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東のエデン(前編)

セラが来てから数日経った。

セラはツバキたちが言ったように今まで色々な人、物を見てきたようで知っていることは多かったが何故それがあるのかなどの知識は十分ではなかったため、ノエルが兄弟子として基礎から教える事になった。

「まずは東のエデンの設立について説明する」

世界地図を取り出し、日ノ本を指さしながら東のエデンの設立について話始めた。

それは今や一般人が読む、おとぎ話の様になって伝わっている。


◯●◯●◯


今から数千年以上前から、ある聖道が有名となり、元々各地で習わしや風習と共に、不思議な事を起こしたり、(まじな)いをする者は異端として迫害され、『魔女狩り』と称して火刑や斬首刑にされていった。

何故魔女狩りが盛んになってしまったかという背景には当時の流行り病や天候不良で不作が続き、何もしない法王や王族たちに対して民衆の怒りを向けないためのお触れを発行した流れがあった。

その中にはにお金目的だったり、妬み、嫉みから相手を告発して魔女に仕立て上げた者もいた。

魔女を捕まえると告発者には報奨金がもらえ、身内で魔女が出た家族は勾留中の食費や処刑にかかった費用を全て負担しなければならなかった。

その為、魔女と告発された大抵の家族はそれで無一文になっていた。

時の三賢者も追われる身でありながら相手が本物であれば、迫害されている者たちを守ったり、消されていく風習を途絶えないように密かに動いていたが伸ばせる手には限界がある。

居場所がない旅が長く続きどんどんと仲間が倒れていく中、極東にある国では異端者として扱われている者達が仕事として生活をしているとの噂を何度か聞くことがあった。

その何度目かの話で、危険が伴うがその噂をわらにもすがる思いで残り少なくなった仲間と『日ノ本』にたどり着いた。

そこで見たものは西方では見つかれば魔女、異端者と言われる者たちが国の仕事として生活している信じられない光景だった。

地域などによって名称は違えど、亡くなった者と会話するイタコ、神通力を使う陰陽師、占いをするユタ、星を読んで世界の流れを把握する聖占術、色々な術を使う忍びなど多岐にわたる職業があった。

三賢者たちは何度も願状(がんじょう)を送り、国に仕えている一人の陰陽師の口添えもあって帝と謁見する場を与えてもらった。

日ノ本以外の国の実情を伝え、この国で世界では異端として扱われる者たちの居場所を与えてもらえるよう願い出た。

しかし、帝はそれを許してはくれなかった。

地の果てまできて、もうこの世に自分たちの居場所はないのだと諦めようとした者たちは自害しようとその日の夜話し合っていると昼間、帝に会えるよう口添えをしてくれた陰陽師の男が三賢者に会いに来た。

「今から女帝が会いたいとの仰せだ」

今更なんだと他の者達は文句を言ったが、三賢者は『女帝』という言葉が気になった。

昼間謁見したのは男性の帝だった。

男の眼差しからも何かがあると感じ取った三賢者はその申し出をありがたく受けるにした。

向かっている場所はどうやら昼間会った場所ではないと気付いた三賢者は警戒しながら付いていった。

案内された場所は満月がとても良く見えるが一般人が到底来ることが出来ない崖の上にある屋敷だった。

案内されるがまま奥へ進んでいくと綺麗な女性が居た。

本来ならば(すだれ)で身を隠す位高貴な方なのだろうがこちらの立場を気遣っての対応だったと後に聞かされた。

連れてきてくれた男から話を聞くと、表の政治を行うのは男性で裏の政治を行うのは女性ということだった。

昼間お目通りした帝は世界の状況に心を痛めていたが、表立って日ノ本で異端者…日ノ本では『異能力者』と呼ばれる者たちを集めるのは世界から注目を集めすぎて一般の民を危険に晒すことになる。

だから裏の政治を行う女帝に託すことにしたという。

その女帝の名は『瀬織津姫(せおりつひめ)』と言う。

瀬織津姫はここまでの苦労を労う言葉を掛け、この地で暮らす許可を与えた。

そして、これからの事を共に考えようとそれから毎夜、三賢者と意見を交換し『東のエデン』という組織を作り上げた。

基盤を整えるのに数十年を費やし、最後の一押しとしてどうしても会わなければならない人物がいた。

いくら日ノ本で公認となったとしても異能力者は世界中に居て、全ての異能力者を集約するには日ノ本はあまりにも小さすぎる。

そのため、支部を設立する必要があり、その鍵となるのが世界を飲み尽くすくらい信者を抱えて『魔女』『異端者』として扱っている聖道のトップである法王だった。

三賢者は当時の法王は世代交代しているが方針は変わっていないだろうと命をもって会いに向かったが意外にも謁見までの流れは苦労することもなかった。

事前に瀬織津姫が法王に向けた手紙を八咫烏で送っていたからだろうかあまりにも簡単すぎて拍子抜けした。

だが、会えると分かったとしても相手が歓迎してくれているかは別だった。

会って即火刑もしくは斬首刑にされてもおかしくはない。

文字通り命を掛けた法王との謁見が始まった。

三賢者は今の世の流れを続けて行くことがどれだけ恐ろしいことか、今している事がどれほど他の聖道を侮辱し、罪深いことかを話し、最後に法王がまとめ上げている聖道の神は本当にこの様な事を求めて認めているのかと投げかけた。

聞き終わると、法王は長い沈黙の後本当の聖道とは違った伝わり方がしている今の世界のあり方に憂いていた。

過去の法王が犯した罪は許されるものではなく、自分が法王になってから行ってきたことをとうとうと話し始めた。

王族に異端者審問を止めるよう命令をしても効力はなく、識字率が低く文字などが読めない平民から税を取り立て、貴族が犯罪を起こしても免罪符を発行してお咎め無しといった状況だと。

疲れ切った表情を見ると本当になんとかしたいと思い、行動してきたことが伺えた。

だが目の奥にはまだ何か出来ないかと求めるものが見えた。

「そなた達は何か妙案があるのか?この状況を変えることの出来る奇策が…」

願うような眼差しを三賢者に向ける。

三賢者は瀬織津姫と共に作り上げた組織を法王に伝え、承諾を願い出ると法王は涙を流し「ありがとう」と頭を下げた。

その場にいた法王の周りの者たちは驚き、狼狽したが三賢者は真剣な面持ちで静かに次の言葉を待った。

法王は一呼吸着き、三賢者ひとりひとりの顔を見つめた。

「認めるには今ある規則をさらに付け加える必要があるが、どうだろう、もっと話をしないか?」

憔悴(しょうすい)が見られた表情は前途洋々(ぜんとようよう)とした顔に変わっていた。

それから三賢者は今まで作り上げてきた物を全て提示し、法王へ組織を公認し長い期間になるだろうが希望的観測を捨てず力あるものは人のために、しかし争いの火種とならぬように色々な条約をはさみながら『東のエデン』を確固たる形としていった。

最初の数百年は裏で人と異能力者の間で争いはあったものの折り合いをつけ、決めてあった規則を守ることでお互いの生活などを確立することに成功した。

今も三賢者は居るが当時の三賢者ではない。

ただ、名前は継承している。

メルキオール、バルタザール、カスパールの名前で。

日ノ本の瀬織津姫は今も変わらず息災で組織に関わっている。

法王も世代交代しているが当時の法王が決めた法案は守られたままとなっている。


◯●◯●◯


「以上が東のエデンの細かい設立内容だ」

一般の民が読むおとぎ話とは違い、東のエデンが一般公開している正式な内容をできるだけ詳しく話したつもりだった。

じっとノエルの話しに集中して聞いていたセラは今まで自分が見てきたものと答え合わせをしているのか頷きながらも時々首を傾げていた。

「何かある?」

「東のエデンって何でそう呼ばれてるの?

「元は神話に出てくる色々なものたちが住まう楽園の名前だったんだ。そこから世界から排斥された異能力者が心穏やかに住めるようにとの願いから付けたみたいだよ」

「ふぅん…このマークは何?」

指さしたのは世界地図の日ノ本の位置する場所の近くに書かれたマークだった。

「あぁ、これは東のエデンのマークだよ。方位磁針は己の道を踏み外さないように、中心にあるりんごは神話に出てくる禁断の果実の象徴でそれを食べた者は追放された。そこから東のエデンの規則を守らなければいけないという戒めみたいなもんかな」

「なるほど…」

頷きながらじっと見つめている。

「さて、もうお昼だからもっと細かい話しは午後にしよう、食事の用意するよ。セラ手伝って」

「分かった」

テキパキとよく動いてくれるのでノエルとしてはとっても可愛い妹が出来たような気がするが、

「おい、キノコは僕の皿に絶対入れるなよ」

「言い方!あと好き嫌い駄目!」

口が悪いし僕っ子だった。キッと睨みを効かせるがどこ吹く風状態だ。

セラはツバキには懐いているようだが男性陣には冷たい。

見た目は可愛いのに言う言葉は可愛くない。

「セラ殿、そのような言い方はよくありませんぞ」

人の姿になって食事を手伝い始めたヤタさんはたしなめる。

「うるさい、羽むしるぞ」

「…怖いですな」

「…同意」

日に日に鋭い言葉遣いが増していくのは気の所為だろうか、気の所為でありたい。

そう強く願いながら昼食の準備をすすめていく。


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