール様」
「いや、イザベラは知らなくても大丈夫な話だ。私とルイーズで、少し前にした話のことだからね」
よく、わからないが。まあ、なにかあったのだろう。
「まあ、加えて。そもそも先刻も言ったように、マリエルとミシェルについてを不問にしている理由に、話を大きくしないため、ということもある」
セルザひとりならば、それこそ普通に処分を下していただろうが。ルイーズも一緒、となると。そう簡単には行かない。様々な話が飛び交うだろうし。そうなると、話が大きくなりかねない。
だからこそ、特段ルイーズを特別扱いする、というわけではなく。これまでと同じように処理をする、というだけではある。
無論、ルイーズが信用できる、というベースがあっての話ではあるが。
「そういうわけだから、ルイーズの方からもぜひこれを受けてくれると、私やイザベラとしても嬉しいのだけれども」
「……なるほど」
ルイーズは、目を伏せ、少し考える。
そうして、しばらくして。ルイーズは顔を上げて、アルベール様とイザベラの顔を順に確認してから、コクリと頷いて。
「わかりました。その条件で、こちらからも受けさせていただきます」
ルイーズのその言葉に、イザベラもアルベール様も。安堵した、その瞬間。
「ですが、その前にひとつだけ。確認をしておきたいことがあります」
と、ルイーズが、なにかを前置いた。
そうして、ルイーズはイザベラの方へと真っ直ぐに向き直ると。
「イザベラ。たしか、予知夢で見たのは、毒殺未遂と、マリエルの襲撃。それからミシェルの襲撃に、私の糾弾、と。そう言いましたわね?」
「え、ええ。そうですが――」
「本当に、これで全てですか?」
「――ッ!」
ルイーズのその指摘に、イザベラは思わず息を呑む。
同時、この場にいた、イザベラとルイーズ以外の全員が目を丸めて驚く。
「……よく、わかりましたね」
「言ったでしょう? 私も、イザベラとは付き合いがそこそに長いんです。マリエルには負けますが」
「そのマリエルも気づいていなかったわけですが」
「ふふふ、では、好敵手だから。ということで」
楽しげに言うルイーズに、ちょっと傷ついているマリエル。
イザベラは深呼吸をしながら少しばかり気持ちを落ち着けてから、言う。
「はい、たしかに直近で見ていた予知夢は、もうひとつあります。ですが、それについてはアルベール様の命に直結する夢ではなくて。どちらかというと、私の個人的な事柄に近いことで」
「あら、イザベラ。今回のことを忘れたとは言わせませんわよ? ちょうど、アルベール様の命に直結しない案件ではあったものの、関連はしていたわけではないですか」
ルイーズの言うとおりだろう。
なんなら、現状となっては、よくわかる。
夢の中で突きつけられていた罪状たちは、全て、ここまでイザベラが防いできたことばかりだ。
「……私の言い方も悪かったな。命に関わることがあれば、すぐに伝えてくれ、と言っていたが。もう少しフランクに使ってもいい、と言うべきだった」
アルベール様は、そう言って謝る。
そうして、アルベールはイザベラの方へと向き直って。真剣な表情で。
どこか、懐かしい声音で。
「イザベラ。君はとても聡明な人間だが。けれどもしかしたら、と考え込んでしまうところが欠点だな。だからこそ、困ったときはまず動いてみるといい」
だから、その夢についてを話してくれないか、と。




