歓迎会
歓迎会の途中、セラは眠りについてしまった。
「変身もエネルギー使うからねぇ」
ツバキはセラを起こさないように抱き上げると、2階にあるノエルが用意した彼女の部屋へ連れて行った。
その様子を目で追いながら、ヤタさんを見ると、微笑ましそうに見つめている。
「新しい家族というのは良きものですね」
「うん。まぁ、かなり驚いたけどね」
まさか、ツバキが妖精の王族を見つけてしまうとは思わなかった。
改めて自分の主は何者なのだろう、まさか日ノ本の神様クラスの地位では?と考えを巡らせたがそもそも神様クラスなら日ノ本が国外から出すことはないだろう。
(アホらしぃ)
ふと周りを見渡すと呼んでも居ない妖精がいつの間にか宴の席に混じっている。
「招待していないはずだけど?」
どうせ今日祝い事があるということは前々から知っていて宴の席だから多少混じってもバレないと思っていたのだろう。
だが身内だけでやっていたので招いていない客は一目で分かる。
本来、妖精の王族の近衛兵として大体側にいるスプリガン、いたずら好きなドビー、確か先ほどは白い犬の姿をしていたパッドフット、そしてひときわ目を引く美しい女性は近隣の妖精国の王、オリルーンの娘トリアムールが居る。
他にもいつも顔を見せるピクシー達とは違う水の精アスレイたちも居る。
「あら、バレてしまったわね」
美味しそうに牛のスペアリブを食べ終わったトリアムールがいたずらっぽく舌を出す。
「だってここの家族になる子でしょう?私達の家族じゃない」
妖精とは国の線引が曖昧なのかどこの妖精の国の王族もツバキ含めここに住んでいるものは全て『家族』扱いにしたがる。
時折起こる、『どこの子どもたちでショウ大会』と称して音楽、武芸、魔法を使ってのお祭り騒ぎは(正直どっちでもいいだろ!)
とノエル自体は思っているがツバキは嬉しそうにお呼ばれされている。
こういう場もツバキなら「いいじゃん、いいじゃん」といってボギーでない限りは歓迎するだろうが自分はツバキと違ってこういう時ですらなぁなぁに許すタイプではない。
「こちらの祝にお越しになってくださったということは、何か下賜してくださるものがあるのでしょうか?」
他の妖精たちが来ると予想はしていたので大量にご馳走は用意しておいたが今はほとんどが空になっている上に、出費はものすごい。
たしか、今日のご馳走だけで2,3ヶ月分位の食費が吹っ飛んでる。
トリアムールは王女だが過去人間の妻だったこともあるせいかこちらの常識が通じるところがある。
ノエルは笑顔から何かしら感じ取ったのか慌てて口を拭く。
「そ、そうよ。あるわよ、ちゃんと!」
そう言うとスプリガンに目線を送る。するとちゃっかり食べている手を止め、いそいそと小さめの風呂敷袋を渡してきた。
「これは我が父、オリルーン王からの贈り物よ」
自信たっぷりに「さぁ、見て驚きなさい」という顔をしているが、普通出すのは一番最初だろうにと思いつつも礼は欠かさない。
「ありがとうございます」
さて、どんな物が入っているのかなと風呂敷を解くと魔法が付与された風呂敷だったらしく、広げた瞬間中に入っていたものが一気に目の前に積み重なりあまりの量にノエルが埋まってしまうくらいだった。
「なに…これ」
やっとの思いで贈り物の山から出てくるとトリアムールはご満悦そうに堂々と言い放つ。
「私が厳選に厳選を重ねた、ドレスですわぁ」
ヤタさんは目をパチクリしているが、ノエルは分かっていた。そうこの姫は可愛いものに目がない。
しかし限度があるだろう。呆れて半眼になりつつも一応質問はする。
「これを着てどこへ行けと?」
「どこへでも!あ、我が国にも必ず来てくださいね。女の子は可愛く着飾るべきなのです!ツバキにまかせていたら地味な物しか着なくなってしまうでしょう?そんなの勿体ないじゃなくて?可愛いものこそ最強なのです!」
「うちは王室とかじゃないんですよ!こんな量の服が入る部屋があるわけないでしょう!」
ノエルは元の風呂敷に全て突っ込んでトリアムールにお返しした。
「あら、下賜されたものを返すなんて非常識ですわよ」
「すいませんね、うちは狭いので入り切りません。お気持ちだけで結構です」
「じゃぁここではなく、我が国に引っ越してきてはいかがかしら?」
「ツバキが動かないと決めているのでお誘いはありがたいですが結構です!」
風呂敷を押し付け合いながら言い合いをしていると、先程のスプリガンが割って入ってきた。
「わが国王からの正式な贈り物はこちらでございます」
「なんですって、贈り物は私が用意すると父上にはハッキリいいましたのに!」
(いや、娘の事を分かっているからだろう!)
悔しそうなトリアムールとは放おっておこう。
「ありがとうございます」
礼を述べると、渡された包を開く。
これまた魔法がかけられていたのか包よりも大きいものが入っていた。
ノエル、トリアムール、ヤタさん、スプリガンで入っているものを覗き込む。
入っていたのは、外套、ミスリルの短剣、色々なものが入るポーチ、ベルト、方位磁針、大きなガーネットが組み込まれた杖だった。
「さすが、王様、全てが一級品ですね、必要なものもよく分かっていらっしゃる」
「これは…方位磁針ですかな?」
「そういう意味でもつかえるけど、多分それは持ち手が行きたい場所、探している物の場所を示してくれるやつだと思う」
以前、街の子供が帰ってこないと相談があった時、ツバキが使っているのを見たことがある。
「ほぉ~」
ヤタさんにとっては見るもの全てが日ノ本にはないもの、もしくは形状が違うものなのか目を輝かせて見ている。
2人の反応を見ながら、スプリガンは満足そうに頷いている。
トリアムールはなんだかんだ言いつつ2人の喜ぶ姿が嬉しいのか反応を確認するとまたご馳走を食べ始めた。
そんな姿をヤタさんはチラリとみるとノエルの方へ寄ってきた。
「今日はアレを出しても良いのではないでしょうか?」
含み笑いをしながら小声で話しかけてくる。
そうか、『アレ』は今日という日にぴったりではないだろうか。ノエルも同意し『アレ』をキッチンの棚から出してきた。
その瓶をみた妖精達は一様に喜んだ。
◯●◯●◯
寝かしつけたのかツバキが降りてくると苦手な匂いが立ち込めていた。
ダイニングまで行くと、先ほどは紛れていなかった酒好きな妖精、クルーラホーンまでもが来て楽しそうにしている。
宴としては各自、自由に楽しんで欲しかったのでツバキは紅茶とつまみを持って応接室でのんびり過ごすことにした。
皆は好きだがツバキが苦手なもの…それはお酒だった。
飲めるようにしようと頑張った時もあるが体質的に駄目だった。
そして下戸の魔法使いなどというなんとなくムカつく異名を猫たちに付けられてしまった。
自分としては飲んだくれの魔法使いよりマシだろうと思っている。
先ほど、ノエルから渡されたオリルーン王からの贈り物を確認すると何も書かれていない用紙とペンを取り出し、そこに相手が居るかのように感謝の言葉を言うとペンがサラサラと動き、最後には用紙が鳥の形となる。
窓を開けて鳥を放った。
その後、改めてじっくり贈り物を見つめていた。
その日はツバキが来てから一番と言えるほどに、夜遅くまで宴で盛り上がっていた。