3-2 龍の名
「ありがとうございます。ですが、わたしもこたび学んだのです。龍様にとっては、人に尽くすのか喜び。花の妖精が人を癒すためだけにあるように、龍様もまた人に尽くす試し生まれてきたのです」
「うん。なんかそれは教わった。でもさ、自分のために龍が傷つくのはやっぱり嫌だから。俺のエゴに過ぎないことは、わかってる」
困ったような顔をする玉藻の後ろから、ヒョイと薄紅色の龍が顔を覗かせた。
「おっ。紅射龍ちゃん。おいで」
紅射龍は、おずおずといった感じでゆっくり東郷のところへ飛んでいく。
東郷は手の甲に龍を乗せ、頭を優しく撫でた。
「よかったな、治って」
「くぅっ」
紅射龍は気持ち良さそうに鳴く。
「名付け親となられますか?」
「いや、いい」
「いいーー」
玉藻は呆気にとられたようだった。
「何故です。じいは颯希さまが名付け親となられてますし、名付けの龍がおりませぬといざという時ーー」
「それが嫌なんだ」
東郷は玉藻の言葉に被せるように言った。
「名など、なくてもいいんじゃないか?」
言って、東郷は立ち上がる。
「コンビニ行ってくるよ。ちょっとくつろいでて」
東郷が部屋を出て行ってから、僕は名付けの意味について玉藻に尋ねた。
「東郷さん、大事なことなのに教えてないんですか」
玉藻は驚きながらもそのことを教えてくれた。
「名は龍にとって縛りです」
「縛り?」
「名付け親とその龍は深い関係を持ちます。龍は親を決して裏切らなくなる。たとえば名付け親がその龍の名を呼び、真名を賭して『死ね』と命ずればその龍は自らの意思に関係なく自死します。これをもって他を殺すこともできる。命じられたことをやり遂げるまで、その龍は止まらなくなる」
僕はそれを聞いてゾッとした。
そんな恐ろしいものだとは知らず、安易に名をつけていた。
「でも紅射龍は何故黒狐が名をつけなかったのだろう?」
「この龍様が雌だからでしょう。雌は雄よりも力が劣りますから。黒狐様は既に、名を付けた龍を何体もお持ちで、いざという時は自分の身代わりとなるように命じてもいるようですし」
つまり、名を付けるまでもない捨て駒だったと。
僕ははらわたが煮えくりかえる思いだった。
「その点、東郷様は真反対。東郷さんの身が心配にはなりますが、私は東郷さんの龍様を尊重してくださっている考え方の方が好きです」
「龍騎士が名付けの龍を持たないのは危険なことなの?」
「そりゃあ、龍様でなくば喰えぬ鯰もおりますし。いざというとき、身代わりとなる龍様がいなくば、自分が死にます」
「そうなんだ……」
東郷の前の龍、碧は、それで亡くなったのかもしれない。東郷の身代わりとなって。
少しずつわかってきた東郷のこと。
彼の性格なら、そうさせてしまった自分が許せないことだろう。
「あれ、東郷さんからエーテルだ」
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