3-4 会社員
そんな魔法みたいなことできるのかと不安に思うが、今まで散々ありえないことを見てきたのだ。
僕にだってできるはず。
「できると思えばできるし、できないと思えば一生できない」
僕は本に手をかざす。距離にして2メートルくらい。
来い来い来いと念じてみる。
本に動く気配はない。微塵もない。
自分で歩いていって取りに行った方がはるかに早い。でもそう言う問題じゃない。
できると信じる。信じ切ることが力になる。
「ん〜〜〜〜〜〜ッ」
僕は力を入れすぎて息するのを忘れてしまっていた。
「ダメだっ」
酸欠になって、その場に倒れる。
できると信じろと言われても、できる気がしない。
もしかしたら、これが僕が「遅すぎる」って言われた理由なのかもしれない。
黒狐は、僕が修行を始めるのが遅すぎると言っていた。
もっと幼い頃なら、人が言うことを疑わなかっただろう。
物を手を使わなくても自在に動かせたり、瞬間移動できたり、そう言うことを手放しに信じることができて、それがそのまま力になったんだ。
今の僕はどうだ。
酸欠で白くなった視界が次第に晴れてくる。
目の前に映る天井。
部屋の壁。全てをこの身体がすり抜けてどこか別のところへ行くなんて、考えられない。
東郷さんがやっているのを見たり経験させてもらったりしているけれど、僕にとってはそれが現実味のない出来事として捉えられてしまっている。
「感覚かあ」
東郷さんは、この感覚を覚えておいてね、と言っていた。
「感覚でできちゃう人って、人に教えるのは下手だよなあ」
東郷さんを責めるわけではないけど、やっぱりもう少しレベルを落として教えて欲しい。
そうは言っても、やるしかない。
東郷さんが術を使う時の、感覚。そうだな。大体心地よい風が吹いている気がする。
じいと紅射がベッドの上に仲良くならんで僕のことを見守ってくれている。
龍も瞬間移動する。それは誰に教わったことでもないのだろう。きっと、本能だ。
術を使う時のは、本能とは違うかもしれないけれど、きっと自分の持っている本来の力みたいなものを呼び起こすんだろう。
それは確かに感覚なのだろうけれど、僕はつい頭で理屈を探してしまう。
「じぃは、できるんだよね、瞬間移動。僕をどこかに連れていってくれないかな? もう一度、感覚を確かめたいんだ。できる?」
じぃは頼まれたことが嬉しいようで、僕にはしゃいで近づいてくる。
「待って、靴を履くね」
玄関に行って僕が靴を履いたところで、僕の腕に抱かれたじぃが、「はむっ」と僕の腕を甘噛みにした。
途端に周りの景色が変わる。
東郷さん風に言うなら、シュッとして、ぽんって感じだろうか。
それにしてもここはどこなのだろう。どこか、建物の中のようだった。
会議室みたいなところだ。電気は消えていて、誰もおらずガランとしている。
奥から人の声が聞こえた。男の人が怒鳴っているようだ。
奥の扉の中だ。
なんだろう。
僕は気になって、足音を立てないように気をつけながら、奥の扉に近づく。
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