3-3 わっとしてどんっ
『ごめん。会社から呼び出しくらった。マンションの下に自販機あるから、玄関の貯金箱のお金使ってなんでも好きなもの飲んで』
「日曜日なのに大変だな」
「東郷さん、働いてらっしゃるのですね」
玉藻も驚く。
「どうしてなんだろうね」
「さぁ。私は日本社会で働いたことがないのでなんとも」
「僕もだよ」
これじゃ、ほんとに僕の修行どころじゃないな。
「紅射はこのまま預かっていていい?」
「もちろん。東郷さまに懐いておりますし、きっと恩返しをしたいともお思いでしょう。無理に名付けなくとも、側に置いておくことはできますから」
「わかった。ありがとう」
「それじゃ私はこれで」
「もう行くの?」
「はい。次の卵がもうすぐ産まれそうなので」
「そっか。じゃあまたね」
玉藻は去りかけて、ふと止まる。
「名付けのこと、もう一度考えてみてください。龍騎士ならば誰でも名付けができてしまうのです。東郷さんの優しさが、仇となってしまうことがないように……」
玉藻はそこまで言って苦笑する。
「考えすぎですね。龍騎士様もこの日本のために動いているのですからね。また、伺います」
玉藻はそう言うと、押し入れに戻っていった。
そこに、玉藻の住む世界と通じるドアのようなものがきっとあるんだろう。
僕もちょっとやそっとのことじゃ驚かなくなってきた。
「さて」
僕はテーブルに着くと、雪兜さんからもらってきたノートを開く。
試し、に関することが書いてある。ようするにアンチョコだ。
全て暗号で書かれているから、別の暗号表を頼りに読み解かなければならずかなり難解だった。
でも、学校の勉強よりは楽しい。
試しで行われる術は、結界術と物理移動。
それから刀を使った形。これは剣道の形と似通るところがあって、覚えるのはそう難しくなさそうだった。
ただ、実戦があるらしいのでそこが不安に思う。
だがやはり一番の問題は、全く経験のない先の術2つ。
今まで僕が生きてきた世界の常識をまるで捨てなければならない。
試しとして、結界は対象物にかけるのと、解くのができればいいようだ。
物理移動は、自分が移動するのではなくて、対象物を一瞬で移動させることができらば合格。
自分が瞬間移動するよりはずっと簡単、らしい。
昨日、東郷さんに掛けられた結界を解くことは出来た。
借りてきた東郷さんのノートをめくる。
結界に関しての記述をようやく見つけて、暗号書を手に解読する。
『わっとしてぎゅっとしてドン』
……。
解くほうの記述を読んでみよう。
『うーってして、パンッ。もしくはスッ』
僕はそっとノートを閉じた。
これ、暗号にする意味ないよね。日本語の時点で既にわからないんだから。
昨日雪兜が教えてくれた具体的な感覚の方がわかりやすかった。
出発する前に、物理移動のやり方も、少し教えてくれた。
念。念力。
とにかくそれが要らしい。
僕は部屋の中を見回して、ベッド脇に置いてある本に目を付けた。
あれを手元に引き寄せてみよう。
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