2-9 目のやり場
雪兜の庭に降り立つと、雪兜が出迎えてくれた。
「思ったより早かったな」
「歩いたら消えました。あんな簡単なことなら、もっと早くてもよかったです」
「それだけではない。音も使ったであろう」
「あ」それを言われて思い出した。僕は叫びながら手を打った。それが良かったのか。
「音は結界を消す。だが、術の真理を理解したからそれができたのだ。無理解で歩いたところで、結界は解けん」
「東郷さんは?」
「奥で寝ている」
「大丈夫なんですか?」
「医者にも見せた。霊障による火傷と、過労も溜まっていたらしい。点滴を打ってもらっている」
「過労――」
「瑠生は少し変わっている。龍騎士は特殊な役目。本来なら俗世を離れることも許されている。だが、なぜかあやつは世間との関わりを断ちたがらない」
「働かなくていいってことですか?」
「働く必要がない。住むところも、生活に必要なものも全て一族の資金から支給される。でもあいつはそれらを全て拒んで今の生活を続けている。師は変えられる。お前が望むのなら、他の者を推薦してやろう。儂としても、若い芽を摘みたくはない」
働かなくていいなら、その方がずっと楽なはずなのに。どうしてわざわざきつい道を選ぶのか。
僕にはその理由はわからなかった。
でも、
「変わってるけど、いい人です。僕は、東郷さんだから弟子になりたいと思いました」
僕がそう言うと、雪兜さんは苦笑した。気のせいか、少し嬉しそうだった。
「ならばこの忠告はこれきりだ。今夜はここに泊まっていけ。風呂も沸かしてある」
意外な親切に僕は驚かされる。
「あ、ありがとうございます」
「しの、あとは頼んだぞ」
はいはい、と雪兜と入れ替わりに縁側へ現れた小柄なおばあちゃん。
「すみませんねえ、昼間は買い物に出掛けていて。妻のしのです」
「あ、奥様ですか。すみません、急に押しかけて」
「いいえ。いいんですよ。これまで何も出来なかったもの。お世話が出来て嬉しいわ」
そうか。雪兜の奥さんってことは、僕のおばあちゃんにあたるのか。
「さあさ、そんなところに立ってないでお上りなさいな。お食事の用意も出来てますからね」
僕は、しのさんに促されて食堂へ行く。
そこには、たくさんの料理が用意されていた。
僕に合わせてくれたのだろうか。唐揚げや海老フライ、ハンバーグにオムライス。若者が好きそうな料理がまず目に入ったけれど、魚の煮付けや佃煮、おひたし、煮物に焼き魚。渋めの料理もある。
箸は二人分用意されていた。雪兜さんは食事は済ませたみたいだし、しのさんが一緒に食べるのかな? と思っていると、勢いよく食堂の戸が開けられた。
「あーお腹空いたあ。おばあちゃん、今日の夕飯なに?」
そこに入ってきたのは、下着姿の若い女性だった。
僕はギョッとして、目のやり場に困って、咄嗟に俯いた。
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