2-6 赤い龍
じぃが龍の姿に戻って東郷の周りを旋回する。そのたびその身体が大きくなってゆく。
「乗せてくれるのか」
「ジィッ」
「すまんな、じいを借りるぞ颯希」
僕はそれで初めて気づいた。
じいは僕が名前をつけてしまったばかりに、僕の龍なのだ。
それじゃあ、東郷さんの龍はどうなるのだろう。
東郷さんはじいにまたがり、空中へ舞い上がる。
黒い煙が、木枯らしのようになって辺りを舞っていた。
目を凝らしてみると、さっきの鯰よりももっと大きい、けれど実態のないような、黒い煙の塊のようなものが長い何かを咥えて振り回していた。
東郷さんはじいを操りそれを掻い潜り、鯰の側面にまわり込み鯰に飛びかかった。
見事触角を斬り落とし、落下していく東郷さんをじいが拾い上げる。
見事な連携技だった。
鯰が苦しみながら、咥えていた何かを地面に投げ捨てる。
血飛沫を上げながら地面に打ち付けられたそれは、赤色の龍だった。
「ちっ」
その龍が倒れる寸前、そこから飛び降りた者がいる。
黒狐の面をした、あの男だった。
「使えん龍が!」
怒りに任せて、黒狐がぐったりした龍の顔を足蹴にした。
龍の身体が萎み、柴犬ほどの大きさになった。
それをさらに黒狐が踏みつけようとする。
「やめて!」
僕は思わず叫んだ。
それと同時に、まだ大分高いところから東郷が飛び降りた。
東郷は龍を蹴ろうとしていた黒狐の身体を突き飛ばした。
「貴様、何をしている」
黒狐が怒りに任せて刀を抜く。東郷がそれに応じた。
「龍を足蹴にするな」
鍔迫り合いの中、東郷の怒りに滲んだ声が響いた。
「こんなものは捨て駒だ。役に立たぬものを排除して何が悪い」
「龍は神だぞ! 私どもの使役ではない!」
「それは白の教えだ。黒では、龍は我ら人間さまの使役として教わっている」
「だとしても、身を削って人のために働く龍を足蹴にするなど俺が許さん」
「そうやって龍を甘やかすから鯰に逆喰われるようなことになるのだ。それが龍にとってどれほどの屈辱であろうな? 貴様は龍を貶めたのだぞ。どうだ!」
黒狐が東郷を弾き飛ばす。倒れたその鼻先に刀を突きつけた。
「人は龍を使わねば鯰を倒せぬのだ。使え、龍を。先程のような無茶は、命を縮めるだけ。この人手不足に、馬鹿なことで死なれては敵わぬ」
言い終えると、黒狐は刀を納めた。
「この龍はやる。治療代の方が高くつくからな。名付けもしてない。好きにしろ」
黒狐は姿を消した。
倒れた東郷さんの拳が握られるのを、僕は見てしまった。
あんなこと言われて、僕も悔しい。
事情はよくわからない。でも、あの黒狐が嫌なやつってことだけはよくわかった。
東郷さんはむくりと起き上がると、地面に横たわる赤色の龍の側に寄った。
「ごめんな。人間のせいで」
東郷さんは龍を抱え込むようにしてその身体に抱きついた。
ジュッと音がして、焦げたような臭いが漂う。




