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2-2 酔っ払い

僕と東郷さんが家を出たのは、もう夜の11時を過ぎた頃だった。


「やば〜世界が回るわ〜」


 東郷さんは道の端から端までフラフラになって歩きながら、電柱にぶつかる。


 ゴッ。って、まぁまぁな音がしたけど……、


「あの、大丈夫ですか?」


「大丈夫大丈夫」


 そう言いながらも、東郷は電柱に抱きついて離れようとしない。


 これほど酔っぱらった大人の人を見るのは初めてで、僕はどうしたらいいか分からなかった。


 じぃも心配そうにパタパタと東郷の頭の周りを飛び回っている。


 とそこへ、


「君、何してるの。いくつかな?」


 その声に振り向くと、警察官が二人立っていた。


「十五です」


「一人?」


「いえ、そこに保護者が」


 僕が電柱を指し示すと、警察官はそちらにライトを当て「おあっ」と驚いた。


「何してるのあなた」


 東郷さんはカブトムシみたいに電柱に抱きついたままピクリとも動かない。


もしかして、寝てる?


「ちょっと、飲み過ぎちゃって……」


「お父さん? にしては、若いよね?」


「あーえっと、親戚の叔父さんです」


「叔父さんとなんでこんな時間にこんなところ歩いてるのかな?」


 うわー。これって、補導だよな。


「叔父さんを家まで送っていくところで」


「君が、叔父さんを? ご両親はどうしてるの」


「えーと、母とはさっき、別れてきたところで」


「別れた? もしかして家出?」


「違います。丁稚奉公です」


「丁稚奉公は労働基準法で禁止されてるんだけど。怪しいね君たち。ちょっと署まで来てもらえるかな」


「えっ」


 東郷さーん! 僕は内心東郷さんに泣きつくが、東郷さんは相変わらずカブトムシ。


「ちょっと待ってください。僕たち別にやましいことは何も」


「それなら警察署に来ても問題ないよね」


「うぷっ」


 東郷さんが急に動いたと思ったら、警官の方を振り向いて思い切りリバースした。


 見事なリバースだった。


 警官は胸から下まで東郷さんの吐き出した物まみれ。


「あースッキリした。って、あれ?」


 東郷さんは辺りをキョロキョロ。


「君、警察署まで来てもらうよ」


 完全に怒った警察官が、手錠を手にした。


「いや、それは勘弁です。すいません」


 東郷さんは素早く僕の手を取る。次の瞬間、僕は見知らぬマンションの部屋の前にいた。


「ごめんドア超えれなかった。鍵開けて〜」


 東郷さんがその場にしゃがみこみながら、鍵を僕に差し出す。


 どうやらここが東郷さんの家らしい。


「今、瞬間移動しましたよね……」


「そだよ〜」


 東郷さんは何事もなかったように言う。


 もう東郷さんといると驚くことばかりで、何が普通かわからなくなってくる。


 僕はもらった鍵でドアを開ける。電気をつけ、

「汚っ!」

 思わず叫んだ。


 玄関先から廊下の先、部屋の方までゴミだらけ。


「ただいま〜」 


 東郷さんは這うようにして家に入り、玄関に倒れこむとそのまま眠ってしまった。


「東郷さん、起きて。こんなところで寝たら風邪ひきますよ」


 僕はドアの鍵を閉め、東郷さんを部屋の中までなんとか引きずっていった。


 ベッドも寝るスペースはあるものの、飲み終わったペットボトルやコンビニの袋が散乱している。


「どういう生活してたんだ、この人」


 普段の清潔感からは想像もできない汚部屋に僕は幻滅しながらも、床で眠りこける東郷さんを見つめる。もう起きる気配はない。


 本当はベッドに寝かしてやりたかったけど、東郷さんは見た目よりも筋肉質で重くて持ち上げるのが無理だった。


「ジィッ」


 じぃが僕の反対側から、毛布を咥えて東郷さんにかけるのを手伝ってくれた。


「ありがと、じい」 


「ジィッ」じいは嬉しそうに鳴くと、ベッドの上で丸まった。


 僕も眠くなってきて、床はもう足の踏み場もないのでベッドを借りる。


 不思議なことに、これだけゴミに囲まれていながらベッドからは新緑のようないい香りがする。


 目を閉じると、すぐに眠気が襲ってきた。


「先が思いやられるな」


 独ごちながら、僕は眠りに落ちた。



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