1-6 東郷 瑠生(とうごう るう)
そこには、同姓でも見惚れてしまうほどの美顔があった。
この人には生涯敵わないのだろうな。ふと、そんな気がした。
「東郷瑠生だ。こちらこそよろしく。早速だけど、お母さんに挨拶に行こうか」
「お母さんに?」
「うん。時間がないからね。颯希にはうちに泊まり込んで試しのための術を覚えてもらうよ」
「そうなんですか。でも、学校は?」
「もちろん通うよ。俺も仕事があるし」
「仕事、してるんですか?」
「そりゃしてるだろう。じゃなきゃどうやって食べていくのさ」
「え、龍騎士って仕事なんじゃ……」
「あんなの、慈善事業だよ。多少の報酬はもらえるけど、割に合わない。てゆうか、そういう次元で考えるべきものじゃないからね。お国を守れて光栄です、って思わないとやっていけないよねアハハ」
って、笑い飛ばせるところがすごいな、この人。
「そうなんですね……」
学校にいきながら厳しい修行なんて、自分にできるのだろうか。急に不安になってきた。
「まあ、なんとかなるよ。なんとかしなくちゃいけないし。じゃ、俺一回社に戻らないといけないからさ。準備して颯希の家の前で待ってるよ。颯希もこの後部活出てくんでしょ?」
そう言いながら、東郷の服が和装からスーツに変わる。夢でも見てるみたいだ。
けれど、スーツ姿の東郷を見て、
ほんとにこの人会社員なんだな、と妙に感心する。
あくまで僕が生きるのは現実の世界なんだ。
ファンタジーなんかの作り物とは違う。生き延びるために、この道を選んだ。
「じゃ、次元を出るよ。一旦、部室に戻った方がいいかも。急に君が道場に現れたらきっとみんなビビるからね」
「そりゃ、ビビりますね」
僕は言われた通り、一度東郷さんと一緒に部室へ戻った。
「じゃあ、後でね〜」
ゆるく言うと、東郷さんは姿を消す。
これで、何か変わったのだろうか?
終始説明不足で、僕には何が起こったのかよくわからない。
「キャアアッ」
急に女子の悲鳴が聞こえて、僕は驚いて振り向いた。
「ぎゃあああっ」
慌てて僕はまた壁の方を向く。
女子が、着替えていたのだ。ブラジャー姿なんて見てない。見てないからっ。
ひどいよ、東郷さんっ!
「ごめんっ、誰もいないと思って」
「早く出ていってください」
「ご、ごめんごめんっ」
平謝りに謝って、僕は部室を駆け出した。
道場では、先に来た部員たちが稽古を始めていた。
いつも通りの平和な日常風景がそこにある。
「おお、颯希。遅かったな」
道場の端で後輩に指導していた関谷が僕を振り返る。
多分、この道場に来るのは今日で最後だろう。
「関谷、一本頼む」
関谷は不思議そうな顔をしたけれど、快諾してくれた。
防具をつける。つけながら、今までこの身がどれだけ守られていたか、そんなことを思う。
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