3-6 ガッツポーズ
じぃが僕を甘噛みする。
すぐに僕は元の東郷さんの部屋に戻っていた。
「東郷さん、大変そうだな」
「ジィッ」
「クゥッ」
じぃも紅も同意する。
僕も、頑張らなくちゃ。
「よしっ! 練習の続きだ!」
とにかくやってみよう。
僕は、再び本に手をかざす。
できるはずなんだ、絶対に。
そうして、三時間。結局何も起きないまま過ぎてしまった。集中しすぎて疲れだけが残っている。
東郷さんはこれをどれくらいの期間でできるようになったのだろう。
僕が項垂れていると、うたたねをしていたじぃがとことこと歩いて僕の側に寄ってきた。
僕の横でフーッフーッと息を吹き始めた。
「じぃ?」
どうやら、東郷さんの言っていた龍の能力とやらを使おうと練習しているようだ。
「そっか。自分も頑張るからおまえも頑張れって言いたいんだな」
じぃは僕の顔を見上げ、「ジッ」と返事する。
すると紅射もその横に来て、フーッと息を吐く。その瞬間ボワっと炎が舞い上がって僕は大慌て。
「わっわっわっ!」
火の粉が側にあったティッシュに移り、燃え出した。
「やばい! 水、水!」
僕は慌てて駆け出し、流しに向かう。その背後でジュッと音がした。
振り返ると、火は消えて床が水浸しになっていた。
「じぃが、消してくれたのか?」
「フーッフーッ」
ビシャーッビシャーッと、じぃの口から噴水みたいに水が飛び出てくる。
「うわーっ。すごいじゃないか! できるようになったんだね!」
「フーッフーッ」
ビシャーッビシャーッ。ブシャーッ。
じぃは大喜びで水を吐き続け、しまいにはバケツをひっくり返したような大水を床にぶちまけた。
「ちょっ、もうわかった! わかったからストップ!」
僕が今度は雑巾を取りに行こうとしたとき、あのキーンという耳鳴りのような音がした。
「これってーー」
鯰だ。
一気に緊張が走る。
心臓が早鐘を打ち始めた。
「どうしよう。東郷さん、いないし。出先から向かってるのかな」
でもきっとまだ仕事中だよね。
僕が、行かなくちゃ。鯰の角を斬れば良いだけなんだから、簡単だ。
刀は、見習い用のを預かってきた。
でも、どうやって?
瞬間移動だよね。
キーンという音がしてきたその先に鯰がいる。その先ーー。目の前には、窓しかない。
その先には閑静な住宅街が広がっている。
こちらの次元ではない、鯰のいる次元を見るんだ。
物に囚われるな。物質はまやかし。
僕はぼんやりと外の風景を見てみた。物が輪郭を失い、世界がぐにゃりと曲がる。
手を伸ばせばすぐそこにある。僕の行きたい場所。行くべき場所。
僕が鯰を止めなきゃ、地震が起こってしまう。
僕は結界を破った時のように、ゆっくりと一歩を踏みだした。
耳元でギュンと風が唸り、次の瞬間僕はどこかの街中にいた。ビルが沢山ある。その中に見覚えのある物があって、そこが新宿だと気づいた。
移動に成功したのだ。
「やった」
僕は思わずガッツポーズする。だが問題はここからだ。




