3-12 帰宅
うわー黒狐の一族なんだ。
そりゃないわぁ。
「うん、そうだよ。分家同士歪みあってる場合じゃないって。両家を統合しようとしてるみたい」
「そんな、教えが違うのに統合なんてできるわけない」
「実はもう、一回お見合いしたんだ」
「いつ」
「先週の日曜日」
「俺が鯰を落とした日か」
東郷さんが顔を曇らす。
結果、地震の被害はそんなに大きくはなかった。
だが、鯰に地震を起こさせてしまったこと自体が、東郷さんにとっては許せないことらしい。
「あっ、それじーちゃん怒ってたよ。何やってんだって。また報告もないし」
「そんなことより、見合いの話だよ」
「あ、誤魔化した」
「結婚、するのか?」
「したくないよ。でも、案外悪い人じゃなかった」
「ええっ!?」
というのは、僕の心の声が表に出てしまったものだ。
「あの人、龍を足蹴にしてましたよ」
「あぁ、それは別のやつだな。里付近の担当のやつ。ゴサは、こちらの方で一回会ったやつだ。ほら、おまえに試しを仕掛けてきた」
「ああ! あの人!」
どちらにしろ、芽衣さんにおすすめできるような人ではない。
「もう少し、どういう人か知りたくて。普段の姿を見てみたくて、こっち来てみたんだ」
「だったら直接会いに行けばいいだろ。俺だって音夢で遭遇するくらいで普段の生活なんて知らないよ」
「だからさ、音夢に連れてってよ」
「本気で言ってるの?」
東郷さんが顔を顰める。
「本気だよ。だって、結婚するかもしれないんだよ? たぶん、する。させられる。長老たちが言い出したら逆らえないもん。そしたら、一生一緒にいなきゃいけないんだよ。子どもも作らなきゃいけない。それがどんな人か知りたいって思うのは、当たり前でしょう」
それはその通りだ。
東郷さんもわかっているから、黙り込んでしまう。
「でもやっぱりダメだよ。危険すぎる。何かあったら責任取れない」
「そんなに危ないところなの?」
「鯰がどういう動きをするかわからないんだ。隠れるやつもいる。知能の高いやつもいて、こちらが思わぬ行動を取ってくることもある」
「自分の身くらい自分で守れるよ」
「だからダメだって。俺は連れていけない。それよりまともに何回かデートをしてお互いを知る方がいいんじゃないのか?」
「だって、二人きりになったら何話していいかわからないじゃん」
「無駄に人見知りだよなあ、お前」
「無駄は余計でしょ! もう、もうちょっと親身になってよね! もうあんたがど唸っても助けてあげないよ!?」
「それ医者としてどうなんだよ」
「あんたに医者の倫理観突かれたくないわ。もういい。役立たず。帰る」
そう言って芽衣さんは立ち上がる。
東郷さんはスマホで時刻を確認して、顔を顰める。
「もう終電ないだろ。熊に食われるぞ」
「ホテルに泊まるに決まってるでしょ」
「予約とってないんじゃないのか?」
「どっか探せば一軒くらい空いてるところあるでしょ」
「じゃあ、俺も行くよ」
「来なくて結構! もう23時過ぎるし、その子帰さないと補導されるよ」
「あ、そうだった」
補導には初日の苦い思い出がある。
「じゃあねッ」
芽衣さんはさっさと出口に向かってしまっている。
「こら待てってば」
慌てて伝票を持つ東郷さんの手から、僕が伝票を預かる。
「僕、一人で帰りますよ。まだ23時前だし。走って帰れば間に合います」
「ごめん。じゃあ、そうしてもらっていいかな。あいつああ見えて結構酔ってるから」
東郷さんは、僕にクレジットカードを渡して、芽衣さんを追っていった。
「なんだかんだ、やっぱりほっとけないんだな」
でも、芽衣さんあの黒狐と本当に結婚するんだろうか。
黒狐に強かに打たれた肋が、痛んだ気がした。
この作品悪くない
少しでもいい
と思っていただけましたら、ページ下の方の
⭐︎マークでポイントや評価、ブックマーク
を、よろしくお願いいたします!




